魔王と勇者殺し その1
あれから自警団が無事に町の衛兵へと昇格して、町の人間たちにもすっかり馴染む。
近年、ダンジョン目当てで町にやってくる冒険者たちが大なり小なり問題を起こしていたが、その件数も立派な衛兵が巡回する事で少なくなった訳だ。
おかげで治安が良くなったと町民も喜んでいる。
そして、ダンジョンの入口にも立派な衛兵の拠点が完成した。
拠点が丁度ゲートとなっている感じで、ダンジョンに出入りする冒険者はそこでチェックを受ける。
町の冒険者ギルドとも連携しているので、どのパーティがダンジョンに入っているかを把握できるわけだ。
そんな時期の頃、町に一人の勇者がやって来た。
「それで、エイラムさん。今、町で噂になっている勇者が気になると」
「ダンジョンの第八階層まで進んだって聞いたから」
「それなら、この前会った別の町から来た冒険者はどうだった? あいつらも第八階層までは到達しているだろ?」
「あの魔闘士の二人組? あれは確かに強いけど魔界じゃ珍しくない戦闘スタイルだし、魔法使いと格闘家が二人がけでやっている時点で勇者でも敵でもない」
勇者と言うのは一言で言えば、特殊能力を持って異世界から転生してきた人間だ。
だから、幾ら強い人間でも特殊能力を持っていなければ勇者ではない。
そして今回、魔王の娘が気にしているのは、その特殊能力を持つ人間であると。
「それで、たった一人でダンジョンの第八階層に到達した勇者の能力が気になると」
「うーん、まあそんな感じ。そうでなくても勇者はチェックしなきゃいけないんだけどね」
「そうなのか? 初耳だな」
「あれ、言ってなかったっけ? 魔王と敵対する意志のある勇者は厄介だから、成長する前に刈り取る事になっているの」
物騒な話だなあ。
だが、魔王側の言い分はもっともだ。
「勇者を片っ端からやっつけるんじゃないのか?」
「もー、アイスくんは短絡的だなあ。そんな事をしたら悪目立ちしちゃって、世界中の勇者が結託して魔王に歯向かうから駄目なんだよ」
「と言う事は、倒す相手は選ぶと?」
「能力がショボかったり、懐柔できそうなのは基本放置かな? 勇者って言っても殆どがそんなのだから、態々殺しに出向くなんて事は滅多に無いんだけどね」
要は、歯向かってこない限りは魔王側も手を出さないって事か。
この辺の方針は、女聖騎士に対するものと同じだな。
基本は生かすってのが魔王に似合わず何とも平和的である。
「成る程、だから町に来ている勇者の事が気になると」
「そういう事だけど、ダンジョンの第八階層まで、しかも一人で行くって事は相当強いかもだし、簡単に誘惑に乗ってくれる勇者じゃないと殺さなきゃいけないし……はぁ、面倒だなあ」
「何だ? 誘惑って色仕掛けでもするのか?」
「ち、ち、ち、違う!! お金とか名声とかそういうでの誘惑だよ。それに、勇者が男か女かどうかもまだ分からないし」
軽い冗談のつもりだったが、顔を真っ赤にして慌てて否定をする魔王の娘が何だか可愛らしい。
確かに、噂だけでまだ実際に会った事も見た事もないな。
冒険者ギルドの名簿やダンジョン入口を守っている衛兵に話を聞けば、少しばかりの情報は分かるだろう。
しかし、やはり本人をこの目で見て見極めたいという魔王の娘の気持ちも分かる。
殺し……か。
いざ行うとなれば、やはりダンジョン内。
できれば避けたい事態だが、それも勇者次第でどうにもならない。
「もうっ、とにかく噂の勇者に会えるように何とかして!」
「それじゃあ、とりあえず俺がダンジョンの正面入口まで行って衛兵に話を聞いてみるよ。運が良ければダンジョンに入っているかもしれないし」
「おー。そういう事なら私も一緒に行きたい!」
「いいのか? 空振りかもしれないぞ?」
「私も新しくなったダンジョンの入口を見たいから。あそこ、一人だと行き辛かったんだよね」
そういう事か。
確かにダンジョン入口にできた衛兵の拠点が稼働してからは、ダンジョンに出入りする人間は監視されるからなあ。
そこを特に用もなく一人で出歩くというのは怪しまれそうだし、できればやりたくないな。
「わかったよ。準備は大丈夫か?」
「いつでもオッケー。早速行こう」
そんなわけで、俺と魔王の娘はダンジョンの正面入口までやってきた。
そして、姿の変わったダンジョン正門を見て、魔王の娘が驚いている。
「おー、すごいすごい。立派なのが完成している」
以前までのダンジョンの出入口の前には、立派な門と両脇を固める形で衛兵用の施設が左右に建つ。
正面の門さえ通れば衛兵の施設を通過する事なくダンジョンまで直行できるが、その出入りは衛兵がしっかり監視できる仕組みだ。
更には、門近くでトラブルが起きようものなら、位置的に衛兵が施設から飛び出てくる。
「ダンジョンからモンスターが地上に攻めて来る事はないから、ここまで大がかりに守る必要無いんだけどね」
「だが、町の人間の大半はそんな事は知らない。だから、守りは万全だと住民は喜んでいたぞ」
そう考えると、むしろ今までよくもまあ放置していたもんだな。
町の人間がダンジョンを思った以上に恐れている事にもっと早く気付けばよかった。
俺や父上みたいにダンジョンの出現経緯を知っていた故に、まったく脅威に思っていなかったのがまずかったか?
「とりあえず、俺は門を守る衛兵に勇者の事を聞いてみるよ」
「じゃあ、私は周辺の施設を見学しようかな?」
こうして、俺と魔王の娘は新しく完成した傭兵の拠点で、各々を目的を果たすことにした。




