武器の調査 その4
魔王の娘に付いて行った先はダンジョンの入口だった。
ドワーフのいる場所には、確か以前にも父上に連れて行ってもらったはずなのだが。
──肝心の行き方を覚えていないな。
「ここから行くから、手をつなぐよ」
魔王の娘はそう言って俺の手を引いた。
さっきの口付けのせいで、手を握られた事を地味に意識してしまう。
なんだが気恥しい。
「ここを抜けるから」
と、魔王の娘が言ったかと思うと、いきなり壁をすり抜けていった。
そして、俺も驚く間も無く手を引かれ、眼前に壁が近づいてくる。
「うわッ!」
思わず目を瞑ったが、体が壁に叩きつけられた感覚は無い。
恐る恐る目を開けると、そこは一本の通路になっていた。
「驚いた? ここ、ダンジョンの管理者用通路なんだよ」
「初めて見た……」
「出入りする時は、さっきみたいに私と一緒じゃなきゃ駄目だから注意してね」
ああ、だから俺の手を掴んで引いたのか。
壁をすり抜けたのも魔法の一種なんだろうが、見た事の無いものだ。
だが、魔界と人間界をつなぐゲートを出す魔法が使える魔族にとっては、大したものではないのだろう。
「通路を進んだ先に階段があって、そこを降りたところにドワーフさんたちが集まっている施設があるの」
そう言って、魔王の娘は先へと進む。
何故か手を握ったままなので、俺も半分引っ張られるに近い形で歩み始める。
まだ、手を握ったままではないと駄目なんだろうか?
「こうやって二人で歩いていると、なんだかデートしているみたい」
こんな、薄暗いダンジョンの中でデートかよ。
いや、人間の世界ならともかく、魔族の世界ならこういう景色も案外普通なのかもしれない。
「ああ。まあ、その、手をつないでいるせい……かもな」
「そうそう、手をつないで歩くのも悪くないよね」
そう言って、魔王の娘は上機嫌でいる。
ご機嫌なのは何よりだが……。
「ところで、この手は何時放したらいいんだ? もしかして、この中にいる間はずっとなのか?」
「えっ!? 出入口の壁を抜ける時だけでいいけど……って、ごめん。手を放すの忘れてた!!」
そう言って、魔王の娘は握っていた俺の手を慌てて解放した。
そして、何だか恥ずかしそうにしている。
……忘れていただけかよ。
「か、階段を下りた先がドワーフさんたちの居場所だからね」
「それはさっき聞いたぞ」
ちょっとだけ気まずい空気になりつつ、歩くこと数分。
魔王の娘の言った通りに降りの階段があった。
魔王の娘と俺は階段を降りた。
そして、降りた先には大扉が見える。
扉を魔王の娘が開けると、そこは広間になっていた。
そして、忙しく歩き回る小人たちの姿が見え、数十人は居る感じだ。
「やっほー! こんにちは」
魔王の娘が小人たちに声をかけると、代表者らしい何人かがこちらへとやって来た。
その姿は二頭身……いや、一頭身に近い感じの背丈と顔の大きさのバランス。
男も女も髭面でシワのある老人に近い感じの厳つい風貌で、いかにも威厳がありそうな顔をしている。
「これはこれは、お嬢。今日は何の用件で?」
「この前話したエルフの武器の事で、分かった事があるから報告に来たよ」
「ところで、そっちの人間は?」
「地上の町の町長の息子さんだよ。このアイスくんが調べてくれたんだ」
「ああ、あの町長殿の息子か」
小人ことドワーフたちが俺の事をジロジロと見ている。
もしかしたら以前に会った事があるのかもしれないが、ドワーフたちの外見の区別がつかないのでよく分からない。
しかし、こう珍獣の様に観察されるのは、あまり気分が良くないな。
「もうっ。こんな怖い外見しているから、アイスくん怯えてるじゃん」
「いや、そんなこと無いし。それに、外見についてそういう言い方は失礼じゃあ?」
「あっ、もしかしてアイスくん見た事無いのかな?」
魔王の娘は、いきなりドワーフたちの頭上の髪の毛を……いや、頭の皮を掴んで持ち上げる。
すると、当然ながら頭から体ごと持ち上がる……のではなく、頭の皮だけがすっぽりと抜けてしまう。
そして、中から三頭身くらいの子供が出てきた。
「あっ、こらっ! 何するんだ!?」
「えへへっ。ドワーフさんたちこんなに可愛いのに、普段はこんな被り物しているんだよ」
あの厳つい顔だと思っていたのはマスクと言うか、小さな全身を覆う着ぐるみみたいなものだったのか。
そして、その正体が子供の様な外見の小人だとは。
何と言うか、ギャップもあって無茶苦茶可愛い事だけは確かだ。
「もうっ。こんな外見だから、エルフや人間から馬鹿にされない様にあれを着ているのに、台無しじゃないか」
「えーっ、こっちの方が可愛いのに……」
成る程、噂に聞く「ドワーフは女でも髭が生えていて厳つい」と言うのはこういう事だったのか。
この可愛らしい外見を隠すための仮装。
まったく、それに気づかず人間は見事に騙されていたわけだ。
「それで、そこの兄ちゃん……いや、町長の息子の坊ちゃんがエルフの武器について話してくれると」
「私から話してもいいけど、そっちの方が手っ取り早いか。アイスくん、お願い」
ただ見学するだけって訳にもいかないか。
だが、いい機会だからドワーフたちと会話するのも悪くない。
俺は、女聖騎士から聞き出したエルフや聖騎士の事、そして武器の事についてドワーフたちに話をする事にした。




