武器の調査 その1
女聖騎士とダンジョンに入ってから変わった事が二つある。
一つは女聖騎士が自警団の改革に乗り出した事。
そして、もう一つは魔王の娘が武器屋を頻繁に出入りして、武器の流通について熱心に調べ始めた事だ。
「うーん、やっぱりエルフの武器が流通している形跡はないみたい」
「この前、俺や女聖騎士が言った通りだな」
「裏で流通しているかも……って考えて念のために武器屋の店主さんにも頼んで調べてもらったけど空振り」
仮にエルフの武器が流通しているとしたら、ダンジョンから算出される武器の価値が下がってしまうからな。
そうなるとダンジョンの価値そのものが下がってしまって、近くの街の収益にも影響が出てしまうわけだ。
うちとしては安心できるものの、魔王の娘が熱心に調べていたのはそれだけじゃないみたいなのが気になる。
「ところで、エイラムさんはどうしてそこまでしてエルフの武器について調べているんだ?」
「そんなの、万が一にもドワーフの武器に対抗できるのがあったら困るからだよ」
また『ドワーフ』か。
この単語は魔王の娘との会話で何度も聞いている。
特にエルフ関連の話題の時に事欠かせない存在だ。
「確か、そのドワーフがダンジョンから算出される武器全般を作っているんだよな?」
「武器だけじゃなくて、防具やアクセサリ、アイテムなんかもそうだよ」
「それで、確かにダンジョン産のアイテム全般に対して競合するライバルが出たら、町の経済的は困るけどさあ」
「それだけじゃないよ。ドワーフさんたちもエルフと戦うのが困難になって大変なんだよ」
ドワーフとエルフの仲が悪いという話は前にも聞いている。
しかし、それがどうしたのいうのだ?
「人間側や魔王側にとって、ドワーフとエルフの戦いは関係ないと思うんだが」
「えー? むしろ人間側にとって深く関係のある話だと思うんだけど。いるんでしょ? 『森』っていうエルフの領域を奪いたい人間が」
そんな馬鹿な!?
いや、確かに森を開拓して都市や農地を増やしたいと考える領主がいるという話は噂程度に聞くなあ。
そこにエルフが住んでいれば、当然ながら奴らとの戦いは避けられないと。
「まさか、ドワーフは俺たち人間にエルフを狩らせるためにアイテムを供給しているのか!?」
「うーん、ドワーフさんたちはそうかな? 魔王側としては、それに限った話じゃないけど」
思わぬところでダンジョンの存在理由を一つを知ってしまった。
少なくとも無限に湧き出るアイテムにも、結局のところ対価は存在するわけか。
だが、それならば態々ダンジョンなんて回りくどい事をしなくてもいいのでは?
「素朴な疑問なんだが、武器を横流しするだけじゃあ駄目なのか?」
「強い武器だけ手に入れても、それを使いこなせる人がいなかったら駄目だと思わない? 前にも話したかもだけど、ダンジョンには人間を育てる目的もあるんだよ」
「武器の配布と人材育成の両立か」
「そういう事。それに、いきなり武器を配っても怪しまれて中々受け取ってもらえないかもしれないし」
怪しまれずに人間を鍛え上げ疑われずに武器を渡す、そのためのダンジョンって訳か。
成る程、上手くできている。
おかげで、表の顔としてそれをサポートする俺たちも儲かるし万々歳だ。
「それじゃあ、結果としてはエルフに邪魔されている事もなく、今まで通りドワーフの武器が流通するしで問題ない訳だな」
「今のところはね。でも、これからはどうなるか分からない。だから、教えて欲しいの。アイスくんが知っているエルフの情報を」
エルフの情報と言われてもなあ。
今まで話したのが俺の知っているすべてで、そもそも殆ど知らないし。
それに、仮に知っていたとしても魔王側に話していいものか──。
いや、隠したところで別のところから情報を仕入れそうだな。
そうなるとバレた時が厄介だ。
やはり知っている事は素直に話して信用を得た方がいいか。
「うーん、エルフの事と言えば前に話した通り聖騎士と繋がっている事とか、善なる存在とされている事くらいだなあ」
「もっと無いの?」
「後は、国家方針含めてエルフには友好的かつ協力的で、ドワーフたちが思っているほどエルフと敵対している人間は少ないし、いたとしても表立って行動するのは難しいんじゃないかって事くらいか」
「なるほどねえ。思ったより人間と密接な割には、人間はエルフの事をよく知らないんだ」
「エルフは人前に出るのを嫌がるらしいからな。そうじゃないなら、町にエルフの一人くらいは来るだろ? それこそエイラムさんみたいに」
自分で言っておいてだが、確かにエルフが町に来たなんて話は聞いた事がない。
少なくとも直接行動する厄介な存在ではないのだろうな。
何かあるとすれば、エルフと関係のある聖騎士団って訳か。
「ふーん。じゃあ、他にエルフに詳しそうな人がいるとすれば、エルフとつながりのある女聖騎士しかいないか」
「だと思う。俺どころか町長の父上ですら知らないとなると、下手すると国の役人でも知らないだろうし」
「それじゃあ、こっち側に取り込まないとね、あの女聖騎士を」
女聖騎士も運がいいな。
最初は殺せと言われていたのに、正当に生かす理由ができたのだから。
だが、その役目、やっぱり俺がやるんだよなあ……。




