聖騎士のダンジョン視察 その1
以前、俺が迂闊にも女聖騎士にダンジョン探索を勧めてしまって一月程だろうか?
とうとう彼女の方から町長の息子である俺に、ダンジョンに入ってみたいと相談をしてきた。
「それで、ライト様。一緒にダンジョンに入ってくれる人を探して欲しいと言う事でしょうか?」
「はい、できれば。本当は自警団の方々と一緒に訓練も兼ねて入りたかったのですが……その、やはり私は避けられている様でして……」
女聖騎士の言い分と現状は、俺の方で既に裏を取って把握している。
確かに、彼女は他の自警団のメンバーからは避けられているが、別に彼らが女聖騎士の事を嫌ったり妬んだりしているわけじゃない。
彼女の人気が凄すぎるせいで、一緒に行動した自警団のメンバーが特に町の女たちから妬まれてしまうのだ。
「もしかして、自警団との町の見回りは上手く行っていないのですか?」
「いえ、それは大丈夫だと思います。最初の一週間程は見回りルートを教えてもらうために自警団の方と一緒に行動していたのですが、その後は道を覚えたという事で一人で見回っていますので」
仕事が上手く行っていない故の逃避、というわけではないのか。
だが、やはり見回りだけではいささか退屈なのかもしれない。
あるいはダンジョンを視察する事が真の目的かもしれないが、何れにせよダンジョンから魔王の存在に勘付かれると厄介だ。
「そういう事でしたら、私の方から町の冒険者ギルドに相談してみます。手の空いている冒険者が見つかれば、一緒にダンジョンに入ってくれるかもしれません」
「宜しくお願いします」
とまあ、一応は女聖騎士の頼みを受けたわけだが、どうしてものか?
同行者が見つからないと先延ばしにしてもいいが、あまり続けると怪しまれるし。
いっその事、俺が同行した方が思ったが、それならば魔王の娘にも一報いれた方がよさそうだな。
俺は女聖騎士のダンジョン探索に同行しようと思っている事を魔王の娘に伝える。
すると魔王の娘は、彼女らしいが俺に負担が余計にかかる回答を寄越してきやがった。
「なになに? それ、すっごく楽しそうじゃん。私も行きたいッ!」
「ちょっと待ってくれ。女聖騎士に魔王様の事がバレないための監視なのに、エイラムさんが同行したら……」
「なに!? 私が一緒にいたら感づかれるって言いたいの? 大丈夫だよ、そんなに勘が鋭いならとっくに気付いているって。それに、そんなに勘がいいなら、早々に消さないと」
「はいはい、分かりました」
……何でこうなるんだ。
魔王の娘が面白半分に付いて来るとか、こんな事なら報告しなきゃよかった。
「この機会に、あの女聖騎士の実力を測らきゃね。事前にアイスくんが報告してくれてよかったよ」
「──どういう事だ?」
「あいつがどれくらい強いか確認したくないの? これから敵対する可能性も十分あるんだし」
俺はそんな事を考えもしなかったが、魔王サイドとしては敵の戦力を測りたいって事か。
さっきは面白半分とか気まぐれでふざけているのかと思ったが、魔王の娘もそれなりに考えての行動なのな。
俺も反省しなければいけない反面、女聖騎士が実力を出し易いセッティングを考えなければ。
「そういう事なら、俺とエイラムさんの二人が女聖騎士に同行して、基本は女聖騎士一人で戦わせようか。俺たち二人をダンジョンのモンスターから守る訓練って事で」
「おお、いいねえ。アイスくん、それにしよう」
決まりだな。
とは言え、俺も一応軽くは戦えるもののせいぜいが第二階層くらいまでが限度。
女聖騎士も初めてだからと口実を付けて第一階層でいいよなあ?
「あっ、そうだ。アイスくん、できれば目立たない時間の方がいいかも」
「そう言われても……だが、夕方までには大抵の冒険者が引き上げるので、夜なら人は少ないかもな」
女聖騎士も昼は見回りの任務があるし、誘うなら夜の方が都合がいいな。
「じゃあ、明日の夜でいっか。あの女聖騎士も夜なら暇してる……と思うし」
「急だな。本人の都合もあるだろうし、一応聞いてみてダメだったら、また今度と言う事で諦めてくれよ」
明日の夜で大丈夫かと聖騎士様にお伺いを立てるために、俺は女聖騎士の部屋に行った。
快く部屋に入れてくれた彼女は、本を読んでいたのを止める素振りを見せる。
俺は読書の邪魔をして済まないと思いながら、俺と魔王の娘と一緒にダンジョンに行かないかと誘ってみる。
「ええ、夜なら空いていますので大丈夫です。しかし、お二人共そんなに御強かったのですか?」
「私は一応、ダンジョンがある町の町長の息子です。万が一の時のために嗜み程度ですが武芸は学びましたし、ダンジョンでの戦闘経験も何度かあります。エイラムさんも戦っているのを見た事はありませんが、少なくとも私よりかは強いはずです」
本当に魔王の娘がどう戦うのかは俺も知らないが、目立った事はしてくれるなよな。
「そうですか。それなら、私もお二人に追いつける様に頑張らないと」
「ははは、買いかぶり過ぎですよ。ところで、読書中失礼しましたが、本はお好きなのですか?」
「は、はい。暇がある時はこうして部屋で読んでいます。他にやる事もありませんし」
「賑わっているダンジョン近くの街には遊びに行かれたりはしないのですか?」
「私はそういうのはあまり……あっ、でも、この前お二人が誘ってくださったのは楽しかったです」
成る程、これなら夜の酒場にも近づかないだろうし、好都合だ。
とりあえず、めでたく俺と魔王の娘に女聖騎士の三人の合意が取れたところで、明日のダンジョンに備えるか。




