メイドカフェと夜魔の娼館 その5
幸いにして、俺は酒場から何事もなく無事屋敷へと帰る事ができた。
魔界から連れてきたメイドを使って酒場の二階で行われている事を知ってしまった俺は、魔王の娘に聞かなければいけない。
……秘密を知ってしまった以上、無事では済まないかもしれない。
だが、俺もこの町に住む者あり、代表者たる町長の息子だ。
確かに父上は魔王にダンジョン出現という形でこの町は売ったが、それで町の住民を守れなくては意味のない契約である。
意を決した俺は、魔王の娘の部屋の扉をノックした。
「はーい。入ってきていいよ」
俺が部屋に入ると、そこには無防備にベッドくつろいでいる魔王の娘がいる。
「なんだ、アイスくんか。そんなに怖い顔してどうしたの?」
「酒場のメイド……いや、二階で行われている事、ありゃ何だ?」
「何って、店主さんの要望で宿屋用の部屋にしただけだけど。言ってなかったっけ?」
とぼけやがって、畜生!
「その宿の部屋で、あの魔界から連れてきたメイドを使って何をやっているんだ?」
「部屋の掃除とかベッドメイキングとか……で、いいのかな? 御屋敷でのメイド修行の賜物だと思うんだけど」
「ふざけるな! 俺が気付かないとでも思ったのか!」
「ちょ、ちょっと、何の事!?」
「酒場の男性客を二階に連れ込んで……その、あれだ、何かしている事を!」
こんな時に何を恥ずかしがっているんだ、俺は!
はっきり言えないでどうする!
「アイスくん、何言ってるの!? それじゃあ、まるでメイドの娘たちが男の人を連れ込んでエッチな事をしているみたいじゃない! 変な事言うと怒るよ、ぷんぷん!」
「エイラムさんが言った通りだよ! 客にエッチなサービスを提供するなんて聞いていないし、あの化け物どもは客に何をしているんだ!?」
「えっ、そうなの……なんで……まさか……」
魔王の娘は急に黙り込んで考え込んでしまった。
──そして。
「お、おとうさまぁーーーー!?!?」
突然怒り呆れる様に叫びだしたかと思うと、また黙り込んでしまった。
「──ご、ごめんね、アイスくん。それ、私にも止められない……」
魔王の娘が明らかに動揺し、そして若干震えながら俺に話してきた。
「どういう事か、俺に分かる様に説明してくれないか?」
「そうだね……えっと、あのメイドさんたちは夜魔って言って、相手を夢見心地にさせる事で精気を吸い取って魔力に変換する上位クラスのモンスターなんだ」
「それで客から吸い取っていたってわけか?」
「多分……彼女たちは主に男の人の理想の姿に化けて夢見心地にするタイプだから」
成る程なあ。
それなら、一連の喘ぎ声も、軽くやつれていた客の姿にも納得が行く。
「そんな危険なものを地上に……この町に連れてきたのか!?」
「聞いて! 私も彼女たちがこんな事をするなんて思っていなかったの。お父様ったら、メイドさんにエッチな事をさせるなんて最低だよ、もうっ!」
「って事は、あのメイド……夜魔たちが町の人間を襲っているのはエイラムさんにとっても不本意って事か?」
「そうだよ、不本意だよ。人間は襲っちゃ駄目って私がちゃんと命令したのに、酒場のお客さんに、その、何かしているって事は、魔王であるお父様の命令以外に考えられない」
つまり、あれは全部魔王の差し金って訳か。
糞が! 何でこんな事をしやがるんだ!
「客を襲うのはエイラムさんでも止められないし、文句があるなら魔王と直接交渉しなきゃいけないんだな?」
「待って! お父様が何でこんな事をやったかは分かるから説明させて。多分、アイスくんたちも納得して引き下がるしかないと思うから」
町の人間がモンスターに襲われているんだぞ。
それを俺や町長の父上を含めた町の人間が、黙認せざるを得ない理由なんてあるのか?
「この町に出現させたダンジョン。その目的の一つは、宝目当てに入ってきた冒険者を育てて強くする事だってのは、前にも話したよね」
「ああ、覚えているが、冒険者を強くする理由が分からない」
「それは色々あるんだけど、その一つが強くなった冒険者から精気を吸い取って魔力を回収する事なの」
「つまり、メイドが襲うのは冒険者だけで、他の町の住民には危害は無いと」
「そういう事。魔王側は決して無償でダンジョンを提供している訳じゃなく、冒険者から対価を得ているって事を覚えておいて」
正直、これは認めざるを得ない。
冒険者はダンジョンで鍛え上げられ、その鍛えられた分を魔王側が魔力として回収するだけで、町から何かが奪われている訳じゃねい。
吸い尽くして冒険者を殺しているなら問題だが、魔王側もそのつもりはないみたいだしな。
「わかったよ。冒険者が街から居なくなれば町の財政にも関わるし、冒険者を生かさず殺さずで快楽と言う名の飴で縛るってのは、町としても好都合って訳か」
「そういう事なんだけど……やっぱりメイドさんでエッチなのはいけないと思うなあ、私」
魔王の娘もショックだったんだろうなあ。
あれだけメイドに心酔していたわけだし。
「仕方ない。このまま外にはバレないように俺たちで何とかするしかないな。特に今いる女聖騎士にバレるのはまずい」
「そうだよ。特に女聖騎士にバレるのは恥ずかし過ぎる。絶対に阻止しなければ!」
町長の息子である俺と魔王の娘の意見が一致したところで、メイドの件は平和に解決して事無きを得たのだった。




