メイドカフェと夜魔の娼館 その3
魔王の娘が魔界からメイドを連れてきて三日が過ぎた。
彼女たちは元から家事全般ができたらしく、メイドとしての覚えも早いとのうちのメイド評。
見た感じも特に問題なさそうだし、これなら今日からでも酒場で働かせられそうだ。
「よーし、この調子なら明日から酒場で働かさせても大丈夫かな? 改装部分の工事も大分終わってきたし、明日からリニューアル版でプレオープンしちゃおう」
「ところで、酒場のウェイトレスをやらせるだけなら、別にメイドの修行なんかやらせなくてもよかったんじゃないのか?」
「分かってないなあ、アイスくんは。形を整えるのはとっても重要なんだよ。服装だけじゃなく身のこなしも、ある程度は身に着けてもらわなくっちゃ」
「そういうものなのか?」
「そういうものなの! それに、ウェイトレスだってメイドさんの作法、特に掃除は酒場じゃ重要なんだよ。お客さんが汚したところを綺麗に掃除しないと大変な事になるし」
確かに言われてみれば。
てっきり、ただ注文を取って出来上がった料理を運ぶだけかと思っていたが、俺が考えるよりもウェイトレスの仕事はあるんだな。
「しかし、明日からとはまた急だな。告知とかしなくていいのか?」
「プレオープンだから大丈夫と言うか、酒場へのメイドさんの投入がまだ実験段階だから、とりあえずやってみて改善点とか見つけるのが先かな?」
「成る程。初めての事だし、実際にやってみないと分からない事もあるわけか」
「そういう事。ちゃんと軌道に乗ったら改めてオープンするし、その時はアイスくんも招待するから来てね」
それから一週間程が経過し、遂に新しい酒場がリニューアルオープンした。
初日は物珍しさと宣伝の効果もあってか大反響だと風の噂で聞く。
そして、そんなメイドのいる酒場についての話題が、俺と女聖騎士との会話で思わぬ事を引き起こす。
「新しく改装した酒場、大人気らしいですね」
「聖騎士様のお耳に届くぐらいの評判なら大したものです。ひょっとして、もう行かれたのですか?」
「いえ、私はそういう店には……」
「あら? そう言わずに聖騎士様も是非いらっしゃってくださいな」
話を聞いていたのか、魔王の娘が俺と女聖騎士との会話に突然割り込んできた。
「探しましたわ、アイスさん。明日の昼、私と一緒に酒場に行きましょう。ようやく落ち着いてきましたので、町長の息子であるアイスさんにも是非メイドたちをご覧になって欲しいのですわ」
「わかりました。ライト様も良かったらご一緒しませんか?」
「明日ですか? 明日は丁度町の見回りも休みの日ですので……わかりました、お二人のお誘いとあらば行きましょう」
し、しまった!
その場の流れとは言え、社交辞令的に女聖騎士を誘ってしまった。
しかも、断ってくれてもよかったのに、よりにもよって非番の日だなんて!
「それでは、決まりですね。明日を楽しみにしていますわ」
決まってしまったか……。
ま、まあ、あのメイドたちはうちに三日間程いて女聖騎士に正体とか感づかれなかったし、大丈夫だろう……多分。
それにしても、魔王の娘は相変わらず女聖騎士の前だと、あの変な言葉遣いになってしまうんだなあ。
次の日の昼過ぎ、俺と女聖騎士は魔王の娘に連れられて酒場へとやって来た。
「「お帰りなさいませ、ご主人様!」」
酒場に入ると、謎めいた挨拶でいきなり持て成された。
ああ、思い出した。魔王の娘が取り入れたいとか言っていたやつか。
「ああっ、もう! いつ聞いても素晴らしいですわ!!」
何か魔王の娘が一人で盛り上がっているなあ。
とりあえず、俺たちは適当な席につこうと周りを見回してみる。
改装の甲斐があってか、前よりも広くなって客席も増えており、これなら夜の時間帯でもスペースに余裕がありそうだ。
「それでは、わたくしのオススメを注文致しますわ」
「あのー。私、昼からのお酒はちょっと……」
「大丈夫ですわ。リニューアルの際に、わたくしメニューにも手を加えましたのよ。お酒以外の飲み物として『お茶とコーヒー』をご用意致しましたわ」
酒場に手を加えたのはメイドだけじゃなかったのか。
しかし、一体何を?
「お待たせしました」
店内のウェイトレス、もといメイドが持ってきたのは人数分の紅茶、そしてパンケーキであった。
「御屋敷での紅茶にパンケーキを店のメニューに加えましたのよ。更にこの店の店主が裏メニューとして取り扱っていたコーヒーを、表のメニューでも取り扱うようにしましたの。こちらも後程お出ししますわ」
「確かに、屋敷のものと味に違いはないな。酒場のメニューが増えるのも悪くはない。だが、これにどういった効果が?」
「よくぞ聞いてくださいました! これらのメニューは女の子向けであり、甘いものが好きな男の人向けでもあります。こうやって、新たな需要を満たす事でこの町に集まる冒険者を増やすのですわ」
確かに、少なからず女の冒険者も存在するので、そいつらが噂を聞きつけてここを目指すという訳か。
店内を見回すと以前よりも女性客が格段に増えているので、効果が出ているのがよく分かる。
「お……美味しい……」
女聖騎士も気に入ったのか、先ほどから黙々と食べているというか、優雅に紅茶とパンケーキを嗜んでいた。
そして、何となくではあるが、店内の女性客の視線が店内のメイドではなく女聖騎士に向いている気がする。
美人が様になっていると言うか、よくよく見れば如何にも女にモテそうな雰囲気を出しているんだよなあ、この人。
「どうです? お二人共、お気に召しましたか?」
「ええ、まあ。まさか、こんなにも上手く行くとは恐れ入りました」
「とても素晴らしいです。エイラムさんも日夜頑張っていましたし、その成果が実ったのですね」
「えっ……!? と、当然の結果なのですわ!」
やれやれ。今回の件での俺の心配は、どうやら杞憂であったようだな。
何事も無くてよかったぜ。




