メイドカフェと夜魔の娼館 その1
この町に来た女聖騎士が少しは慣れ、毎日の巡回で彼女の町での知名度が少しずつ上がってきた頃だろうか?
いよいよ魔王の娘が動き出した。
「いやいや、迂闊に動いちゃ駄目だって。あの女聖騎士に感づかれたらどうするんだよ?」
「それとこれとは別問題だし。私の当面の目的、ダンジョン近くの街を発展させて冒険者を増やすは、誰にも邪魔させないんだから」
「だからって、そんな大それた事は……」
「何!? アイスくん、私言ったよね? 邪魔になるなら女聖騎士は消すって!」
……返す言葉もない。
「もうっ、心配しないで。今ある酒場にメイドさんを大量投入するくらいで、何にも起こらないって。大丈夫だよ」
いや、絶対に悪目立ちすると思うんだけどなあ。
「御屋敷にしかいないメイドさんが酒場にもいる。ああっ、これって無茶苦茶素晴らしいとは思わない!?」
事の発端はこうである。
魔王の娘がうちのメイドたちの働きを見て、甚く気に入ってしまったのだ。
そして、その結果がメイドの可愛さでダンジョン近くの街の人気を上げるため、色々と奮闘する事態に。
「うーん、確かにどちらかと言うと可愛いとは思うが、そこまでかなあ?」
「何言ってるの!? あの黒を基調とした白と黒のコントラスト、ふわっとしたロングスカートに頭の飾り、そして何よりあの柔らかい物腰、この素晴らしさが理解できないなんて!」
「言われてみれば、まあ」
「それに、町長さんだけが言われている『お帰りなさいませ、ご主人様』って挨拶がすっごくいいの。これは酒場でも是非採用しなければ!」
とまあ、メイドの事となると怖いくらいにテンション高めで多少早口になる程、魔王の娘はメイドに御執心である。
こっちとしては大きな騒ぎにしたくはないのだが、この熱量を押さえつけるのは無理っぽい。
「ところで、意気込むのはいいが、肝心のメイドは何処から連れて来るんだ?」
「えっ!?」
「まさか、考えてなかったとは言わないよな?」
「こ、これから募集すれば集まるって」
「駄目だと思うけど、やるだけやってみればいいんじゃないか?」
おっと、これは思わぬ方向からの中止の流れか!?
この町にメイドをやりたい奴なんてそうそういない。
ましてや、ダンジョン目当てで集まった冒険者相手となると尚更だな。
「既に酒場は広くする改装工事を始めちゃったし、今更後には引けないよ。何としても集めなきゃ!」
そして、魔王の娘がメイドを募集し、幾らかの日数が経過して……果たしてメイドは一人も集まらなかった。
「ど、どうして!? 何で、何で一人も集まらないの!?」
「残念だが、肝心のメイドが集まらないんじゃあ仕方ないな」
「そんな……酒場の改装までしたのに……」
「元より酒場は、近年増えてきた客に対応するのに改装する必要があったし、町としては問題ない。まあ、諦めるんだな」
これで、ひとまずは諦めてくれればいいんだがな。
今は、とにかく時期が悪い。
「諦めきれない!!」
魔王の娘が突然叫びだした。
どうしてもメイドを諦められないという、彼女の心の叫びは伝わる。
だが、いないものはどうしようもない。
「そうだ! 御屋敷のメイドさんを何人か連れて行くってのは?」
「うちはどうなる? 食事は? 掃除は? 洗濯は?」
「ううっ、やっぱり駄目か……」
「これでまさか、うちが駄目ならエイラムさんの家からメイドを連れて来るなんて言わないでくれよ」
「魔界にメイドがいるわけないでしょ! ああっ、実家にメイドがいたらどんなに素敵だったことか……」
魔王の娘の実家、つまり魔王の城ならばメイドの十人や二十人はいると思っていたが。
まさか、メイドそのものが存在しないとは盲点だった。
彼女のこのメイドへのハマり具合も、そういった環境から来ているのかもな。
「そうだ、それだよアイスくん! 魔界からメイドに仕立て上げる人材を連れてきて、こっちで育て上げればいいんだよ!」
なっ、何いいいいぃ!!
魔界、おそらくは魔族の世界から何かを連れて来るってか!?
それは、もはや酒場にメイドを投入するとかそんなレベルとは比べ物にならないくらいヤバいじゃねーか!!
「あっ、あのー? エイラムさん……本気?」
「ん? どしたの、アイスくん?」
「いや、その、魔界から連れて来るって……」
「あららーー? もしかしてビビってるの? もうっ、心配しないで。別に見た目凶暴な怪物とかを連れて来るわけじゃないんだし」
魔王の娘本人はそう言っているが……心配するなと言う方が無理だ。
もはや、女聖騎士とか関係なく失敗すれば大変な事になりそうだが、かと言って止める事はできない。
「それじゃあ、私は一旦魔界に帰ってお父様に相談してくるね。見てなさい、絶対にメイドさんの酒場を完成させるんだからっ!」
そう言って、魔王の娘は魔法のゲートを出現させて消えてしまった。
ああっ、どうすりゃいいんだ!?
こうなりゃ、何としても上手く行く事を願うしかない。




