女聖騎士ライト・ヌーム その5
女聖騎士の外出に一通り付き合った後、俺たちは屋敷へと戻った。
俺は、報告のために魔王の娘の部屋に向かおうとしたところ、廊下で本人と出くわす。
「もうっ、私を置いて何処に行ってたの!?」
「何処って、あの女聖騎士に付き合っての外出だが」
「そういう事じゃなくて、私も行くって言ったじゃない!」
「特に理由も無く付いて行ったら怪しまれるぞ」
「ううッ……確かに」
理屈では理解したが、納得いかないって様子だな。
「こういう時に堂々と真正面から偵察するのが俺の仕事なんだがら任せてくれ」
「うーん、仕方ないか。あの女聖騎士の偵察はアイスくんに一任するよ」
「その件で報告があるんだ。続きは部屋で」
魔王の娘の部屋に入り、俺は報告の続きを行う。
「それで、あの女聖騎士だが、自警団を支配するどころか逆に自警団の部下みたいになったぞ」
「へー。町を守るとか言っておきながら、結局は自警団の部下なんだ」
魔王の娘は手厳しいなあ。
だが、確かに聖騎士がやるにしては地味な仕事である。
「軽く話を聞いてみた感じだと、ここに来る前も訓練漬けの毎日で大した仕事もなかったみたいだ。強大なモンスターでも現れれば別なんだろうけど、今のところ世界は平和だしな」
「お父様も今のところ地上にモンスターを送る計画はしていないけど、聖騎士ってのはそういうのが出ないと仕事しないんだ」
「いや、他にはエルフの手伝いをするとかも言っていたし、まるっきり仕事が無いわけじゃなさそうだぞ」
「エルフ!?」
そこに喰いつくのか?
だが、俺もエルフには詳しいわけじゃないから、知らないだけで何か魔王側に対する不都合なんてのがあるのかもしれない。
「何か知っているのか?」
「知っているも何も、エルフって言ったらドワーフと無茶苦茶仲の悪いあのエルフだよ」
まずドワーフがよく分からんのだが。
いや、名前くらいは聞いた事があるんだけどなあ。
「そのドワーフと仲が悪いのが何か問題なのか?」
「大問題だよ! 今あるダンジョンは壁の一つから中の武器まで殆ど全部ドワーフが作っているんだから。それで、ダンジョンのある町をエルフの手下が監視下にするって事は、怪しまれているって事じゃん」
そういえば、父上に連れられてダンジョンで働いている小さいのには何度か会った事があるなあ。
あいつらがドワーフだったのか。
だが、それよりも今は聖騎士……もといエルフの手下の方が問題だ。
「だからと言って、あの女聖騎士を下手にダンジョンから遠ざけるのも逆に怪しまれるぞ」
「じゃあ、やっぱり当初の計画通り消すしかないじゃん」
「そんな事をしたところで代わりが来るだけだ。それよりも、若くて扱いやすそうなあの女聖騎士を泳がせた方が良くないか?」
「あの女聖騎士を丸め込むって事!?」
そういう事だな。
だが、自分で言っておいてなんだが、正直女聖騎士を丸め込むなんて自信は無い。
けれど、やるしかないのもまた事実。
「そうだな、こちら側に引き入れるのは難しいだろうが、仲良くなって油断させる事くらいはできるさ」
「今日も聖騎士がエルフとつながっているって情報を引き出したしね、えらいえらい」
褒められているようで、馬鹿にされていないか俺?
「もうっ、私が特別に許可するから仲良く何て温い事を言わずに、た、たぶらかしなさいッ。あいつ色恋には初心そうだし、アイスくんなら楽勝でしょ?」
「え、ええーーーーーっ!?」
無茶を言うな!
お、俺があの女聖騎士をたぶらかせだと!?
そ、そういうのは苦手なんだよッ!!
「いい? アイスくんが提案した事なんだからねッ! 失敗したら、あの女聖騎士は消しちゃうんだから!」
別に俺はあの女聖騎士の事を助けたいわけじゃないんだが。
むしろ、こっちとしても邪魔でしかない。
「ま、まあ、やるだけやってみるよ」
俺は、形だけの返事をして、魔王の娘の部屋を出た。
一応、父上からも情報を探れとは言われているし、できる範囲で情報を引き出した後に消すってのが落としどころかなあ?
「あっ、アイス殿。先ほどはありがとうございました」
部屋を出て、歩いた先の廊下で女聖騎士と出くわした。
「いえいえ、とんでもない。これも町長の息子としての私の務めですから」
「務め……ですか。目の前にやるべき仕事があるのはいい事です。私は聖騎士としてこれから何をやればよいのか惑うばかりで……いえ、失礼しました。今のは忘れてください」
聖騎士としてやる事……それが、エルフの手伝いというやつではないのか?
俺たちを欺くために故意に仕事がないフリをしているんじゃないかと、今なら疑いたくもなる。
「そうでしょうか? 先ほども自警団の団長が仰っていましたが、今の形態の組織には限界が来ています。ですので、聖騎士様が導いで強固な組織に作り替えてくださると町の皆が助かります」
「!? そうなのですか?」
「私どもには軍隊とか、そういった知識はありませんので、聖騎士様がそういった事をご教示いただけると」
「成る程、わかりました。私でなければいけない役目があるのですね」
こんなものだろうか?
とりあえず、まずは女聖騎士に優しくしてみるところから始めよう。
たぶらかす事ができるかどうかは分からないが、人は優しさに弱いからな。
「少しですが元気が出てきました。重ね重ね感謝の言葉しかありません」
と言って、女聖騎士は心なしかの笑顔を俺に見せた。
これを何時かは消さなければいけない日が来るのかと思うと、何となく心が痛む。
そうならないためにも、俺も少しは頑張らないといけない気がした。




