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盲神少女  作者: カオス
第一章 されど、彼は新しい日常の謳歌を望む
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第一話 そして、新しい生活が始まった

 見覚えのある民家に挟まれた道を自転車で進んでいく。

 そこを過ぎるとその先は未開の地になるが手に持ったB5用紙に書かれている母親お手製の地図を頼りに進んでいくと、その通り長谷川商店という小さい店が見えて来た。と言ってもまあ、実際は下見の際にこの道を通ったらしいが前日までの引っ越し準備で疲れ切っていた為寝ていた俺は見ていないし、下見後もすぐ眠りに就いたから未開の地で良いだろう。その商店の目前にあるT字路で右に曲がって進むと、学校が見えて来る筈だ。

 一昨日、っというか十二時を過ぎていたから正確には昨日だが、先程通過した公園までの民家に挟まれた家を通った時は真夜中で辺り真っ暗だった為その時と雰囲気が全く違う。何だか別の道を走っていた気分だが、全く同じ道だったんだよな。

 にしても、あの公園。一昨日もとい昨日のことをはっきりと思い出させる。

 昨日あの後すぐ帰ると、何故だかとてつもない疲労を感じた為すぐに眠りに就くことが出来た。起きてから再度今度は別ルートから市街地へ行ったが、彼女、愛沢優菜を見つけることは果たして無かった。勿論昨日夜にも、といってもその時は明日学校を控えていた為夜の八時だが、公園に向かってみるもそこでも彼女と出会うことは無かった。

 うーん、どうなんだろうな。あのキャラは面倒くさそうだけど、やっぱりもう一度会ってみたいのかな。何せ今まで見たことも無い程、彼女は美しかったから。

 って言ったら俺は女性を顔で選ぶ軽い男に見られそうなので補足しておくが、決してそれだけではない。何度も言うが何なら俺は硬派な男だ。だから何故かって言われれば、だって、面倒くさそうだけど、やっぱり面白そうだから。ああいう、イレギュラーっていうのも。って答えるのかな。マンガでも小説でも、バラエティーでもドラマでも、やっぱり個性っていうのは必要なんだよ。他とは違う個性を持つ物が注目されるんだ。求められるのはオリジナリティー。時代はそういう流れだ。そういう意味では彼女はそれを最大限に表現できているのかもしれない。方向性がシャトルロケット並にぶっ飛びすぎだけど。……はあっ、住んでる場所聞けば良かったな。……あっ、でもそっか。そういえば、彼女はこの学校の人だったっけ。歳は聞き忘れたけど、見た感じ多分同い年だと予想される。なら、多分また会えるだろう。

 なんて期待に胸を馳せながら自転車で道を駆け抜けていると、ようやく一昨日も見た学校が見えてきた。

 築三十年ということもあり、少し傷も入っている全体的に白が多めの校舎。それから一昨日昼と夜、二回程見かけたその女子の制服と、その女子の制服から若干仕様変更されているブレザーとスカートから黒いスラックスに変えた俺と同じ男子用の制服。見覚えのあるものばかりだ。

 だが、ここから先を俺はまだ知らない。学校も通う人達も、期待と不安合い混じる気持ちを動力に激しく動く心臓を確かに感じながら、俺はその門を越えた。


   ☆★☆★☆★☆★☆


 結論から言おう。

 拍子抜けした。

 驚く程あっさり受け入れられたといえば聞こえは良いが、その実期待っというか、しっかり準備なんかしていったのに、全く想像していた転校生気分を味わえなかった。今は朝のホームルームで紹介を終えた後の、始業式が始まるまでの待機時間。だというのに、何で誰も話し掛けてこないんだ! 転校生って、休み時間はクラスメイトに囲まれるもんじゃないの! 俺の、どこから来たの→どこから来た? そんなの宇宙からに決まってるじゃないか→キャー、建人君って面白ーい! ……っという展開がパーじゃねえか!

 まあ、それも仕方ないのかもしれない。進級し、クラス替えしたばかりで関わったことが無いだけどころか知らない奴も多い。そいつらと転校生である俺は同じレベルなのだろう。つまり既に作られた関係の中に突如他人が来れば興味も惹かれるだろうが、元々まだ出来ていない関係の中に一人新しい奴が加わろうと大して変わらないということだ。

 それに席が最後列真ん中っというのもあるかもしれない。っていうか、あるね。ほら、一々わざわざ後ろに目を向ける人なんていないしね!

 どうやら、春休み中に入学式の準備とかで登校した際に既にくじ引きで席替えは済ませたらしく、新クラスだが出席番号などは最早関係無い席になっている。俺はその中であえて空くように設置されていた席に配置されたらしい。

 

「あれっ、見慣れない顔。もしか、転校生?」


 そんな俺の想いが通じたのだろうか。突如俺の耳に、確かに俺の方に向けたと分かる声が聞こえてきた。反射的に声のした右方向を見ると、すぐ右隣の席の前、茶髪のゆるふわウェーブの女性が立ちながら興味深げな目でこちらを見ていた。


「えっ、あっ、うん。そうだけど」


「へえ、うちのクラスに転校生か。とりあえず、おはうぃーす!」


 言いながら、机にカバンを置いて席に着きつつ、右手を微妙に上げてそんな言葉を発してきた。

 えっ、何? おはうぃーす? 何それ、日本語? いや、多分挨拶か。……だよな?


「おっ、おはうぃーす。ていうか、お初でうぃーす」


「おっ、ノリ良いじゃん、転校生!」


「どうもどぅえ……でーす」


「アハハ、転校生噛んでるし! めっちゃウケるんですけどー!」


 べっ、別に噛んでねえし! こっ、これから流行ると予想される挨拶だし! まっ、まあともかく、それは成功したみたいで、俺の初めてだから逆に怖れずに行こうテンションでの渾身の返しはどうやら彼女のお気に召したようだ。そうそうこういう何の気ない楽しい会話だよ、俺が求めていたのは。挨拶が他の文化圏のものでカルチャーショックだけど。

 しかし、十六年日本人をやっている俺ですら聞き覚えのない意味の分からない挨拶をいきなり初対面に ぶっ放す非常識さや喋り方、若干着崩した制服、雰囲気から察するに、この人あれか。ギャル、だな。っというのは分かるのだが、何というのだろうか。ギャルは化粧ケバい、つけま凄い、髪ピンクとかそんなイメージあるけど、そこまで酷くないし、そのクリッとした目が特徴的な可愛らしい顔はどうもあどけなさがあり、そういう意味ではどことなく背伸びしてる感がある。いうなれば、ライトギャル?

 ちなみに俺は、中学の時同じクラスに本格的っぽいギャルがいたが、そのギャル+お仲間と席が隣になった時、休み時間に「あーしら暇だからー、なんか面白い話してくんねー、たけはらー? ちなみにおもんなかったら、罰ゲームで一発ギャグウケるまでねー」という地獄の無茶振りをされたことを思い出すと、今でも身震いしてくる。もうあんな奴らと関わりたくもない。んな訳で、正直俺はギャルというキャラにあまり良いイメージを持っていないのだが、それに比べたらこの人のなんと可愛らしいことか。あんな、人外の生物と同じにするのも申し訳ない。

 等と考えていたら、急に彼女は携帯をブレザーポケットから取り出し、何やらポチポチ画面をタッチし出した。


「噛み噛み転校生降臨っ、っと」


 えー! なんか俺、常に噛んでるテンパリ野郎みたいになってるんだけど! べっ、別にテンパってねえし! っていうか、そもそも噛んでねえし! ていうか、あれか。何やら文字を打ちながら呟いてることから察するに、どうやらツイッターだかLineだか俺はやってないからよく知らないが、ともかくネットに何か書き込んでいるのだろう。何それ、公開処刑じゃん!

 ある程度、ポチポチを終えると、彼女は携帯から再度こちらに視線を移す。


「あっ、そうえばー、転校生」


 えっ、soever? ……ああ、そういえばの略ね。いやいや、一文字ぐらい略すなよ。急に何語だか駆使し始めたかと思っちゃったじゃねえか。


「何?」


「転校生さー、名前は?」


「あれっ、さっき自己紹介したばっかだけど」


「んっ? あっ、ウチ今日ちょっと遅れてきてー、紹介聞いてなかったんだよねー」


 言われて考えれば、その通りだな。そういえばさっき俺がいるのに驚いてたし、質問タイムに向けて質問を整理していたから気にしなかったが、よく思い出してみればついさっきまでその席は空席だった気がする。


「なるほどね。じゃあ、改めて俺の名前は竹原建人っていうんで、これからよろしく」


「ふーん。たけはらけんとねえ。んじゃあ、こーせーって呼ばせてもらおっかなー」


 なるほど、こーせーか。……ええっ! 俺の名前一部分も残ってないんだけど。

 ――って、もしかして、転校生の略!? そっち! 名前聞いた意味ないやん。


「逆にうちは、秋谷絵里菜あきたにえりなってんで、よろしく。あっ、ちなむけど、うち決して外人とかじゃないかんね」


 ほう、なるほど。ちなむけどって言葉を俺はあまり聞き慣れないから戸惑っちゃうけど、要はちなみにの動詞形だとして、でも俺は別にその名前から外人とかそんな印象は受けなかったけどな。何でちなんだんだ。まあ言われると、絵里菜って名前は、外人っぽいっちゃ外人っぽいかもしれないけど。

 ……それから、別に何も逆になってない。


「えっと、じゃあ俺は秋谷さんって呼べば良いのかな?」


「まあ、どうでも良いよ。たけちんが呼びたいように呼んでくれれば」


 こーせー、じゃないんかい! わずか二言、三言交わしただけであだ名変わっちまったよ、っていうか、呼ぶって言ったこーせー、一回しか呼んでないんだけど!


「はっ、はあ了解……じゃあ、やっぱり秋谷さんで」


 まあ、とりあえず初対面なんだから、これが妥当だろう。


「うわっ、ちょっ、名字って。ちょっと距離感じるんですけど。ちょい、激おこだわー!」


 秋谷さんは、数秒前に自分が言ったことを宇宙の彼方に捨ててしまったのだろうか。今あなた、呼びたいように呼んでって言ったよな! 俺が呼びたいように呼んで怒られちゃうの!? いるよね、何でも良いよって言われて選んだらえーとか言って否定する奴! なら、最初からそっちが選べよって!

 それからさ、ちょい激おこって何!? ちょっと激しく怒ってるってこと!? 何それ、ちょっとなの激しいの!?


「じゃあ、絵里奈さんで……」


 とりあえず、探り加減で、ていうか上で呼ぶのを否定された以上若干の抵抗を残しつつ下で呼んでみた。


「ちょっ、それはちょっと初対面で距離近すぎでしょ。かなり激おこぷんぷん丸だわー」


 ぷんぷん丸って誰だよ……。ていうか、今度はかなり激しく怒ってきてるしー。その割に字面可愛いんだけど! そして、結局俺の選択肢否定されてるし!


「それじゃあ、アキぽんでどうだ!」


 だから、ギャル風味のスパイスを加えた著作権俺のニックネームで言ってみたぜ。ちなめば、ちょっと声が上ずったぜ。


「ちょっ、アキぽんとか、何それ! マジウケる! こーせー、ネーミングセンス無さすぎでしょ! 逆に天才感じるわー!」


 腹を抱えて笑われた。

 なっ、何故だ。何故、この神のセンスを持つ俺のネーミングセンスが否定される……。アキポンの何が悪いというんだ。

 ていうかこれもう、この人俺に名前呼ばせる気ないな。最早出口無しの迷宮に入れられて脱出しろって言ってるようなもんだもん、これ。

 そして、今度はこーせーですか……。もう統一する気ねえな、この人。


「俺には何も思い付かない……」


 だから、俺は机に右拳を突き立てて、諦めのポーズを取った。

 ダメだ、答えの無い問題の解答を考えることなんて無理だ。円周率の最後の数字を答えることが出来るものか。


「アハハ、まあ冗談、冗談。ちょっと初対面だから逆に親しい感じで行こう、みたいなー。名前はまあ、最初言った秋谷さんで良いんよ」


「えっ、あっ、うん。そっか。良かった……」


 笑いが収まったところで、秋谷さんは訂正を入れてきた。

 そっか、冗談か。良かった、転校先で初めて話した女子が、ただの面倒くさい性悪似非ギャル女じゃなくて良かった! ちょっと面倒くさい距離感間違えただけのギャル風同級生で良かった!


「あれっ、ちょい、たけちん疲れた顔してない? その、ちょっとやり過ぎちゃった?」


 心配そうにこちらを見つめる秋谷さん。

 まあ、言語の使用方法に異常来しているのに戸惑いを禁じ得なかったから疲れはしたけど。それ以外は普通に楽しい会話だったし、別に問題ないけど。


「あっ、いや、別に。寧ろ、来たばかりの俺に気を遣ってくれたんでしょ? 仲良くしようとしてくれて、嬉しいよ」


 とりあえず、気兼ねなく話し掛けてくれて、気持ちは大分楽になった。それだけでも充分ありがたい。


「そっか。まあ一応、ごめんね。ウチ、結構初対面の人と距離測り間違えちゃうことあるから」


 ああ、こういうところか。見た目だけじゃない。いや、それを意識した所為かもしれないけど、話していると初対面の俺でも感じるぐらい、何となく無理矢理ギャルという設定上のキャラを演じているように見えた。

 でも、今彼女が謝った時、その皮は剥がれ完全な素顔が一瞬見えた気がした。その素顔が度々顔を覗いている。だからギャルっぽさがあまり感じられないんだ。

 何か理由があるのかもしれない。でもそれを、さっき出会ったばかりの俺が知る道理がない。


「いやいや、別に俺は気にしないよ」


 実際そういう人は多いからな。こっちは仲良くなろうとかただ単にとかで話掛けようとするも相手のパーソナルエリアと精神的距離を測り違えて必要以上に近付き過ぎてしまう。そういうのは元々のセンスか慣れでしか上手い塩梅を測ることが出来ない。秋谷さんはまだ測りかねているのだろう。いや、ここまで初対面の俺と話が出来ていることから察するにその可能性は低いか。っとなると、考えられる可能性は……。まあ、そういうのを幾度か転校する度に培ってきた経験によって自然と敏感になってしまったのは、幸か不幸か……。

 俺は、とりあえずそれだけ言うと、後はお互いに口を閉じる。手持ち無沙汰な為ふと周りを見渡してハッと気付いた。

 そういえば、愛沢さんがいないな。このクラスでは無いのか。いや、そもそも二年生なのだろうか。

 そのことが気になり、再び口を開いた。


「あの、秋谷さん」


「んっ、なに、けんちん汁?」


「いや何、そのおいしそうな名前!」


 不意のぶちかましに思わず、ツッコんじまったぜ。「たけちん、おもろー」とか言ってるけど、もうあれっすね。さっきから呼び方変わってるね。西武ドームかよ。あっ、ちなむと自分は結構野球好きだったりします。


「で、どうしたん?」


 おおっ、わざわざ方向修正してくれるとは。逸らしたのもそっちだけど。いや、ツッコんでしまった俺の所為か? まあ、良いや。


「あの、ちょっと聞きたいんだけど」


「うん」


「同じ学年に――」


「――よし、じゃあこれから、始業式始まるから皆廊下に並んでくれ」


 俺の言葉を遮るように、若くエネルギッシュな爽やか男性教諭、つまりは俺達の担任がその言葉と共に廊下から顔を出してきた。途端に皆動き始める。


「おっ、もう始業式か。バリめんどいな-。……で、原監督、なに聞きたいんだっけ?」


「いや、良いや。もう移動しなきゃだし」


 タイミング逃しちゃったしな。まあ、それにいつでも聞けるし別に問題はないだろう。

 ちなむと野球好きな俺は、原監督と言われて少しばかり嬉しいです。内心では、握った両の拳を彼女とぶつけ合っています。


「んにゃ、了解。じゃあ、いきますか」


 立ち上がった彼女に次いで、俺も立ち上がり廊下に出る。

 新しいクラスでの斬新な彼女との出会い。そんな感じで俺の新しい高校生活が始まった。

 

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