第74話:【たつのこ園の手探りの日々──年長組の新しいお仕事】
次の日からまた、聡介たちの試行錯誤の日々が始まった。
サザナミマスの形状、干し方、かかる時間……。乾燥室の稼働時間に必要な魔力……。検証すべきことは沢山あったが、地道に一つずつ進めていった。
もちろん最初は失敗の連続だった。乾きにムラがあったり、途中で炉の運転が止まっていたり……。それでも少しずつ、少しずつリズムは整っていったのだ。
ようやく安定して万能出汁粉とサザナミマスフレークが作れるようになった時には、一月近い時間が流れていた。
そんなある日、聡介は自身の机に着き、お茶を飲んで一息つきながら、この一ヶ月間のことを思い出していた。
加工品づくりだけじゃなく、様々な出来事があった一ヶ月間だった。
まず大きな変化としては、年長組の仕事についてだ。
──それは、乾燥室が稼働できた、まさに次の日のことだった。
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その日、聡介は年長組の中でも年が上のメンバーを呼び出していた。
呼ばれた子たちが室内に入ると、そこには聡介とイグニシア、それにサップが座っていた。
「みんな集まってくれてありがとう。さぁ座って」
皆が着席するのを見計らってから、聡介は切り出した。
「今日は、君たちのお仕事について相談しようと思うんだ」
「仕事? バザールの掃除はもういいのかよ」
ライクが訝しそうに尋ねる。
「うん、まだまだ綺麗にしていきたいところだけどね……」
聡介はそう言うと、エプロンのひよこを一撫でして居住まいを正した。それを見たライクも、つられるように背筋を伸ばす。
「皆も知っての通り、乾燥室を動かすことができたんだ。それで、今日集まってもらったメンバーには、それぞれ新しい仕事をしてもらいたいんだ。もちろん、他の年長組の子たちには、バザールの掃除を続けてもらうんだけど、バザールが綺麗になった後のことも考えていかないとでしょ」
一同は、期待半分不安半分といった表情で聡介を見つめている。
「そんなに不安にならなくても大丈夫。嫌だったり、難しそうなら無理にしなくてもいいしね」
聡介はそう言いながら、男の子たちの方を向いた。
「まずはライクくんと、ルトくん、カイくん、ガブくんには、サップくんの漁を手伝ってもらえないかと思うんだ」
聡介の提案に、ライクをはじめ男の子たちが目を丸くして驚いていた。
「だ、大丈夫なんですか? 急にそんな……」
オッターフォークのカイが慌てたように尋ねる。
「僕たちに、できるかなぁ」
のんびりしたトードフォークのルトが、少し不安そうに首を傾げた。
「いいじゃねぇか! やってやるぜ」
活発そうなガビアルのガブが、目をキラキラさせて立ち上がる。
「……。なんで俺たちが漁に出るんだよ。サップの兄ちゃんがいれば十分だろ」ライクが眉根を寄せて尋ねた。
「現状、サップくんに頼り切りなのをどうにかしたいんだ。怪我や病気もあるかもしれない。リザードマンの漁師団に戻らなくちゃいけない日が来るかもしれない。そんな時のためにも、誰かが漁の訓練をしておかなきゃいけないと思ってるんだ」
「あと、食べるだけじゃなくて加工品も作っていくから、サザナミマスがたくさん必要なのもあるんだけどね」
聡介がそう言い終えると、サップが口を開いた。
「正直、ライクたちが手伝ってくれるなら、かなりありがたいッス。それに、先輩たちも皆を褒めてたッスからね。将来漁師にならないかって言われてたッスし」
ライクは顔を背けて腕を組んだが、チラと見える横顔は満更でもなさそうな様子だった。
「とにかく、ちょっと皆で話し合ってもらえるかい? サップくんも交えて」
聡介の促しに、集まって話し始める男子チーム。それを見て、にわかにソワソワし始める女の子たちがいた。
「お待たせ。次に、ポポちゃん、ミアちゃん、ネラちゃんの三人は、イグニシアさんの手伝い、と言うかサザナミマスの下処理ができるようになって欲しいんだ」
「エルマお姉ちゃんみたいにですか」
ガビアルのネラが、落ち着いた口調で尋ねる。
「私、やりたい! やらせてください!」
トードフォークのポポが、両手を握りしめながら身を乗り出す。
「みんながいいなら、私もする〜」
愛嬌のある表情で、オッターフォークのミアが微笑んだ。
「そうだね、エルマちゃんみたいに動いてもらえたらいいね」
そう言うと、聡介はにこやかに笑いながら言葉を続けた。
「そうそう、エルマちゃんには保育もお願いしているよね。だから君たちにも、サザナミマスの加工がうまくいって商品になりそうなら、将来的にお店の売り子さんをしてほしいとも思っているんだ」
サラリと出たとんでもない情報に、ビックリするものの、すぐにキャイキャイとはしゃぎ始める女子チーム。歯止めが利かなくなる前に、聡介は告げた。
「えっと、大丈夫そうなら今日からでもシアさんやエルマちゃんに手ほどきを受け始めてくれるかな。シアさん、よろしくお願いします」
「心得た。皆、いこうか」
「「はい!」」
あーでもないこーでもないと話しながら厨房に向かう姿を見て、思わず苦笑する聡介。そこにライクがやって来た。
「話はまとまったぜ……。俺たちもやってみるよ。いつまでもサップの兄ちゃんに頼りきりじゃ、カッコ悪いしな」
よそを向きながら話すライクの後ろでは、力強く頷く三人の顔が見えた。
「わかりました。サップくん、明日は漁を休んでもいいから、みんなの動きを見たり、基礎的なことを教える時間を作ってくれるかい」
「お安いご用ッス! でもいいんッスか」
「大丈夫だよ、生け簀にもまだ余裕があるから。加工も試作段階だからそこまで消費もないし、焦らずゆっくりと教えてあげてね」
「了解ッス! じゃ取り敢えず船乗るッスよ!」
サップはそう言うと、部屋を出ていった。慌てて追いかける男の子たち。
部屋で一人になった聡介は、満足そうな笑みを浮かべながら、さらに先のことに思いを馳せていた。




