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【第三章開幕】異世界転移したおっさん保育士、子どもも大人も世界の歪みも、愛と受容でまるごと抱きしめる  作者: まどか
第三章:ひよこエプロンと、抗う露天街の子

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第67話:【なっっんだこれ〜〜!!】

それから暫くは、試行錯誤の時間が続いた。


サップは勿論のこと、イグニシアも実際に魚を締めてみながら、その手順を学んでいった。年少組を寝かしつけに行っていたエルマも、一段落したところで戻ってきて加わった。


「お待たせしました。私も何かお手伝いできることはありますか」


「ちょうどいいところに。エルマちゃん、これ食べてみてくれる?」


聡介が差し出したのは、下処理を終えたサザナミマスを焼いた一切れだった。エルマは少し戸惑いながらも口に運ぶ。


その瞬間、彼女の動きが止まった。


「……これ、本当にサザナミマスですか?」


「うん。泥臭さの元を、ちゃんと取り除いたんだ」


「すごい……。全然違います……私が何度挑戦しても、どうにもならなかったのに……」


エルマはそう言って、もう一口、二口と食べ進めた。その様子を見ていたサップが、得意げに胸を張る。


「ソウスケさんはすごいんッスよ。俺、目から鱗が落ちたッス」


エルマは肩の力を抜くように一息ついた。


「わたし……昼間サザナミマスを運んでるとき、実は憂鬱だったんです。また、あの泥くさい魚を食べるのかって……。」


話した内容は、思いがけず暗かった。しかし、エルマの目は生き生きと輝いていた。


「でも、食べてわかりました。これなら……きっと皆も喜んでくれます!」


「ありがとうエルマちゃん……。よし、じゃあもう一踏ん張りやっていこうか!」


聡介はそう言うとサザナミマスを壺から取り出していった。


そこからは、調理に関してもいくつもの方法を試していった。焼く、蒸す、すり身にして団子にする、身に細かい切れ込みを入れて骨を切る……。


劇的な変化を遂げたサザナミマスを食べてからというもの、可能性が見えた分、作業にも熱が入っていた。


────────────────


「基本的な下処理と調理はこんなところだね」と聡介が言った。「明日は加工の工夫もしていきたいかな。ちょっと思いついたことがあるから」


「ちょっ、ソウスケさん、まだ何かあるんッスか!」


サップが驚いたように声を上げる。


「思いつきだよ。上手くいくかは分からないんだ」


そう言いつつも、聡介の脳裏にはいくつかのアイディアが渦巻いていた。


ふと、思ったより魚を消費したことに気付き、聡介はサップに問いかけた。


「サップくん、サザナミマスは毎日届けてくれるのかい」


「頭領にはそう言いつけられてるッス。お望みとあらば毎日持ってくるッス」


「それはありがたい。よろしくお願いするよ」


「いやぁ、こちらこそッス!頭領たち、この美味いサザナミマス食べたら絶対ビックリするッスよ!」


初めて聞く処理の方法という思いがけない報酬があったことで、サップの機嫌はすこぶる良かった。


────────────────


「これくらいの量なら、そこまで時間を掛けずに消費していきそうだが、保管については考えなくてはならんな」


イグニシアの言葉に、ディーザが賛同する。


「はい、どうすればいいか、ちょっと相談しましょうか」


話し合った結果、園の横に桟橋を作り、そこに生け簀を設けられないかという話になった。それを横で聞いていたサップが口を挟む。


「人数少ないと厳しいッスね。材料も必要ッス。……ちょっと頭領に相談してみるッスか」


「えっ!いいのかい?そんな事までお願いして」


「何言ってるんッスかソウスケさん!このサザナミマスにはそれだけの価値があるッス」


そう言うと、サップは胸を張る。若干申し訳ない気持ちになりながら、聡介はサップに託すことにした。


────────────────


夕方、グラムの宿に向かうサップを見送る聡介たち。


たつのこ園に泊まることも提案したが、バザールから漁場までは距離があるということで、相当朝早くに出発する予定のサップは「皆を起こしたら申し訳ないッスから」と言って笑いながら辞退し、昼間と同じような軽い足取りでいってしまった。


────────────────


その日の夕食には、試行錯誤で作った試作品たちがずらりと並んだ。


身に細かい切り込みを入れて、骨を切ってから焼いたもの、すり身を棒状に加工して蒸したものや、団子状にしてからスープに入れて火を通したもの。


味付けは、今は樹海で手に入れた手持ちのハーブや薬味に頼っており非常にシンプルだった。調味料の不足などの課題はまだまだある。それでも、並んだ魚料理の数々は、普段よりずっと豪華な食卓に見えた。


しかし、そんな思いに反して、子どもたち、特に年長組の子どもたちの反応は薄かった。


「みんな、今日は魚料理の試作があるから、遠慮なく沢山食べてね……と思ったんだけど……どうしたの?」


聡介が訝しげに尋ねると、ライクが答えた。


「ソウスケ……こんな事言いたくないんだけどよ、俺たちサザナミマスなんて食い飽きてるんだよ」


ライクの顔は明らかに不満そうだった。


「つうか、こいつくらいしか食うものがなかったんだよ。……せっかくまともな飯が食えるようになったと思ったのに、結局はこれかよ。なんだよ、俺たちにはこんな魚がお似合いってことかよ」


「ライク!言い過ぎよ!何よ、いつの間にそんな根性なしになっちゃったの!黙って食べなさいよ!」


「んだと!もういっぺん言ってみろ!!」


「まぁまぁ、ライクくん」


聡介が、二人の間に割って入った。


「僕の説明が足りてなかった、ごめんよ。実はこのサザナミマス、美味しく食べられるようにちゃんと調理してあるんだ。泥臭くもないし、小骨も気にならないはずだよ。一度食べてみてくれないかな」


そんな聡介の言葉にも、ライクは半信半疑の様子だった。


「んなこと言ったって信じられるかよ、サザナミマスは所詮サザナミマスだろ……」


そうブツブツと文句を言いながらも、焼き魚をほぐし、口に入れる。


ライクの動きが止まった。


そして次の瞬間。


「なっっんだこれ〜〜!!」


そのあまりの落差に、その場にいた全員がぎょっとした顔でライクを見つめる。そんな事はお構いなしとばかりに、次々と焼き魚を口に運びながらライクは感想を漏らした。


「これ、本当にサザナミマスなんだろうな!?全然違うじゃねぇか!一体どうなってるんだ!」


ライクの口元が忙しい。そんな様子を見た面々は、次々と魚に手を付け始め、ライクと同じように驚愕した。小さな子どもたちは、普段と変わらぬ様子で、ワイワイと食事を進めていた。


────────────────


世話が一段落したエルマが、聡介の元にやってきて、そっと呟いた。


「上手く行って良かったですね」


「ええ……。皆のサザナミマスへ抱く気持ちを、読み損ねてました。ライクくんに気付かされてヒヤヒヤしましたよ」


「でも、結局は食べてもらわないと、本当に美味しいと分かることはできないですし、これで良かったんですよ」


「そうですね……」


聡介はそう言うと、食卓を見渡す。皿は次々と空になり、そこかしこで満足そうな顔が見えた。


聡介は立ち上がると、イグニシアを見やる。それだけで何かを察した彼女は一つ頷くと席を立った。


聡介は食卓を見わたすと、皆に聞こえるように声を上げる。


「さぁ、皆。ちゃんと美味しかったかな?実はまだまだ魚料理はあるんだけど……おかわり欲しい人!?」


そう言って手を挙げて促す聡介。その言葉に皆がこぞって手を挙げる。


よく見ると、ライクの手もちゃっかりと挙がっていた。


魚の香ばしい匂いが、調理場のほうから漂ってきていた。

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