第67話:【なっっんだこれ〜〜!!】
それから暫くは、試行錯誤の時間が続いた。
サップは勿論のこと、イグニシアも実際に魚を締めてみながら、その手順を学んでいった。年少組を寝かしつけに行っていたエルマも、一段落したところで戻ってきて加わった。
「お待たせしました。私も何かお手伝いできることはありますか」
「ちょうどいいところに。エルマちゃん、これ食べてみてくれる?」
聡介が差し出したのは、下処理を終えたサザナミマスを焼いた一切れだった。エルマは少し戸惑いながらも口に運ぶ。
その瞬間、彼女の動きが止まった。
「……これ、本当にサザナミマスですか?」
「うん。泥臭さの元を、ちゃんと取り除いたんだ」
「すごい……。全然違います……私が何度挑戦しても、どうにもならなかったのに……」
エルマはそう言って、もう一口、二口と食べ進めた。その様子を見ていたサップが、得意げに胸を張る。
「ソウスケさんはすごいんッスよ。俺、目から鱗が落ちたッス」
エルマは肩の力を抜くように一息ついた。
「わたし……昼間サザナミマスを運んでるとき、実は憂鬱だったんです。また、あの泥くさい魚を食べるのかって……。」
話した内容は、思いがけず暗かった。しかし、エルマの目は生き生きと輝いていた。
「でも、食べてわかりました。これなら……きっと皆も喜んでくれます!」
「ありがとうエルマちゃん……。よし、じゃあもう一踏ん張りやっていこうか!」
聡介はそう言うとサザナミマスを壺から取り出していった。
そこからは、調理に関してもいくつもの方法を試していった。焼く、蒸す、すり身にして団子にする、身に細かい切れ込みを入れて骨を切る……。
劇的な変化を遂げたサザナミマスを食べてからというもの、可能性が見えた分、作業にも熱が入っていた。
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「基本的な下処理と調理はこんなところだね」と聡介が言った。「明日は加工の工夫もしていきたいかな。ちょっと思いついたことがあるから」
「ちょっ、ソウスケさん、まだ何かあるんッスか!」
サップが驚いたように声を上げる。
「思いつきだよ。上手くいくかは分からないんだ」
そう言いつつも、聡介の脳裏にはいくつかのアイディアが渦巻いていた。
ふと、思ったより魚を消費したことに気付き、聡介はサップに問いかけた。
「サップくん、サザナミマスは毎日届けてくれるのかい」
「頭領にはそう言いつけられてるッス。お望みとあらば毎日持ってくるッス」
「それはありがたい。よろしくお願いするよ」
「いやぁ、こちらこそッス!頭領たち、この美味いサザナミマス食べたら絶対ビックリするッスよ!」
初めて聞く処理の方法という思いがけない報酬があったことで、サップの機嫌はすこぶる良かった。
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「これくらいの量なら、そこまで時間を掛けずに消費していきそうだが、保管については考えなくてはならんな」
イグニシアの言葉に、ディーザが賛同する。
「はい、どうすればいいか、ちょっと相談しましょうか」
話し合った結果、園の横に桟橋を作り、そこに生け簀を設けられないかという話になった。それを横で聞いていたサップが口を挟む。
「人数少ないと厳しいッスね。材料も必要ッス。……ちょっと頭領に相談してみるッスか」
「えっ!いいのかい?そんな事までお願いして」
「何言ってるんッスかソウスケさん!このサザナミマスにはそれだけの価値があるッス」
そう言うと、サップは胸を張る。若干申し訳ない気持ちになりながら、聡介はサップに託すことにした。
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夕方、グラムの宿に向かうサップを見送る聡介たち。
たつのこ園に泊まることも提案したが、バザールから漁場までは距離があるということで、相当朝早くに出発する予定のサップは「皆を起こしたら申し訳ないッスから」と言って笑いながら辞退し、昼間と同じような軽い足取りでいってしまった。
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その日の夕食には、試行錯誤で作った試作品たちがずらりと並んだ。
身に細かい切り込みを入れて、骨を切ってから焼いたもの、すり身を棒状に加工して蒸したものや、団子状にしてからスープに入れて火を通したもの。
味付けは、今は樹海で手に入れた手持ちのハーブや薬味に頼っており非常にシンプルだった。調味料の不足などの課題はまだまだある。それでも、並んだ魚料理の数々は、普段よりずっと豪華な食卓に見えた。
しかし、そんな思いに反して、子どもたち、特に年長組の子どもたちの反応は薄かった。
「みんな、今日は魚料理の試作があるから、遠慮なく沢山食べてね……と思ったんだけど……どうしたの?」
聡介が訝しげに尋ねると、ライクが答えた。
「ソウスケ……こんな事言いたくないんだけどよ、俺たちサザナミマスなんて食い飽きてるんだよ」
ライクの顔は明らかに不満そうだった。
「つうか、こいつくらいしか食うものがなかったんだよ。……せっかくまともな飯が食えるようになったと思ったのに、結局はこれかよ。なんだよ、俺たちにはこんな魚がお似合いってことかよ」
「ライク!言い過ぎよ!何よ、いつの間にそんな根性なしになっちゃったの!黙って食べなさいよ!」
「んだと!もういっぺん言ってみろ!!」
「まぁまぁ、ライクくん」
聡介が、二人の間に割って入った。
「僕の説明が足りてなかった、ごめんよ。実はこのサザナミマス、美味しく食べられるようにちゃんと調理してあるんだ。泥臭くもないし、小骨も気にならないはずだよ。一度食べてみてくれないかな」
そんな聡介の言葉にも、ライクは半信半疑の様子だった。
「んなこと言ったって信じられるかよ、サザナミマスは所詮サザナミマスだろ……」
そうブツブツと文句を言いながらも、焼き魚をほぐし、口に入れる。
ライクの動きが止まった。
そして次の瞬間。
「なっっんだこれ〜〜!!」
そのあまりの落差に、その場にいた全員がぎょっとした顔でライクを見つめる。そんな事はお構いなしとばかりに、次々と焼き魚を口に運びながらライクは感想を漏らした。
「これ、本当にサザナミマスなんだろうな!?全然違うじゃねぇか!一体どうなってるんだ!」
ライクの口元が忙しい。そんな様子を見た面々は、次々と魚に手を付け始め、ライクと同じように驚愕した。小さな子どもたちは、普段と変わらぬ様子で、ワイワイと食事を進めていた。
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世話が一段落したエルマが、聡介の元にやってきて、そっと呟いた。
「上手く行って良かったですね」
「ええ……。皆のサザナミマスへ抱く気持ちを、読み損ねてました。ライクくんに気付かされてヒヤヒヤしましたよ」
「でも、結局は食べてもらわないと、本当に美味しいと分かることはできないですし、これで良かったんですよ」
「そうですね……」
聡介はそう言うと、食卓を見渡す。皿は次々と空になり、そこかしこで満足そうな顔が見えた。
聡介は立ち上がると、イグニシアを見やる。それだけで何かを察した彼女は一つ頷くと席を立った。
聡介は食卓を見わたすと、皆に聞こえるように声を上げる。
「さぁ、皆。ちゃんと美味しかったかな?実はまだまだ魚料理はあるんだけど……おかわり欲しい人!?」
そう言って手を挙げて促す聡介。その言葉に皆がこぞって手を挙げる。
よく見ると、ライクの手もちゃっかりと挙がっていた。
魚の香ばしい匂いが、調理場のほうから漂ってきていた。




