第65話:【即席の荷車と、不揃いな器たち】
「私は園に残って子どもたちをみていますね」
エルマがそう言って手を振り、聡介たちはサップの後に続いて歩き出した。
近くの桟橋に船を停泊させているという。その道中、イグニシアがディーザに小声で尋ねた。
「サップといったか。あいつはいつもあんな感じなのか」
「はい、あの調子なのでよくザガスさんに怒られています。が、本人はあまり気にしていないようで……。仕事はしっかりしているそうですし、悪い人ではないんですが」
「どうにも軽いな……初めて関わるタイプだ、落ち着かん」
眉根を寄せるイグニシアに、聡介が助け舟を出す。
「まぁまぁ、きっとそれが彼の良いところなんですよ。それを証拠にこんなに身軽に魚を届けてくれました。ザガスさんたちに任されているところを見るに、信頼しても良い方なんじゃないでしょうか」
「そうかもしれんがな……まぁ、追々慣れていくしかなさそうだな」
煮え切らないイグニシアの様子に苦笑を漏らした聡介の耳に、サップの元気な声が飛び込んできた。
「さぁ、着いたッスよ!どうぞご覧あれ!」
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サップが船に乗り込み、足元のハッチをバカッと開ける。そこは水面だった。サザナミマスと思しき魚がウジャウジャと跳ねている。船の下が生け簀のような構造になっていて、船底からアクセスできるのだろう。
「結構大きいんですね。それに活きが良い。アジや、大きいのだとサバくらいか……」
聡介がそう独りごちる横で、サップが得意げに言った。
「さぁ、こいつらをどこに運ぶッスか!頭領に言われてるんで、しっかり手伝うッスよ!」
聡介は少し悩んだが、素直に告げることにした。
「ごめんサップくん、昨日の今日でまだそこまで考えられてないんだ。少し相談してもいいかい」
「わかったッス!決まったら声をかけてくださいッス!」
サップはそう言うと、軽い調子で漁具の手入れを始めた。
聡介はディーザとイグニシアと集まり、相談を始める。
「すいません、展開が早すぎて、ここまでの想定が追いついていませんでした」
「何とか今日は凌がないといけないだろう。どうする」
「締めてから保管するのが、設備もない今の僕らには現実的だと思うんですが……」
聡介はそう切り出してから、ふと足を止めた。
「いえ、待ってください。締めてしまったら日持ちが限られます。生きたまま保管できれば、もっと長く持つはずですよね」
「一度聞いてみるか」とディーザが言った。
聡介はサップに声をかけた。
「サップくん、サザナミマスって、締めてからだとどれくらい持つんだい」
「そうっすねぇ、処理の仕方にも寄るッスが、大体2〜3日ッスね。何にもしなきゃすぐに痛むッス。足が早い魚ッスよ」
「2〜3日……それじゃ少し厳しいですね。でも、生きたままなら、もっと持ちますよね?」
「そりゃそうッスよ!生かしとけば何日でも平気ッス」
「ありがとう!」
聡介は会議を再開した。
「足が早いとなると、生きたまま保管がやっぱりいいですね。処理の仕方も、後々学ばせてもらいましょうか」
「旧バザールには、今は使われていない物が沢山残っています。それを集めて……」
「人手が足らん。子どもらにも手伝わせよう」
各々が意見を出し合い、見通しが立つと、すぐさま行動に移した。
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聡介は掃除の時に寄せ集めた廃材の場所にやってきた。
心棒になりそうな長い木材、車輪になりそうな丸い部材。お散歩リュックを下ろし、工具セットを取り出す。
「なんとか、なりそうかな」
小型ノコギリを手に取り、空いた方の手でエプロンのひよこを一撫でした。
「さぁ、はじめますか」
小型の金槌、ノミ、ヤスリ。手元でいくつもの音が小さく鳴り続ける。木を削る音、釘を打つ音、面を整える音。聡介の手が止まることはなかった。
しばらくして、廃材だったはずの材料が、頑丈そうな荷車の形に組み上がっていた。
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その間、ディーザはエルマと子どもたちを呼びに行っていた。
事情を説明すると、子どもたちは目を輝かせて旧バザールへ散らばっていった。使えそうな物を探す、という遊びのような響きが、その足を軽くしたのかもしれない。
「これはどう?」
「だめだよ、穴が開いてるもん」
「こっちは?」
「ちょっと小さくない?」
ワイワイと騒ぎながら、あちこちを覗き込む子どもたち。
しばらく時間をかけて、なんとか使えそうな物が集まった。それなりに大きな壺が何組か、タライのようなもの、バケツなど。見た目は不揃いだったが、無いよりはマシだ。それを桟橋まで運んでいく。
「なんとか、なりそうですね」
ほっと一息つくディーザに、エルマが言った。
「子どもたちも楽しそうでした。あれ、そういえばイグニシアさんは」
「彼女なら魚を受け入れるのに、調理室を整えに行っています。終わったら合流するかと」
「そうですよね、これからが大変ですもんね」
エルマはそう言うと、腕の中の壺を持ち直し、桟橋の方を見やった。
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準備を終えた一同が再び桟橋に集まると、用意した器に魚を移し始めた。
大湖水の水を満たした器に、サップが網で次々と魚を入れていく。三十センチほどもあるしっかりとした魚が、容器の中で元気に泳ぎ回っていた。
水と魚の入った器は、かなりの重量だった。だがイグニシアが難なく荷車に積み込み、皆で力を合わせて運んでいく。
それを何度か繰り返した。バランスを取るのが難しく、ゆっくりとしたペースではあったが、なんとか全てのサザナミマスをたつのこ園まで運び終えることができた。




