第49話:【拒絶の理由と、決意の朝】
「お前ら。うちの連中に、何してんだ」
路地の影から現れたリザードマンの少年は、聡介たちを真っ向から睨みつけた。
イグニシアの手が、無意識に剣の柄に触れた。
聡介は静かに手を上げて制止する。
「新顔の人間」と少年が言った。
「うちの連中を手懐けようとしてんじゃねえ。何のつもりだ」
「違うんだライク!」
聡介に助けられたトードフォークの子が前に出た。
「この人たちは、さっき組合の奴らから僕たちを助けてくれたんだ!昨日も、怪我を治してくれて……」
「黙れ」
低い声だった。
トードフォークの子が口を閉じた。
ライクは拳を握りしめた。自分の言葉よりも、得体のしれない大人をかばう仲間の言葉が、情をかけられた事実よりもプライドに刺さるようだった。
「……チッ。余計なことを。俺たちが惨めに見えるだろ」
ライクの目が聡介を射抜いた。
「同情なら他所でやれ」
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聡介は怒らなかった。
ライクの言葉をそのまま受け取りながら、聡介はその細い肩を見ていた。
年齢の割に鋭い目をしているが、その下に何かが隠れている。仲間を背後に隠そうとする足元の動き。虚勢を張ることで保っているもの。
聡介はゆっくりと腰を落とした。ライクの目線に合わせて。
「同情じゃないよ」
「……っ」
「君が、この子たちを守っているリーダーなんだね。いつも、みんなのために一生懸命頑張っているんだ」
ライクが、一瞬だけ目を見開いた。
その表情が、ほんの一瞬だけ崩れた。
すぐに戻った。フンと鼻を鳴らして、そっぽを向く。
「……知った風な口をきくな」
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その時だった。
壁際にいた小さなオッターフォークの子のお腹が、大きく鳴った。
子どもが真っ赤になって縮こまった。
聡介はお散歩リュックに手を伸ばした。昨日の乾燥果物の残りがある。みんなで分け合える量だった。
「これ、よかったら」
ライクの手が、伸びかけた仲間の腕を掴んだ。
「いらねえ」
「ライク、でも……」
「いらねえって言ってんだろ!」
路地に声が響いた。
ライクは仲間を自分の後ろに下げて、聡介を見た。
「大人の『親切』の裏に何があるかくらい、俺たちは嫌ってほど知ってんだ。ただ飯なんてものはない。何かを差し出さなきゃ、何かを奪われる。それがここのルールだ」
聡介は何も言わなかった。
ライクは仲間たちに「行くぞ」と言った。子どもたちが道具を抱えて、ライクの後に続く。
路地を出ていく直前、ライクがフードを深く被り直したディーザを一瞥した。
一秒にも満たない視線だった。
何も言わずに、消えた。
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路地裏が静まり返った。
聡介は差し出したまま残った手を、そっと下ろした。
(……大人の親切の裏に何があるか、知っている)
どれだけのことがあれば、あの年齢の子どもがそう言えるようになるのか。
「……ディーザさん」
聡介が振り返ると、ディーザがフードを外していた。
その表情が、いつもの冷静な顔ではなかった。
「……あの子は、ライクといいます」
ディーザは少し間を置いた。
「姉さんの、息子です」
「それじゃ、ゾルグさんの……」
ドランが言いかけて、黙った。
「ゾルグが、姉の亡くなった原因を追って動き回っていた頃……ライクはまだ小さかった。母親を亡くして、父親も傍にいない。私が面倒を見ようとしたんですが」
ディーザは視線を、ライクが消えた路地の奥に向けた。
「うまく、できなかった。私のやり方が、あの子には合わなかったんでしょう。ある日、いなくなっていました」
「……」
「探しましたよ。でも、見つけても、近づけなかった。あの目を見ると……姉さんを失ったことを、私の不甲斐なさを、また突きつけられるようで」
ディーザは小さく息を吐いた。
「だから、見て見ぬふりを続けていました。ゾルグには、言えていません」
聡介は静かにディーザの言葉を受け取った。
責めるような言葉は、一つも出てこなかった。ただ、ライクの目を思い出していた。
大人の親切を信じない目。疲れを隠した目。それでも仲間を守り続けている目。
聡介はエプロンの胸元をそっと握った。ひよこのアップリケが、指先に当たった。
「ディーザさん」
「……何ですか」
「僕、この街でやりたいことが決まりました」
ディーザが聡介を見た。
聡介は前を向いていた。
バザールの喧騒が、路地の外から聞こえてくる。その中に、どこかで子どもの声が混じっていた。




