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【第三章開幕】異世界転移したおっさん保育士、子どもも大人も世界の歪みも、愛と受容でまるごと抱きしめる  作者: まどか
第三章:ひよこエプロンと、抗う露天街の子

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第49話:【拒絶の理由と、決意の朝】

「お前ら。うちの連中に、何してんだ」


路地の影から現れたリザードマンの少年は、聡介たちを真っ向から睨みつけた。


イグニシアの手が、無意識に剣の柄に触れた。


聡介は静かに手を上げて制止する。


「新顔の人間」と少年が言った。


「うちの連中を手懐けようとしてんじゃねえ。何のつもりだ」


「違うんだライク!」


聡介に助けられたトードフォークの子が前に出た。


「この人たちは、さっき組合の奴らから僕たちを助けてくれたんだ!昨日も、怪我を治してくれて……」


「黙れ」


低い声だった。


トードフォークの子が口を閉じた。


ライクは拳を握りしめた。自分の言葉よりも、得体のしれない大人をかばう仲間の言葉が、情をかけられた事実よりもプライドに刺さるようだった。


「……チッ。余計なことを。俺たちが惨めに見えるだろ」


ライクの目が聡介を射抜いた。


「同情なら他所でやれ」


────────────────


聡介は怒らなかった。


ライクの言葉をそのまま受け取りながら、聡介はその細い肩を見ていた。


年齢の割に鋭い目をしているが、その下に何かが隠れている。仲間を背後に隠そうとする足元の動き。虚勢を張ることで保っているもの。


聡介はゆっくりと腰を落とした。ライクの目線に合わせて。


「同情じゃないよ」


「……っ」


「君が、この子たちを守っているリーダーなんだね。いつも、みんなのために一生懸命頑張っているんだ」


ライクが、一瞬だけ目を見開いた。


その表情が、ほんの一瞬だけ崩れた。


すぐに戻った。フンと鼻を鳴らして、そっぽを向く。


「……知った風な口をきくな」


────────────────


その時だった。


壁際にいた小さなオッターフォークの子のお腹が、大きく鳴った。


子どもが真っ赤になって縮こまった。


聡介はお散歩リュックに手を伸ばした。昨日の乾燥果物の残りがある。みんなで分け合える量だった。


「これ、よかったら」


ライクの手が、伸びかけた仲間の腕を掴んだ。


「いらねえ」


「ライク、でも……」


「いらねえって言ってんだろ!」


路地に声が響いた。


ライクは仲間を自分の後ろに下げて、聡介を見た。


「大人の『親切』の裏に何があるかくらい、俺たちは嫌ってほど知ってんだ。ただ飯なんてものはない。何かを差し出さなきゃ、何かを奪われる。それがここのルールだ」


聡介は何も言わなかった。


ライクは仲間たちに「行くぞ」と言った。子どもたちが道具を抱えて、ライクの後に続く。


路地を出ていく直前、ライクがフードを深く被り直したディーザを一瞥した。


一秒にも満たない視線だった。


何も言わずに、消えた。


────────────────


路地裏が静まり返った。


聡介は差し出したまま残った手を、そっと下ろした。


(……大人の親切の裏に何があるか、知っている)


どれだけのことがあれば、あの年齢の子どもがそう言えるようになるのか。


「……ディーザさん」


聡介が振り返ると、ディーザがフードを外していた。


その表情が、いつもの冷静な顔ではなかった。


「……あの子は、ライクといいます」


ディーザは少し間を置いた。


「姉さんの、息子です」


「それじゃ、ゾルグさんの……」


ドランが言いかけて、黙った。


「ゾルグが、姉の亡くなった原因を追って動き回っていた頃……ライクはまだ小さかった。母親を亡くして、父親も傍にいない。私が面倒を見ようとしたんですが」


ディーザは視線を、ライクが消えた路地の奥に向けた。


「うまく、できなかった。私のやり方が、あの子には合わなかったんでしょう。ある日、いなくなっていました」


「……」


「探しましたよ。でも、見つけても、近づけなかった。あの目を見ると……姉さんを失ったことを、私の不甲斐なさを、また突きつけられるようで」


ディーザは小さく息を吐いた。


「だから、見て見ぬふりを続けていました。ゾルグには、言えていません」


聡介は静かにディーザの言葉を受け取った。

責めるような言葉は、一つも出てこなかった。ただ、ライクの目を思い出していた。


大人の親切を信じない目。疲れを隠した目。それでも仲間を守り続けている目。


聡介はエプロンの胸元をそっと握った。ひよこのアップリケが、指先に当たった。


「ディーザさん」


「……何ですか」


「僕、この街でやりたいことが決まりました」


ディーザが聡介を見た。


聡介は前を向いていた。


バザールの喧騒が、路地の外から聞こえてくる。その中に、どこかで子どもの声が混じっていた。

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