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【第三章開幕】異世界転移したおっさん保育士、子どもも大人も世界の歪みも、愛と受容でまるごと抱きしめる  作者: まどか
第三章:ひよこエプロンと、抗う露天街の子

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第48話:【路地裏の出会い】

ピヨすけが飛んでいった先は、大通りから一本入った路地だった。


華やかな街灯の光が届かない。石畳は粗く、壁には染みが広がっていた。生ゴミと湿った泥が混ざったような臭いが、路地の奥から漂ってくる。


整えられたきれいな大通りとは全く違う。まさにそこは華やかなバザールの裏だった。


駆け込んだ聡介は、一瞬足を止めた。


ひっくり返された荷車が目に入った。靴磨きの道具らしきものが散らばっている。小さな壺や布が、石畳の上に転がっていた。使い古された道具だった。安物だが、丁寧に手入れされた跡がある。


そこにいたのは、数人の子どもたちだった。

オッターフォークの小さな子どもが、壁際で膝を抱えていた。


その隣には、昨日聡介が手当てをしたトードフォークの子も混じっていた。膝の傷には、聡介が貼った布が残っている。


子どもたちの前で、ピヨすけが羽を逆立てていた。「ピピッ!」と鋭く鳴き、翼を精一杯広げて相手を威嚇している。


その小さな体が、自分より何倍も大きな相手に向かって、一歩も引いていなかった。


相手は、組合のバッジをつけた人間の男が二人いた。一人が子どもたちを怒鳴りつけ、もう一人が散らばった道具を足で蹴っていた。


「おまえら、誰の許可を得て商売をしている!非公認の商売は許可証なしじゃ一律没収だ!分かってんのか!」


子どもたちが壁際に固まっていた。一人が小さなコインの袋を胸に抱えて、離さないようにしている。男がそれに手を伸ばした。


「待ってください」


聡介が前に出た。考える前に足が動いていた。


男が怪訝そうな顔をして振り返った。


「なんだお前は」


「通りすがりです」と聡介は言った。


その目は穏やかだった。でも、絶対に引かない目だった。


「子ども相手に、随分とご立派なルールですね」


「ルール違反はルール違反だ!大人も子どもも関係あるか!口出しするな!」


「許可証のない商売が違反なのは分かります」と聡介は続けた。


「でも、道具を蹴り散らすのはルールに書いてありましたか。そもそも、あなたが奪おうとしたそのお金が、違法な商売で稼いだものという証拠はありますか?」


男の顔が赤くなった。


「なんだと……っ、お前、どこの者だ!組合の証は持っているのか!」


「持っていません。ただの旅人です」


聡介は動かなかった。


「ただの旅人が調子に乗ってんじゃねぇ!」


その様子に激昂したもう一人の男が、聡介に手を上げようとした瞬間だった。


後ろに控えていたフード姿の二人が、静かに一歩前に出た。


フードの奥から覗く眼光が、路地裏の空気を変えた。イグニシアは何も言わなかった。ただ、そこに立っているだけで、獣が本能的に感じ取るような圧力があった。


ドランの尾が、ピシャリと石畳を打った。


男が固まった。顔から血の気が引いていく。


「ち……チッ。覚えとけよ」


捨て台詞を吐いて、二人の男は足早に路地を出ていった。


────────────────


足音が完全に遠ざかってから、聡介は子どもたちに向き直った。


「大丈夫? 怪我はない?」


子どもたちが顔を見合わせた。昨日手当てをしたトードフォークの子が、おずおずと頷いた。


「……うん」


「良かった」


聡介は膝をついて、散らばった道具を拾い始めた。壺を一つひとつ確認して、何処か割れていないかを確かめながら。


「先生、これも」とドランが壺を拾い上げた。


ピヨすけが聡介の肩に戻ってきて、「ピヨッ」と小さく鳴いた。


「ピヨすけ、ありがとう。よく気づいたね」


ピヨすけが得意げに羽をふくらませた。


子どもたちがそれを見て、少しだけ表情を緩めた。安心感のある空気が流れたことで、オッターフォークの子が立ち上がり、恐る恐るながらも散らばった布を拾い上げた。


「靴磨きをしていたんですか」と聡介は聞いた。


子どもたちが黙って頷いた。


「バザールで働く許可はもらってるんだ」と、トードフォークの子が小さな声で言った。


それを皮切りに子どもたちが口々に話をし始める


「荷物運びや商人達の御用聞き、掃除とか色々…」


「僕ら子どもだから、できない仕事もあるし…」


「もらった仕事だけじゃ食べていけなくて…靴磨きなら出来そうだって…」


「許可証をもらおうとしたんだ。でも断られて……だからこっそり」


「そうか」と聡介は言った。「よく頑張っているね」


子どもの目が、少し揺れた。


その時だった。


「おい」


路地の奥から、低い声が響いた。


さっきまで口々に話していた子どもたちが、ビクッと肩を揺らし、一斉に声の主へと視線を向けた。


「お前ら。うちの連中に、何してんだ」


路地の影から現れたのは、昨日聡介を睨みつけていたリザードマンの少年だった。


年の頃は十代の前半くらいだろうか。体格の割に目つきだけが鋭い。


だが、それは必死に虚勢を張り、世界を敵に回してでも仲間を守ろうとする、傷ついた子どもの目だった。


昨日より間近で少年を見た聡介には、警戒心を顕にし、睨みつけるその瞳の奥に、どこかどうしようもない、疲れのようなものが滲んでいるように思えた。

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