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異世界転移したおっさん保育士、子どもも大人も世界の歪みも、愛と受容でまるごと抱きしめる  作者: まどか
第一章:ひよこエプロンと、荒ぶる竜人の子

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第4話【竜人族族長との邂逅】

「ほいくし? 何だそれは。……それより、人族たる貴様がなぜ、我が同胞の、それも聖域の里のど真ん中にいる」


 地を這うような重低音。族長ギルガランの放つ威圧感は、並の戦士なら腰を抜かすほど鋭い。だが、聡介はといえば、無意識にエプロンのシワを伸ばしていた。


「さて。自分自身もなぜここにいるのか皆目見当がつかないのですが……そのあたりも含めて、少しお話をさせてはもらえませんでしょうか」


「見るからに怪しい、それも人族のオスの話をなぜ聞いてやらねばならん。お前たち、とっとと捕らえてしまえ! 素性は尋問して吐かせてしまえばよい」


 族長の合図で、槍の先端が一斉に聡介を向く。

 一触即発。物理的な死の気配。

 しかし、聡介の脳裏をよぎったのは、全く別の情景だった。


(……参ったな。完全に聞き耳を持ってくれそうにない。ああ、こんな保護者、前にもいたなぁ。あの時は確か、友だちに噛まれて怪我をしたって、終業後だったのに怒鳴り込んできたんだっけ……)


 死線の最中で、聡介の思考は過去の「修羅場」へと現実逃避を始めていた。目の前の槍衾よりも、あの時の理不尽な怒号の方がよっぽど恐ろしかったという経験が、彼に異常なまでの平常心を与えていた。


「待ってください、父上!」


 その硬直した空気を破ったのは、イグニシア副団長と呼ばれた女性の叫びだった。


「イグニシア、お前か! 栄えある竜人族戦士団の副隊長でありながら、何たる様だ。あと、公的な場では族長と呼べと言っているだろう!」


「……っ、すみません、族長。しかし、この男は……!」


 食い下がる彼女に対し、族長は一顧だにしない。むしろ感情を逆なでしてしまったのか、周囲で佇む戦士たちに対し、怒鳴りつけるように捕獲を促しだした。


「しかしもクソもあるか! わしは捕らえよと言っている! お前たち、早くしろ!」


 いよいよ兵士が踏み込もうとしたその時。


「まぁまぁ族長に副団長、ここは冷静に。戦士たちも戸惑っておりますから」


 人垣を割って現れたのは、族長や周囲の戦士たちとは対照的な、線の細い男だった。その足取りは軽く、顔立ちには柔和な――どこか世捨て人のような余裕すら感じさせる。


「ヴォルカ……。お前はまた軟弱なことを。それでどうしろというのだ」


 族長は忌々しげに言葉を吐くが、その視線には、この風変わりな息子ヴォルカの知性に対する、隠しきれない一目置くような色があった。


「ここは、私が話を聞いてみたいと思います。どうやら同胞が救われたようですし、見た限り悪い人間のようにも思いませんので」


 ヴォルカは飄々とした態度で、族長の鋭い視線を柳に風と受け流す。その頭の回転の速さと独特の空気感に、荒くれ者の戦士たちも毒気を抜かれたように足を止めた。


「それが軟弱だというのだ。……ふん、まぁいい、好きにしろ。ヴォルカ、後ほど報告に来い。イグニシア! お前はドランを連れてさがれ!」


 族長は鼻を鳴らし、重い足音を立てて去っていった。


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