第38話:【みずひかり保育園の日常 〜いわ組、ゴルド先生の毎日〜】
「みんな、じゃんけんって知ってる?」
すっかり保育園が日常の生活に溶け込んだある日の遊びの時間、聡介が子どもたちの前に立って、右手を持ち上げた。
「グー、チョキ、パー。この三つを使って、誰が強いか決める遊びだよ」
聡介は近くの石を拾い、お散歩リュックから小さなハサミと紙を取り出した。
「グーは石。チョキはハサミ。パーは紙。石はハサミに勝つ、ハサミは紙に勝つ、紙は石に勝つ。……ね、簡単でしょ」
「そのペラペラがが石に勝つの?」とアラクネの子どもが首を傾げた。
「紙は石を包むから、勝ちなんだよ」
「ふうん」
「まずやってみようか。せーの、じゃんけんポン!」
「「「じゃんけんポン!」」」
広場中にグーチョキパーが飛び交った。勝った子が「やった!」と叫び、負けた子が「もう一回!」と叫ぶ。
しばらくじゃんけんを楽しんだところで、聡介が手を叩いた。
「じゃあ、次はこれを使った遊びをしようと思います。……ちょっと待っててね」
聡介はエプロンのひよこを撫でながら少し考えた。
(じゃんけん列車がしたいけど、この世界に列車は……ないだろうなぁ。うん、じゃあアレンジしちゃおう。何がいいかな……。よし、大蛇の行進にしよう!)
「シアさん、ドランくん、先生方三人も来てください。お手本をやってもらいます」
呼ばれたイグニシアが「なぜ私が」と言いながらも渋々やってきた。
ドランが「僕も!」と飛びついてきた。シルク、ソラ、ゴルドが顔を見合わせながら集まってくる。
「この遊びはね、まず歌に合わせて走り回って、最後の合図で二人が向き合うんです。それから、じゃんけんをします。負けた人が勝った人の体に手を置いて、後ろに繋がる。それを繰り返して、長い列を作っていく遊びです」
「なんか……蛇みたいですね」とソラが言った。
「そう! だから歌はこんな感じ…」
聡介は皆を見回すと、ニッコリと微笑んでから歌い始めた。
「大ヘビの行進だ〜♪ ニョロリニョロリ行進だ♪ 仲間のヘビを見つけたぞ♪ 挨拶しましょ! やっほー♪」
「……やっほー?」
イグニシアが眉を寄せた。
「やっほーです」
「……やっほー」
「もっと元気よく」
「……やっほー!」
子どもたちが笑い転げた。
聡介とドランがお手本でやってみせた。
やっほーで向かい合って、じゃんけんをする。ドランが勝ち、聡介がドランの後ろに繋がった。
次にドランがソラとじゃんけんして、ソラが勝ったのでドランが後ろに繋がる。それを繰り返すうちに、蛇はだんだんと長くなっていった。
「ほら、大きな蛇になったよ。これを皆でやるんだ、どう?やってみる?」
子どもたちの目が輝いた。
「やりたい!」「ガロが先頭!」「ヤダ、ガロが先頭なの、ヤダ!」
「じゃあ始めましょうか!」
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広場が、歓声に包まれた。
「大ヘビの行進だ〜♪ ニョロリニョロリ行進だ♪」
聡介が走りながら歌う中、子どもたちが広場中を駆け回った。
アラクネの子が木の上でじゃんけんして列になっている。相手がいなくなると地上に降りてきて、アルラウネの子と向き合っていた。
勝った方が歓声を上げ、ガロが「ガロの勝ち!」と叫びながら後ろに長い列を引き連れていく。
途中から歌はみんなで歌うようになった。
それを見てソウスケはお散歩リュックからハーモニカを取り出し、おもむろに吹き出す。
広場に美しい旋律が流れる。
「なんだ、この心が洗われるような調べは…。」ゴルドが呟くと、周りの大人たちも目を丸くして頷いた。
「せんせー!じゃんけんまだ?」「おぉ、すまんすまん、じゃーんけん…」
呆気にとられる大人たちを尻目に、子どもたちはそんな事お構いなしとばかりに益々盛り上がっている。
「仲間のヘビを見つけたぞ♪ 挨拶しましょ! やっほー♪」
「「やっほー!!」」
広場の端の切り株に腰掛けたエルドが、穏やかな目でその様子を眺めていた。各種族の子たちが混ざり合った長い蛇が、うねうねと広場を縦断するたびに、老人の口元がかすかに緩んだ。
────────────────
その日の夕方、保育が一段落したタイミングでゴルドが聡介を呼び止めた。
「ソウスケ先生、相談があるんですが…」
「どうぞ」
「俺も……今朝の、ああいう遊び、やってみたいんです。でも、どうやればいいか」
ゴルドの大きな体が、珍しくもじもじしていた。
「いいですね。何かやってみたい遊びはありますか?」
「子どもたちみんなで、一緒に動ける遊びがいいなと。いわ組だけじゃなくて、アラクネの子もアルラウネの子も、みんなで」
聡介は少し考えた。
「じゃあ、今日の大ヘビの行進をアレンジしてみましょうか。ゴルド先生なりの工夫を加えて」
二人はその夜、焚き火を囲んで遊びの段取りを話し合った。
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翌日。
ゴルドが子どもたちの前に立った。
「えー……今日は、みんなで遊びます」
声は大きい。それは良い。だが、そこから先が出てこなかった。
「え、えーと……じゃんけんを……」
「なにするのー?」
「早くしよー」
「じゃんけんポン!」
勝手にじゃんけんを始めた子どもが出てきた。それにつられて別の子も始める。
あっという間に広場があちこちでバラバラのじゃんけんになった。
「ちょっ、待って、まだ説明が……!」
「ひっぱるなよー!」
「ガロが先頭!」「ヤダ!」
ゴルドが「落ち着いて!」と言えば言うほど、子どもたちはさらに元気になった。焦りが顔ににじみ出る。
「えーと、えーと……」
その時、ゴルドの隣にすっと聡介が来た。
「ゴルド先生」
小さな声だった。
「焦らなくていいですよ」
「でも……」
「うまくやらなくていいんです。一人でしなくてもいい。……子どもたちと一緒に作っていけばいいんです」
ゴルドが聡介を見た。
「時には先頭じゃなくて、中心になってもいい。ゴルド先生の大きな体と、よく通る声。それだけで十分、保育士の武器ですよ」
ゴルドは一度深く息を吸い込んだ。段取りは一度忘れて、一緒に遊ぼう、そう決めた。
「なあ、みんな。どんな遊びが楽しいと思う?」
大きくて力強い、でも荒々しくない声色だった。子どもたちが一瞬静かになる。
「昨日とは違うのがいい!」
「じゃあヘビを変えるか!なににする?」
「いもむし!」「とかげ!」「お花」口々に意見をいう子どもたち。
「うーん、決まらんなぁ…」少し負けそうなゴルドが弱った声を出すと「じゃあじゃんけんで決めれば?」とすかさず意見が飛び出る。
「それいいな!」ゴルドがニカッと笑って答えると、そこかしこでじゃんけんが始まった。
その輪に入っていき、意見を聞いたり、仲裁をしたりと動き回るゴルド。
しばらくの後、なんとか意見をまとめたゴルドは宣言する。
「じゃあ今日は“根っこ”の行進をするぞ!」
その声に「やったー!」「えーっ!」と様々な反応があったが、何度か遊んだらまた変えようとゴルドが言うと、納得したのか皆が総介の方を向いた。
聡介はその視線の意図を理解すると、ニヤリと笑いながら、チョイチョイとゴルドを指さす。
聡介の仕草につられた子どもたちの視線を浴びたゴルドは、胸を張って言った。
「よーし!歌うぞー!!」
「えっ、ゴルド先生が歌うの?」
「ダメか?」
「ううん、いいよ!面白そう」
ゴルドが「根っこの行進だ〜」と歌い始めた。音程は少し外れていた。でも声はよく通った。
子どもたちがゲラゲラ笑いながら「もっかい!」と言った。
「……もっかい?」
「もっかい!」
ゴルドが再び歌った。今度は少し大げさに。子どもたちがさらに笑った。
「じゃあ、みんなも一緒に歌おう!」
「やっほー!!」
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遊びが始まった。
ゴルドが中心にいて、困った子がいれば駆け寄り、じゃんけんの判定が揉めれば間に入り、転んだ子がいれば大きな手でそっと起こした。
ガロがゴルドのもとへ突進してきた。
「ゴルド! じゃんけんしよ!」
「おう、来い」
せーの、じゃんけんポン。ガロが勝った。
「やった! ゴルドの負け!」
ゴルドがガロの後ろに繋がった。オーガの大男が、小さなガロの後ろをのっしのっしとついていく。
その光景を見た子どもたちが、また笑い転げた。
ゴルド自身も笑っていた。
まるで大きな子どものように、全力で遊んでいた。
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夕暮れ時、広場が静かになった頃。
聡介はエルドの隣の切り株に腰を下ろした。
「今日も賑やかでしたね」
「ああ」とエルドが言った。「あの大きな若いのが、子どもたちの後ろをついて回っていたのが、おかしくてな」
「ゴルド先生ですね。……良い保育士になってきましたよ」
エルドがゆっくりと広場を見渡した。
「ここに来た頃は、みんなくたびれた顔をしていた。子どもたちも、大人たちも」
「そうだったんですね…」
「今は違う」
聡介も広場を見た。
片付けをしているシルクが、アラクネの子どもに何か話しかけられて笑っている。
ソラがいつものように、水場の周りの花に水をやっている。
ゴルドがガロに「また明日な」と言って頭を撫でている。
イグニシアが調理場を片付けながら、お姉様方と何か話している。
ドランがクリムを抱えて、最後まで残っていたアルラウネの子どもと並んで座っている。
「……依存してほしい訳じゃないんです」
聡介は静かに言った。
エルドが聡介を見た。
「どういうことだい」
「なんといえば良いのか……子どもたちも、新しい先生たちも、自分たちの足で立って、自分たちで環境を作っていけるようにする。それが、私のやりたい保育なんですよ。もし、いつか僕がいなくなっても、この場所がずっと優しくまわり続けるように…」
「そうか…」
「皆さんなら、大丈夫だと思っています。シルクさんが現場をまとめて、エルドさんが支えてくれれば」
「……私が、かい」
「はい」
エルドは少し間を置いた。
「保育士というのは、不思議な仕事だな。手がかからなくなることが、仕事の完成なのか」
「はは、まあ、僕の理想論ですけどね……。実際は常に新しい子どもたちとの出会いが続きますから。」
聡介は夕暮れの水場を見た。橙色の光が、水面に静かに揺れていた。
「子どもたちが自分で育っていけるように、環境を整える。それが今できる僕の仕事だと思っています。……整ったなら、あとはここにいる皆さんの方が、ずっとうまくやれます」
エルドがゆっくりと頷いた。
「……ソウスケ」
「はい」
「ここに来てくれて、ありがとう」
聡介は何も言わなかった。
ただ、夕暮れの広場を、もう少しだけ眺めていた。
※本作品はAIを創作のバディとして共に紡いでいます。詳しい想いや方針については、ぜひ【活動報告】をご覧いただけると嬉しいです!




