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【第三章開幕】異世界転移したおっさん保育士、子どもも大人も世界の歪みも、愛と受容でまるごと抱きしめる  作者: まどか
第ニ章:ひよこエプロンと、彷徨える樹海の子

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第37話:【みずひかり保育園の日常 〜くさ組、ソラ先生の毎日〜】

 開園当初の慌ただしさが、少しずつ落ち着き始めた頃のこと。


その日の午後、聡介が子どもたちを木陰に集めた。


「それじゃ、お話をしますよ〜!みんな、集まれ集まれ〜!」


アラクネの子どもたちが木の上から降りてきて、アルラウネの子どもたちが根を抜いて寄ってきて、ガロが「なんだなんだ」と言いながら最前列に陣取った。


聡介は子どもたちの前に腰を下ろすと、ゆっくりと語り始めた。


「むかしむかし、あるところに、ソウスケというおじいさんが住んでいました」


「じいさん?」とガロが首を傾げた。


先生がおじいさん、と子どもたちはクスクス笑いだす。


「そう、おじいさん。このおじいさんがね、ある日、樹海に巨大なキノコを見つけました。よし、これを引っこ抜いて、みんなで食べよう!……と思ったんですが、これがなかなか抜けない」


聡介が立ち上がり、見えないキノコを引っ張る真似をした。


「うんとこしょ、どっこいしょ。……でも、キノコは抜けません」


子どもたちが固唾を呑んで見守っている。


「そこで、おじいさんはイグニシアというおばあさんを呼びました」


「おばあさん!?」


イグニシアが調理場の方から「今、おばあさんと言ったか」と鋭い声を飛ばしてきた。


「お話の中だけですよ!」


聡介が笑いながら続ける。


「おじいさんがおばあさんを呼んで、おばあさんがおじいさんのうしろに繋がって、二人で引っ張ります。うんとこしょ、どっこいしょ。……それでも、キノコは抜けません」


「つぎはだれ?」とアラクネの子どもが身を乗り出した。


「次は、ドランくんを呼びました」


ドランが「僕だ!」と嬉しそうに手を挙げた。


「ドランくんがおばあさんのうしろに繋がって、三人で引っ張ります。うんとこしょ、どっこいしょ。……それでも、キノコは抜けません」


「つぎ! つぎ!」


子どもたちが口々に叫ぶ。


「次は、ピヨすけを呼びました」


肩のピヨすけが「ピヨッ」と鳴いて羽をばたつかせた。子どもたちが笑い転げる。


「ピヨすけがドランくんのうしろに繋がって、四人で引っ張ります。うんとこしょ、どっこいしょ。……まだまだ、キノコは抜けません」


「クリムも!」とドランが叫んだ。


「そう、クリムくんも呼びました。クリムくんがピヨすけのうしろに繋がって、五人で引っ張ります。うんとこしょ、どっこいしょ。……ぜんぜん、キノコは抜けません」


広場が静まり返った。


聡介がゆっくりと子どもたちを見渡した。


「さて、最後に誰を呼んだでしょう」


「ガロ!」「ガロだ!」「ガロに決まってる!」


全員が一斉に叫んだ。ガロが「そうだろ!」と胸を張った。


「そう、最後にガロくんを呼びました。ガロくんがクリムくんのうしろに繋がって、六人で引っ張ります。うんとこしょ、どっこいしょ、うんとこしょ……」


聡介が間を置いた。子どもたちが息を呑む。


「どっこいしょっ!!」


「「「ヤダ!!」」」


ガロが思い切り引っ張る真似をして、周りの子どもたちも一緒に「ヤダ!」と叫んだ。


「……スポーン! 大きなキノコが抜けました!」


わあっと歓声が上がった。ガロが「ガロが抜いた! ガロが!」と飛び跳ねている。


聡介は笑いながら子どもたちを見渡した。


「おーしまい♪」


────────────────


少し離れた場所で、ソラはその一部始終を見ていた。


子どもたちの表情が、聡介の語りの一言一言で変わっていく。固唾を呑んで、身を乗り出して、笑い転げて、一緒に叫ぶ。


(……すごい)


語り聞かせというものを、ソラは今日初めて見た気がした。いや、実際は聡介の語り聞かせは何度も見ている。


でも、こんなに子どもたちが全身で反応するのを見て、改めてその面白さを感じたのだ。


その日の夕方、ソラは聡介を呼び止めた。


「先生、私も……語り聞かせ、やってみたいんですが」


「いいですね。どんなお話をしようか考えていますか?」


「それが……私、あまりお話を知らなくて。アルラウネの昔話とか、種族に伝わるお話があればいいなと思うんですが、どこで聞けばいいのかも分からなくて」


聡介は少し考えた。


「それなら、直接聞きに行きませんか。種族の昔話を一番よく知っているのは、やっぱり年長者の方々だと思いますよ」


「でも……」


ソラが少しためらった。


「どなたか、思い当たる方はいますか?」


「……エルドさんは、昔からよくお話を聞かせてくれる方でした。でも、今は……あまり元気がなくて」


「一緒に会いに行きましょうか」


────────────────


エルドの住処は、広場から少し離れた巨木の根元にあった。


年輪を重ねた大樹のような重厚感のある肌。若木の瑞々しさはないが、その分どっしりとした存在感がある。


ただ、今のエルドからは、その存在感すら薄れているように見えた。


根を浅く土に差し込んだまま、うつむいて座っている。


「エルドさん」


ソラが声をかけると、エルドがゆっくりと顔を上げた。


「……ソラか。何の用だい」


「あの、保育園でお話を聞かせてほしくて……」


「保育園」


エルドは短く繰り返した。それきり、何も言わなかった。


「子どもたちに、アルラウネに伝わるお話を聞かせてあげたいんです。エルドさんは昔から、たくさんのお話を知っていらっしゃるから」


「……今更、私が行っても何にもならんよ」


エルドの声は穏やかだったが、その奥に諦めがあった。


「役に立たんと言われて、ここまで来た。何ができるというんだ」


ソラが言葉に詰まった。その隣で、聡介がエプロンのひよこを一撫でし、静かに口を開いた。


「エルドさん、一つだけ聞かせてもらえますか。今まで、どんなお話をしてきたんですか?」


エルドが聡介を見た。


「……あんたは誰だい」


「別俣聡介といいます。保育士です」


「ほいくし」


「子どもたちの味方です」


エルドはしばらく聡介を見ていた。それから、ぽつりと言った。


「……アルラウネの根がどこまで伸びているか、という話。水が地の底でどう流れているか、という話。樹海の木々が夜に何を話しているか、という話……。そういうのを、昔はよく話していたよ」


「それは、素敵なお話ですね」


「子どもたちが喜んでくれたのは、昔の話だ。今は……誰も聞きたがらん」


「そんなことはないと思いますよ」


エルドが眉を動かした。


「僕が今までいた場所でも、よくあったんです。年長者の方のお話を、子どもたちがとても楽しみにする、ということが。知識や経験から生まれるお話は、若い人には作れないものですから」


「……」


「一度だけ、試してみていただけませんか。子どもたちの反応を見て、それからまた考えていただければ」


エルドは長い間、黙っていた。


根が、土の中でゆっくりと動いた。


「……一度だけ、だよ」


────────────────


翌日、エルドが広場にやってきた。


子どもたちが集まる中、エルドはゆっくりと腰を下ろした。ソラが隣に寄り添う。


「……むかし、樹海にとても大きな木があってね」


低く、穏やかな声だった。


「その木の根は、地の底まで伸びていて、世界中の水の流れを知っていた。ある日、その木の根がたった一本だけ、はるか遠くの砂漠に迷い込んでしまったんだ」


子どもたちが静かになった。


「砂漠には水がない。根は乾いて、どんどん弱っていく。でも、諦めずに伸び続けた。もしかしたら、もう少し先に水があるかもしれないと思って」


ガロでさえ、じっと聞いていた。


「そうして何年も伸び続けた根は、ある日、小さな湧き水を見つけた。砂漠の真ん中に、ほんの少しだけ湧き出る、冷たくて透明な水を」


エルドが少し間を置いた。


「その根はそこに留まって、水を吸い上げ続けた。そして少しずつ、砂漠に緑を育てていったんだよ」


「……それで?」とアラクネの子どもが聞いた。


「それで、おしまいだよ」


「えーっ」


「物足りないかい?」


「もっと聞きたい!」


エルドの口元が、かすかに緩んだ。


「……そうかい」


その表情を、ソラは見逃さなかった。長い間、消えていた何かが、エルドの顔に戻ってきた瞬間だった。


「もう一つ、話しましょうか」


子どもたちが「やった!」と声を上げた。


────────────────


それからエルドは、定期的に広場に来るようになった。


来るたびに一つ、また一つとお話をした。アルラウネの昔話、樹海の植物の不思議な話、遠い土地の水の話。ネタは尽きなかった。


ソラはその傍らでいつも聞いていた。話が終わると、エルドに質問した。


教えてもらった話を、今度は自分でもしてみた。うまくいかない部分をエルドに直してもらった。


「ソラ、そこはもう少しゆっくり話すといい。子どもたちが絵を思い浮かべる時間が必要だから」


「はい。……こうですか」


「そう。良くなったよ」


エルドの声に、少しずつ張りが戻ってきた。広場に来る日が増えた。子どもたちが「エルドじいじ!」と駆け寄るようになった。


ある日、ソラが聡介に言った。


「先生、エルドさんが笑うようになりました」


「そうですね」


「私が保育園に誘ったのに、気づいたらエルドさんに教えてもらっている気がして」


「それで良いんですよ」と聡介は言った。


「保育って、一方通行じゃないですから。ソラさんがエルドさんから学んで、エルドさんがソラさんや子どもたちから元気をもらう。そういうものだと思います」


ソラはしばらく広場を見た。


エルドが子どもたちに囲まれて、穏やかに話している。その顔は、初めて会った日の活気のない表情とは、別人のようだった。


「……私、保育士になって良かったです」


聡介は何も言わなかった。ただ、穏やかに微笑んだ。

※本作品はAIを創作のバディとして共に紡いでいます。詳しい想いや方針については、ぜひ【活動報告】をご覧いただけると嬉しいです!

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