第36話:【みずひかり保育園の日常 〜いと組、シルク先生の毎日〜】
みずひかり保育園が開園して、しばらく経ったある日のこと。
「さあ、みんな集まれー!」
聡介の声に、アラクネ、アルラウネ、オーガの子どもたちがわらわらと広場の中央に集まってきた。
木の上から降りてくる子、根をすぽっと抜いて駆け寄る子、地響きを立てながら突進してくる子。それぞれの来方が既にカオスだったが、聡介は慣れた様子で全員を迎え入れた。
「今日はね、手遊びをしようと思います。まず先生がやってみるから、みんな見ててね」
いつものようにエプロンの胸元のひよこを一撫でしてから、聡介が両手を前に出した。
「グーチョキパーで、グーチョキパーで、なにつくろう、なにつくろう♪」
明るい節回しで歌いながら、指を動かし始める。
「右手はグーで左手はグーで〜♪ガロくん、ガロくん♪」
両手をぐっと握って前に突き出す。ガロが「なんだよ!」と言いながらもなぜか嬉しそうに胸を張った。
「右手はチョキで左手はパーで〜♪ピヨすけ、ピヨすけ♪」
チョキで作ったくちばしを、パーで作った羽の上に乗せる。
肩のピヨすけが「ピヨッ」と一声鳴いて、子どもたちから歓声が上がった。
「右手はグーで左手はチョキで〜♪クリムくん、クリムくん♪」
グーで丸い体を作り、チョキで尻尾を表現する。ドランが「似てる!」と叫んだ。
「右手はグーで左手はパーで〜♪シルク先生、シルク先生♪」
聡介がグーを胴体に見立て、パーの指を脚のように広げた。瞬間、シルクが「えっ」と固まった。
「どう? シルク先生に似てる?」
「……ぜんぜん似てないです」
「あはは、そうかもね♪」
子どもたちはすでに大爆笑だった。
「もっかい! もっかい!」
「ガロのもやって!」
「クリムのもう一回!」
聡介は何度も繰り返し、その都度少しずつ動きを大げさにしていく。
子どもたちはそれを真似して、広場中で思い思いのグーチョキパーが飛び交った。
少し離れた場所で、シルクはその様子をじっと見ていた。
(……楽しそう)
子どもたちの笑顔と、聡介の屈託のない動き。保育士が全力で遊んでいる、その姿が、シルクの胸の奥で何かを揺らした。
────────────────
その日の夕方、シルクは聡介を呼び止めた。
「あの……私にも、教えてもらえますか。手遊び」
「もちろんです。やってみましょう」
二人で向き合い、聡介がゆっくりと手の動きを教えていく。シルクは真剣な顔で何度も繰り返した。
「こうですか」
「そうです。上手いですよ」
「でも、子どもたちの前でするのは……緊張します」
「子どもたちの前でするのが、一番の練習ですよ」
シルクが目を丸くした。
「練習してからじゃないんですか」
「ある程度できたら、あとは本番の方が上達が早いんです。子どもたちは正直ですから、反応がすぐ返ってきますし。……明日、やってみましょうか」
シルクは一瞬躊躇したが、小さく頷いた。
────────────────
翌日。
子どもたちが広場に集まった。
シルクは前に立って、自分の細い指先を見つめた。昨日とは違う。いつも子どもたちと接している時とも違う。なんとも言えない緊張感が、喉の奥にじわりと広がっていた。
「シルク先生、楽しんでいきましょう!」
後ろから聡介の声が飛んできた。
(楽しむ……)
シルクは一度深く息を吸い込んで、顔を上げた。
「グーチョキパーでグーチョキパーで、なにつくろう、なにつくろう♪」
声が出た。手が動いた。子どもたちが一斉に真似をし始める。
「グーとグーで……えーと、ガロくん!」
「なんだよ!」とガロが元気よく反応する。笑い声が上がった。
(あ、笑ってくれた)
その瞬間、シルクの中で何かが解けた。
「チョキとパーで……ピヨすけ!」
動きが少し大きくなった。声のトーンが上がった。
(楽しい)
そう気づいた瞬間、シルクの指先が、自然に動き始めた。
「グーとチョキで……クリム! それと……」
ここまでは聡介に教わった通りだった。だが次の瞬間、シルクの体から細い糸がするりと伸びた。
「……あと、これで……くもの巣!」
糸が広場に張り巡らされた。
子どもたちが「わあ!」と声を上げた。
シルクはさらに糸を伸ばした。夢中になっていた。
「それと……お花!」「虹!」「お星様!」
糸が次々と形を変えていく。気づけば広場全体が糸の網に覆われていた。
木の上のアラクネたちが「なんだあれ」と覗き込み、アルラウネの子どもたちが根を糸に絡ませ始め、ガロが「ヤダ! ガロも!」と叫んで突進した。
「あ……あっ……あああっ!」
シルクの制御が追いつかない。糸がどんどん増えていく。ガロが突進した衝撃で網がたわみ、引っかかったアラクネの子どもが「きゃあ」と揺れた。
「シルク先生、いったん糸を緩めて!」
聡介の声でシルクがはっと我に返り、全身から力を抜いた。糸がゆっくりと収縮し、広場にふわりと降り積もった。
静寂。
(やってしまった……。私ってやっぱりダメなんだ。保育中に収拾もつけられなくて、先生に注意されても当然で……)
「シルク先生、子どもたちを見てください」
聡介の声に、シルクは恐る恐る顔を上げた。
子どもたちは、糸の山の中で転げ回って笑っていた。
「シルク先生、もっかい!」
「くもの巣、もっかいやって!」
「ガロも糸ほしい!」
「ソウスケ先生よりおもしろい!」
「……え」
シルクは呆然と立ち尽くした。
聡介が隣に来て、小さく笑った。
「続けましょうか、シルク先生」
「……は、はい」
それからシルクは、糸の制御が追いつかなくなりながらも、子どもたちのリクエストに応え続けた。途中から笑いながら糸を出していた。
────────────────
夕方、子どもたちが帰った後。
シルクは疲れ果てた顔で切り株に座り、それでもどこか満足そうだった。
聡介が隣に腰を下ろした。
「お疲れ様でした」
「……先生。私、やっぱり不器用ですね」
「そうですか? 僕には、途中からとても楽しそうに見えましたけど」
シルクは黙った。
「手遊びとか、遊びも全部そうなんですが……まず保育士が楽しむことって、大切なんです」
聡介が、今日の自分の手遊びの様子を思い出すように言った。
「子どもたちは正直ですから、保育士が楽しんでいると、ちゃんと伝わります。シルク先生も途中から、すごく楽しそうでした。あれでいいんですよ」
シルクは、今日の子どもたちの顔を思い出した。糸の山で転げ回って笑っていた顔。「もっかい」と叫んでいた声。
「……ソウスケ先生より面白い、なんて言われたのは、初めてでした」
「僕も初めて言われました、そんなこと」
二人は顔を見合わせて、笑った。
────────────────
次の日から、シルクは積極的に手遊びをするようになった。
毎回少しずつ糸のアレンジが加わり、毎回少しずつ収拾がつかなくなり、毎回子どもたちが大喜びした。
その顔は、開園初日の緊張した表情とは別人のように、生き生きとしていた。
【著者からのお知らせ】
「小説家になろう」の新しいガイドラインに基づき、本作品に「AI直接使用」の表示を設定いたしました。
私の執筆は、一貫して「AIを創作のバディ(相棒)」として迎えるスタイルをとっています。物語のプロットやキャラクターの芯、作品の魂はすべて私自身が考案し、描写の肉付けや推敲のプロセスをAIと共に二人三脚で創り上げています。
決して自動生成に丸投げした作品ではなく、より面白い物語を皆様に届けるための、新しい形の全力投球です。これからも変わらぬ熱量で聡介たちの日常と激動を描いていきますので、どうぞよろしくお願いいたします!




