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第52話 完成


 マグナスはゆっくりと動くコールについていくように、ゆっくりと歩きながらコールの様子を確認している。

 そしてコールはステラの要望に応える様に工房の中をうろうろと浮遊しており、時々手ヒレを動かしている。


「ぅぅ…… やばい、頑張ってきてよかったです」

「思うわ。いやぁ、これは良いもんだ」

「だな。これはテンションが上がるわ」


 ニルたちはから少し離れ、わいわいと言いながらコールに構っている。

 特に、元々機械生命体アーティファクト・クリーチャーを欲しがっていたガルスとステラの二人のかわいがり方は別格だ。

 手を握る様にヒレを触ったり、頭を撫でてみたり。

 コールも体を揺らしたり、頭をくいくいと上げてみたりと、パーティーの関係は良好だ。時折背中から吐き出す炎が、喜びを表しているようにも見えてくる。


『しかし……コールの製造で、ここまでの冒険で手に入れた素材はほとんど使い果たしてしまいましたね』

「ああー…… 確かにそうなるか」


 背中からかけられた冷静なクロードの声に、ニルは「ふーむ」と、考え込むように腕を組む。


「まあいいじゃないですか! 依頼をやれば問題ないですよ!」

「そうだぜ! ケチくさいこと言うなって、二人とも!」

「惜しんだわけじゃないんだが……まあいいか」

『勿論分かっていますよ、二人とも。お金の問題ではありませんし』


 ニルとガルスの元気いっぱいの言葉に、コールが同意する様に炎を吐いた。

 小さな鋼の小山から、ぼふっ、と赤い炎が吹き上がる。


「コール、すまんって。怒らないでくれ」

『呆れている可能性もあります』

「じゃあ笑ってるってことで」

「ニルさん……」

「調子いいな、お前」


 ニルはいつもの調子でそう言って笑った。

 コールがどう思っているかは分からなかったが、少なくともステラは呆れていた。横に居るガルスは、やれやれと言った感じに肩を竦めて苦笑している。


「……クロード、コールの心臓の調子はどうだ?」


 ニルたちのやり取りの合間に、手元のメモを取っていたマグナスが、クロードに質問を投げた。どうやら、ここからは真面目な話らしい。


『魔力の減少はほぼ確認できません』

「やはりか……」

「なんだよ。マグナスさん、予想できてたのか?」


 クロードの言葉に、マグナスは納得する様にメモの一部を〇で囲うようにチェックを入れた。

 そして新しく別の項目を〇で囲うと、その二つを繋げるように矢印を書き入れる。


「確証はなかったがな。登竜門は特性上、魔力の充填率が100%に近い状態が一番『軽い』んだ。ステラに撫でまわされている割には、コールは動きの精密さが落ちていないように見えたからな。もしかして、とは思っていた」


 マグナスはニルの質問に答えつつ、メモに新しく何かを記載する。

 そうして手を口元に持っていき「ふーむ……」と少し唸ると、腕を組みながら顔を上げる。


「これから実数値を測っていく必要はあるが、このペースなら心臓一つで3時間を割ることはないだろう。戦闘を行うのであれば、もっと短くなる筈だが……」

「おお、マジか! それなら、十分冒険に連れて行けるな!」


 ニルの言葉に、マグナスは「そうだな」と頷いた。


「回収効率が、想定以上に高い。当初は1時間程度を見込んでいたんだが、これなら実用的だ」

『それは素晴らしいですね』


 クロードの言葉に、マグナスは「ああ、良くも悪くもだがな」と答えた。

 その言葉に、ニルたちは不思議そうにマグナスを見る。

 効率が良いのだから、良いことではないか? そんな疑問をニルたちは感じているようだが、マグナスは少しだけ悩ましそうな表情を浮かべて言葉を続けた。


「連続で動かすのは、あまり良くない。回路に負担がかかる」

「どういうことだ?」

「当初は1時間を想定していたと言っただろう? 回路が焼き切れる可能性が否定できん」


 ガルスの疑問にマグナスは「何とも言えん部分ではあるが」と、言葉を続ける。


「オリハルコンは頑丈だが、当然連続稼働には限界がある。今回採用している特殊回路は、負担も大きいからな」

『休息が必要なイメージでしょうか?』

「なるほど。生き物と同じってことか」


 クロードの言葉に納得する様に頷くニルに、マグナスは「そういうことだ」と笑いながら頷いた。


「おそらくだが、現状の心臓二つの状態なら6〜7時間程度は問題なく動ける筈だ。だが、その後は動かした時間と同じだけは休ませてやりたい」

「へぇ、ほんとに生き物みたいなんだな」

「なら……朝から夕方まで動いて、夜は休憩って感じですね」


 マグナスの言葉に、ガルスとステラもふむふむと頷いている。

 そんな二人の言葉に同意する様に、マグナスも「ああ」と小さく頷く。


「ああ。生き物と同じリズムで動かしてくれ。それなら……死なない筈だ」


 そこで「壊れない」と言わなかったのは、マグナスの茶目っ気だった。

 彼の意図がニルたちにどう伝わったのか分からないものの、その言葉にステラは「一緒に過ごせそうですね」と、嬉しそうに笑っている。


「勿論、将来的にはもっと延ばせるかもしれん」


 マグナスはそう言って、のんびりと空を揺蕩う(たゆたう)コールを見た。


「理屈の話だが、心臓を増やせば稼働時間は延びる。3個、4個と増やしていけば、いずれは……」

「いずれは?」


 ニルの問いに、マグナスは「あくまでも理論上の話だが、心臓が6個あれば無限に動けるはずだ」と答えた。


「マジか!」

「ああ。回収効率が消費を上回るだろう。『計算上』はな」


 驚く目を輝かせるニルたちに、しかしマグナスは『計算上』という言葉を強調しつつ、言い聞かせるようにゆっくりと言葉を続けた。


「計算上は、所詮は計算上の話だ。いいか、よく覚えておけよ?」


 そう言って一拍を置いたマグナスの雰囲気は、気の良い技術屋でも、頑固で理解のある親父でもなかった。

 己の限界を知ろうとする厳しい求道者のような…… それでいて、若者を導く柔らかい神父のような、そんな不思議な雰囲気だった。


「この話は、あくまで理論値だ。理屈の上ではずっと動くかもしれないが……“生き物”を永遠に動かそうとした時点で、それはもう“生き物”じゃなくなる」


 コールの頭――ステラが考案した触れ合い機構に手を置きながら、マグナスは真剣な表情をふっと崩して笑みを浮かべる。


「クロードも言っていただろう? 休息(不必要)は、必要だ」

「分かったよ、お父さん。私、コールを働かせすぎない」


 神妙に頷くステラと、ニルたち。

 それに満足したマグナスは、「まあ!」と息を吸い込み、その笑みを大きくする。


「ほんとに無限稼働なんかしたら、オリハルコンの回路でも間違いなく焼き切れるがな! 回収設備も大型になりすぎるだろうし、そこまで真剣に考えんでも良いぞ」


 わははっ、と。

 そう言って豪快に笑うマグナスに、ニルたちの真剣な空気も溜息と共に抜ける。


「マグナスさん…… 無理ならなんで言ったんだよ」

「ガルスは大丈夫だろうが、ニルの方だ。お前さん、わりと突飛なことを思いつくだろう。釘を刺しておかないと、変な使い方を考えるんじゃないかと思ってな」

「おい、マグナスさんにもそう思われてるのかよ」


 ニルはガルスにそう笑われるも、やれやれと首を振った。


「どう考えても褒め言葉だろ、これは」

「勿論だ、褒めとるぞ」


 ニルがステラに「ニルさんのそれって長所ですけど、絶対短所でもありますよね」と呆れと笑いが入り混じったように、くすくすと肩を揺らしている。

 ガルスはどちらかと言えば納得しているように見えるが、表情を崩してやれやれと言った感じに手をあげながら肩を落とす。


『マグナス、少し疑問なのですが』

「うん? どうした?」

『現実問題として、構造としての連続稼働は可能なのでしょうか?』


 クロードは、そこが気になったらしい。

 マグナスは「ふーむ……」腕を組みながら、言葉を整理する様に少しの間顎を撫でて黙り込む。


「コールの構造を採用するのなら、超大型設備になるだろうが……不可能ではなかろう。おそらく、事実上は不可能だろうがな」

『なるほど……』

「でもそれ、素材があったらやれるってことなんだよな?」


 クロードは納得したらしいが、ニルが食いつく。

 そんなニルの様子に、マグナスは苦笑している。

 ガルスとステラは、「やっぱマグナスさんの言った通りじゃん」と笑っていた。


「お前さん、忘れとらんか? オリハルコンもかなり希少だが、ゴールの鎧……というか、熔鉄だな。そっちの入手が難しい以上、この機構の再現自体がほぼ無理だろ」

「そうか。熔鉄が必要なのか」


 熔鉄は、鉄の国で取れていた金属である。

 鉄嶺の町でも過去に製造したそれを使い回すしかない訳で…… つまり、熔鉄を手に入れようとするなら、鉄の国を根城に敷いてるあの【暴竜】を倒す必要があるということになる。


「……なるほど、確かに無理だな」

「だな。俺はもう暴竜には関わらんぞ」

「私もですよ。嫌ですからね」


 ガルスとステラもニルと同じ結論に至ったらしく、これが机上の空論である事に気が付いた。


「そう腐るな。オリハルコンがあれば回路は太くしてやれるし、未知の素材で強化してやれるかもしれん。何か素材さえ持ち帰ってくれるなら、何とでもしてやる」


 マグナスの心強い言葉に、ニルたちに笑みが広がる。


「流石だぜ、マグナスさん!」

「なら、その素材を探す冒険もありってことだな」

「そう言うことだ。まあ、売る以外の使い道ができたぐらいで考えとけ」

「コールのための冒険ですか…… それも面白そうだですね」


 ステラがそう言ってコールに触れると、コールは手を動かした。

 その様子は嬉しそうに興奮しているようにも、早く冒険に行こうと言っているようにも見える。

 ニルたちは顔を見合わせて、くすりと笑うのだった。




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