表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

155/157

ぷるっしゅの改良にて


 昼の営業を終えた店内に、まったりとした空気が漂っていた。

 リリィはカウンターの上でグラスを磨きながら、どこかそわそわしている。


「……シズクさん、さっきの話、本当っすか? 貴族のお屋敷で“ぷるっしゅ”出すってやつ」


「うん。まだ正式に決まったわけじゃないけど、見せてほしいって話は来てる」


「すっごいっす! でも、貴族って……きらきらした服着てる人たちっすよね? そんな人たちに食べてもらうとか、想像つかないっす!」


 リリィがオーバーに両手を広げてみせる。

 その様子にシズクは苦笑しながら、試作品の器を指で軽く叩いた。


「……確かに、今の“ぷるっしゅ”は味と見た目で勝負してるけど、高級感はまだ足りないかもしれないな」


「たしかに。見た目がもうちょっと豪華なら、お貴族様も“おぉ~”ってなるっすね」


「うん……」


 シズクは顎に手を当てて考え込む。


 ――どうやって、華やかに見せるか。


 ふと、頭の片隅に浮かんだのは日本での記憶だった。


 (……そういえば、金箔入りの酒とかあったな)


 ほんのひと粒、金が光を反射するだけで“特別感”が出る。

 味を変えずに高級感を演出できる、それは最高の演出だった。


「……金属を薄く延ばして、食べても平気なやつが作れたらいいんだけど」


「食べる金属っすか? え、それ体に悪くないんす?」


「金なら問題ないんだ。食べても消化されずに出るだけだから」


「へぇ~……師匠は何でも知ってるっすね!」


 シズクは小さく笑って立ち上がった。


「よし、ちょっと鍛冶場に行ってみようか」


「またカイルさんっすか?」


「うん、あいつなら試してくれるだろ」


 * * *


 夕方。


 炉の熱気と金属の匂いが立ちこめる鍛冶場で、カイルが火花を散らしていた。

 シズクの姿を見るなり、にやりと笑う。


「お、珍しいじゃねぇか。今日は道具の修理か?」


「いや、ちょっと変な相談を」


「お前の相談は大体変だぞ?」


 シズクは苦笑しつつ、金箔の仕組みを説明した。


「金を薄く打って、紙みたいにできないかと思って。料理や飲み物に入れて使うんだ」


「……は?」


 カイルは目を瞬かせ、まじまじとシズクを見る。


「お前、金を“食う”って言ったか?」


「食うというか……飲む。装飾用って感じ」


「まじか……そんな贅沢なもん、聞いたことねぇぞ」


「できそう?」


「薄く打つだけなら簡単だが、均一にするのは難しい。風が吹くだけで飛ぶぞ?」


「そこをなんとか」


 シズクの真剣な眼差しに、カイルが苦笑を返す。


「へっ……ったく、また面白いこと考えやがる。いいぜ、やってみるか」


「助かります」


「親父が聞いたら頭抱えそうだな……“鍛冶屋が金を食わせる仕事なんざ聞いたことねぇ!”ってな!」


 リリィが後ろで吹き出す。


「たしかに、ちょっと変な仕事っすね!」


「こいつの頼みはだいたいそうなんだよ」


 カイルが笑いながら火をくべ、金の延べ板を炉にくべる。

 炎の中で輝く金が、まるで溶けた太陽のようだった。


「薄く延ばしたあと、どう使うんだ?」


「“ぷるっしゅ”の上に散らして光らせたい。見た瞬間に“特別だ”と思わせたいんです」


「なるほどな……味じゃなく、印象で勝負するわけか。職人らしい考えだ」


「ありがとうございます」


 作業を見守りながら、リリィがぽつりと呟く。


「なんか……こういうの見てるとワクワクするっす。

 魔法でドーン!とかじゃなくて、人の手で“すげぇもん”作ってる感じ」


「そうだね。魔法がなくても、工夫で感動させることはできる」


 シズクの言葉に、カイルが笑みを浮かべた。


「……お前ら、ほんとに変わった組み合わせだな。だが嫌いじゃねぇぜ」


 やがて、カイルが金箔の試作品を差し出した。

 光を受けて、金色の薄片がふわりと舞う。

 リリィが思わず息をのむ。


「……きれいっすね」


「うん。これなら“ぷるっしゅ”にぴったりだ」


 それは、ほんのわずかな煌めき。

 だがその一片が、“特別な一品”へと姿を変える魔法だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ