ぷるっしゅの改良にて
昼の営業を終えた店内に、まったりとした空気が漂っていた。
リリィはカウンターの上でグラスを磨きながら、どこかそわそわしている。
「……シズクさん、さっきの話、本当っすか? 貴族のお屋敷で“ぷるっしゅ”出すってやつ」
「うん。まだ正式に決まったわけじゃないけど、見せてほしいって話は来てる」
「すっごいっす! でも、貴族って……きらきらした服着てる人たちっすよね? そんな人たちに食べてもらうとか、想像つかないっす!」
リリィがオーバーに両手を広げてみせる。
その様子にシズクは苦笑しながら、試作品の器を指で軽く叩いた。
「……確かに、今の“ぷるっしゅ”は味と見た目で勝負してるけど、高級感はまだ足りないかもしれないな」
「たしかに。見た目がもうちょっと豪華なら、お貴族様も“おぉ~”ってなるっすね」
「うん……」
シズクは顎に手を当てて考え込む。
――どうやって、華やかに見せるか。
ふと、頭の片隅に浮かんだのは日本での記憶だった。
(……そういえば、金箔入りの酒とかあったな)
ほんのひと粒、金が光を反射するだけで“特別感”が出る。
味を変えずに高級感を演出できる、それは最高の演出だった。
「……金属を薄く延ばして、食べても平気なやつが作れたらいいんだけど」
「食べる金属っすか? え、それ体に悪くないんす?」
「金なら問題ないんだ。食べても消化されずに出るだけだから」
「へぇ~……師匠は何でも知ってるっすね!」
シズクは小さく笑って立ち上がった。
「よし、ちょっと鍛冶場に行ってみようか」
「またカイルさんっすか?」
「うん、あいつなら試してくれるだろ」
* * *
夕方。
炉の熱気と金属の匂いが立ちこめる鍛冶場で、カイルが火花を散らしていた。
シズクの姿を見るなり、にやりと笑う。
「お、珍しいじゃねぇか。今日は道具の修理か?」
「いや、ちょっと変な相談を」
「お前の相談は大体変だぞ?」
シズクは苦笑しつつ、金箔の仕組みを説明した。
「金を薄く打って、紙みたいにできないかと思って。料理や飲み物に入れて使うんだ」
「……は?」
カイルは目を瞬かせ、まじまじとシズクを見る。
「お前、金を“食う”って言ったか?」
「食うというか……飲む。装飾用って感じ」
「まじか……そんな贅沢なもん、聞いたことねぇぞ」
「できそう?」
「薄く打つだけなら簡単だが、均一にするのは難しい。風が吹くだけで飛ぶぞ?」
「そこをなんとか」
シズクの真剣な眼差しに、カイルが苦笑を返す。
「へっ……ったく、また面白いこと考えやがる。いいぜ、やってみるか」
「助かります」
「親父が聞いたら頭抱えそうだな……“鍛冶屋が金を食わせる仕事なんざ聞いたことねぇ!”ってな!」
リリィが後ろで吹き出す。
「たしかに、ちょっと変な仕事っすね!」
「こいつの頼みはだいたいそうなんだよ」
カイルが笑いながら火をくべ、金の延べ板を炉にくべる。
炎の中で輝く金が、まるで溶けた太陽のようだった。
「薄く延ばしたあと、どう使うんだ?」
「“ぷるっしゅ”の上に散らして光らせたい。見た瞬間に“特別だ”と思わせたいんです」
「なるほどな……味じゃなく、印象で勝負するわけか。職人らしい考えだ」
「ありがとうございます」
作業を見守りながら、リリィがぽつりと呟く。
「なんか……こういうの見てるとワクワクするっす。
魔法でドーン!とかじゃなくて、人の手で“すげぇもん”作ってる感じ」
「そうだね。魔法がなくても、工夫で感動させることはできる」
シズクの言葉に、カイルが笑みを浮かべた。
「……お前ら、ほんとに変わった組み合わせだな。だが嫌いじゃねぇぜ」
やがて、カイルが金箔の試作品を差し出した。
光を受けて、金色の薄片がふわりと舞う。
リリィが思わず息をのむ。
「……きれいっすね」
「うん。これなら“ぷるっしゅ”にぴったりだ」
それは、ほんのわずかな煌めき。
だがその一片が、“特別な一品”へと姿を変える魔法だった。




