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仕入れの旅にて8


 旅に出て七日目。

 朝靄が晴れる頃、二人は小川のほとりで足を止めていた。

 そろそろ帰路につく頃合い――だが、シズクは腰を下ろして地図を広げる。


 「帰る前に、素材の整理をしておこう。昨日のスモークウッド、けっこうな量だしね」


 「了解っす! あたし、川で手ぇ洗ってくるっす!」


 元気よく答えたリリィは、小川の方へ駆けていく。

 水面は朝日を反射してキラキラと輝き、澄んだ流れの底まで見える。


 「わぁ……きれいっすねぇ……」


 しゃがみ込んで手を伸ばした――その瞬間。


 「うわっ、すべったぁ!」


 リリィの悲鳴とともに、水しぶきが上がった。


 「おい、リリィ!」


 慌てて駆け寄ると、彼女は膝まで水に浸かりながら、何かを掴んでいた。


 「し、師匠……これ……なんか、ぷにぷにしてるっす……」


 見ると、掌の上には透明なゼリーのような塊があった。

 太陽の光を受けて、淡くきらめくそれは――どう見ても、水でも石でもない。


 「……これは……」


 シズクはしゃがみこみ、それを指でつついた。

 ぷるん、と小さく震える。触れると冷たく、しかし溶けることはない。


 「なんか……生きてるみたいっすね」


 「いや、生物ではないと思う。……でも、この質感……」


 シズクは魔力を少しだけ流してみた。

 すると、ぷにぷにとした塊がわずかに硬さを変え、形を保つように膨らんだ。


 「おお……! すごいっす、それ!」


 「魔力反応があるってことは、素材として扱えるな」


 シズクは小瓶を取り出して、その透明な物体をいくつか詰めていく。


 「これ、“アクアジェル”とでも呼ぼうか」


 「アクアジェル……かわいい名前っすね」


 「水みたいで、でも溶けない。魔力で固さも変わる……これは、使えるかもしれない」


 シズクの脳裏に、ひんやりとしたゼリー菓子の記憶が浮かぶ。

 夏の日の喫茶店。透き通る器に盛られた、果実入りの涼しげなデザート。


 ――これを使えば、あんな菓子も作れるかもしれない。


 「師匠、もしかしてまた“新しいメニュー”っすか?」


 「ふふ、かもしれないね」


 「出たーっす! 新作フラグっす!」


 リリィがはしゃぎながら水をはねかける。

 シズクは笑って肩をすくめた。


 「まったく……まぁ、君の感の良さには助けられてるよ」


 「えへへー。じゃあ、帰ったらまず試作会っすね!」


 彼女の笑顔を見て、シズクも自然と頬を緩めた。


 ――スモークウッドとアクアジェル。


 この旅で見つけた二つの素材が、酒場の未来を少しずつ変えていく。

 その夕方、二人は背中の荷を軽く直し、森の道を戻りはじめた。

 夕陽が差し込む帰り道に、ほんのり甘い水の香りが漂っていた。


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