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仕入れの旅にて7

 旅に出て六日目。

 陽は高く昇り、濃い緑の森の中を抜ける風が心地よく肌を撫でていく。


 「今日はあの丘の向こうを探ってみようか」


 「了解っす! 昨日の森より、なんか匂いが濃いっすね」


 リリィが鼻をひくつかせながら、草をかき分けて進む。

 湿った土の香り、花粉を含んだ空気、どこか甘い木の香りが混ざり合っていた。

 鳥のさえずりが遠くで響き、虫の羽音が絶え間なく続く。


 「食いしん坊みたいな感想だな」


 「だって、木の匂いが甘いんすもん! この感じ、なんか燃やしたら香ばしくなりそうっす!」


 ――燃やしたら、香ばしく?


 何気ないその言葉に、シズクは足を止めた。


 「リリィ、今なんて言った?」


 「え? 燃やしたら良い匂いしそうって」


 「……その木、ちょっと削ってみて」


 リリィが手早く短剣を取り出し、幹の表面を少し削る。

 すると、湿った木肌から独特の香りがふわりと立ちのぼった。

 それはどこか甘く、それでいて鼻を突くような深みのある匂い。


 「……この香り……どこかで……」


 シズクの脳裏に、現代日本での記憶がよみがえる。

 キャンプの夜、炭火の上で燻されたベーコン。

 あの、食欲をくすぐる香り――スモークウッド。


 「まさか、似たような木があるとはな」


 「スモーク……? なんすかそれ?」


 「煙を使って、食べ物を美味しくするための木だよ。肉とか、チーズとか」


 「煙で!? そんなのアリなんすか!?」


 リリィの目が丸くなる。

 シズクは試しに小枝を拾い、ナイフで細く削ると、火の魔法で慎重に炙った。

 ほのかな煙が立ち上り、周囲に香ばしい香りが広がる。


 「うわっ……! これ、めっちゃ良い匂いっすね!」


 「だろ? 上手くいけば、店で“燻製料理”を出せるかもしれない」


 「くんせい……新メニューっすか!」


 興奮気味に身を乗り出すリリィ。


 「じゃあこの木、いっぱい持って帰るっす!」


 「持ちすぎて荷物が増えないようにな」


 「へーきっす! 魔法袋って便利っすね!」


 その姿に、シズクはつい笑ってしまう。


 「……ほんと、元気だな」


 「え? なんか言ったっすか?」


 「いや、なんでもない」


 太陽は森の木々の間から差し込み、白い煙が光に溶けて消えていく。

 小さな発見に胸を躍らせながら、二人は荷袋をいっぱいにして森を後にした。


 ――こうして見つけた“煙の木”。


 この出会いが、のちに酒場の新たな看板料理を生むことになるのだった。


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