仕入れの旅にて5
採取を終えた二人は、山を下りる道を静かに歩いていた。
空はすでに傾き、赤く染まった陽光が木々の間を縫う。
リリィは背中の荷袋を揺らしながら、嬉しそうに声を上げた。
「ふぅ~、いっぱい採れたっすね! これでしばらくは素材に困らないっす!」
「欲張りすぎて荷物が重くなっただけじゃないの?」
「そ、それは……が、頑張った証拠っす!」
軽口を交わしながらも、リリィの表情はどこか満ち足りていた。
山道の途中、小川のせせらぎが聞こえる。
シズクは足を止めて言った。
「少し休憩しようか。もうすぐ山のふもとだし」
「了解っす!」
リリィは荷物を下ろし、勢いよく腰を下ろした。
冷たい風が頬を撫で、汗を冷やしていく。
ふと、遠くから人の話し声が聞こえた。
「……ん? 誰かいるっす?」
視線を向けると、数人の冒険者がこちらへ向かってくるのが見えた。
革鎧を身にまとい、背には剣や弓を背負っている。
先頭の青年が声を上げた。
「おや、こんな山奥で会うとは。採取ですか?」
シズクは軽く会釈をして答える。
「ええ、蒼鉱石を少し」
「なるほど。俺たちは討伐任務でな。魔物が増えてきたって話を聞いて確認に来たんだ」
その言葉にリリィの目が輝く。
「討伐任務! かっこいいっすね!」
青年が少し笑って首を傾げた。
「君は見習いかな?」
「はいっ! まだまだ練習中っすけど、いつかは立派な魔法使いになるっす!」
胸を張るリリィに、冒険者たちは微笑ましそうに頷いた。
「その意気だ。無理だけはするなよ」
「ありがとうございますっ!」
冒険者たちは軽く手を振って山道を登っていった。
その背中を見送りながら、リリィがぽつりと呟く。
「……やっぱり、かっこいいっすね。ああいうの」
「そうだね。俺も昔は似たようなことしてたよ」
「師匠も?」
「うん。魔物退治とか依頼をこなしたり、今よりずっと動き回ってた」
リリィは尊敬のこもった眼差しを向けた。
「私も、いつか誰かを守れるようになりたいっす」
シズクはその言葉に少しだけ笑みを浮かべた。
「じゃあ、まずは無事に帰るところからだな」
「……はいっす!」
日が沈み始め、森の中に夜の気配が降りてくる。
リリィが荷物を担ぎ直し、シズクが先を歩く。
足元の小石を踏みしめながら、リリィは心の中で小さく呟いた。
――次に会う時は、少しでも胸を張って挨拶できるようになりたいっす。
その横顔を見ながら、シズクもまた、かつての自分を思い出していた。
“何もできなかった頃”の自分を。
そして、いま隣を歩く少女に、あの日の自分と同じ輝きを見ていた。
「行こうか、リリィ」
「はいっ!」
山を包む夕風がふたりの背を押す。
その風は、どこか希望の香りを含んでいた。




