仕入れの旅にて4
まだ霧が残る山道を、シズクとリリィは並んで歩いていた。
「うわぁ……空気が澄んでるっすね!」
「魔力の流れがきれいに循環してるからね。植物の育ちもいい」
「へぇ~。こういう場所で修行したら、私ももっと魔法うまくなるっすかね?」
「まぁ、練習次第かな」
軽口を交わしながら、二人は林の奥へと分け入っていく。
目的は、冷却効果を持つ希少鉱石――“蒼鉱石”の採取だった。
「カイルさん、これでまた面白い道具を作ってくれるといいっすね!」
「そうだな。あいつのことだから、たぶん徹夜してでも仕上げてくる」
シズクは笑いながら答える。
やがて、木々の合間から岩肌が見え始めた。
「この辺りが鉱脈っぽいな。リリィ、足元に気をつけて」
「了解っす!」
元気よく返事をしたものの、リリィの視線はすぐに周囲の草花に奪われていた。
「おっ、この花……火属性反応ありますね! 触っても大丈夫っすか?」
「やめた方がいい」
「えっ、なんで……ひゃっ!?」
ぱち、と火花が弾けた。
リリィは慌てて手を引っ込め、涙目でシズクを見る。
「い、今の絶対燃えたっす!」
「言わんこっちゃない」
「うう……危なかったっす……」
手をぱたぱた振る彼女を見て、シズクは苦笑する。
それでも、リリィの好奇心は止まらなかった。
「……あっ! あそこ、光ってるっす!」
少し離れた斜面の奥に、青白く光るものが見えた。
「師匠、あれが蒼鉱石っすよね!」
「たぶんそうだな。ただ、あの位置は少し危ない」
「大丈夫っす、ちょっと風で寄せます!」
リリィが手を構えた。
「《ウィンド・バースト》!」
轟、と風が吹き抜け、木々がざわめく。
「ちょ、リリィ! 出力が強い!」
「え、あっ――きゃぁぁっ!?」
勢い余って身体が浮きかけたその瞬間、シズクがすかさず腕を伸ばし、彼女の腰を掴んで引き戻した。
「危ないってば」
「す、すみませんっ……つい、力入りすぎたっす……!」
「まぁ、魔力制御はそんなもんだよ。失敗して覚えるしかない」
リリィはしゅんとしながらも、真剣な眼差しでシズクを見る。
「見てろ」
シズクは手を前に出し、指先に魔力を集めた。
ふっと風が流れ、岩壁を優しくなでるように吹き抜ける。
光の粒が淡く揺れ、蒼鉱石が根元からそっと引き抜かれた。
「うわぁ……! 今の、全然力んでないのに!」
「無理に押し出そうとせず、流れを掴む。
魔法は“力”じゃなく“調和”だからね」
「なるほど……流れ、っすね……!」
リリィはその言葉を何度も繰り返すように呟いた。
その目は、まるで子どもが新しい玩具を見つけた時のように輝いている。
シズクは少しだけ笑みを浮かべた。
「焦らなくていい。少しずつ慣れていけば十分だ」
「……はいっ!」
風が止み、霧が晴れる。
遠くの峰から差し込む光が、蒼鉱石の表面で反射してきらめいた。
「こういうの、なんか冒険者っぽくて楽しいっすね!」
「素材探しの旅だし、実際ちょっとした冒険だよ」
「へへっ、じゃあ私も立派な冒険者見習いっすね!」
「まだ“見習い”の“見習い”くらいかな」
「むぅ~、師匠、意地悪っす!」
笑い声が山にこだまし、澄んだ風が二人の間を抜けていった。
――その日、リリィはまたひとつ、小さくも確かな成長を遂げたのだった。




