仕入れの旅にて3
交易街アルメリア。
旅人と商人の往来が絶えない、山間の中継地である。
石畳の通りには屋台が並び、香ばしい匂いと人々の声が混ざっていた。
「うわぁ……すごい活気っすね!」
リリィは目を輝かせながら通りを見回した。
「旅の途中で立ち寄る人が多いからね。食材や素材も集まる」
「つまり師匠にとっては天国ってやつっすね!」
「そう言われると否定できないな」
笑いながら、シズクは店先に並んだ瓶を手に取った。
透き通った琥珀色の液体。ラベルには見慣れぬ草の名が記されている。
「これ……“ルーミア草”の抽出液か」
「知ってるんすか?」
「風属性の魔力を安定させる素材だよ。けど、酒に少量混ぜても面白いかもしれない」
「まさかまた実験っすか!」
「学びはいつだって現場から、だよ」
そう言って小瓶を買い求めると、リリィは横でパンを抱えていた。
「ほら、これ! 焼きたてのハーブパンっす! めっちゃいい匂いする!」
「……さっき昼食食べたばかりだろ?」
「デザートっす!」
「パンはデザートじゃないと思うけど」
シズクの言葉など耳に入っていない様子で、リリィは頬をふくらませていた。
通りを歩きながら、ふと露店の奥に見慣れない色の葉が見えた。
「ん?」
シズクは足を止め、その鉢植えを覗き込む。
葉の縁が紫がかっていて、光を受けるとわずかに青に揺らめく。
「この色……どこかで……」
「どうしたんすか?」
「似てるんだ。アズールリーフに」
「えっ、それって公爵様の宴で使ったやつっすよね!」
「そう。ただ、これは少し違う。魔力反応が……強い」
試しに指先で触れると、わずかに魔力の波動が指先をくすぐるように走った。
「これは改良種だな。自然に混ざって、魔力を蓄える性質を持ったのかもしれない」
「すごっ……! 師匠、これ持って帰ったらまた新しいお酒作れそうっす!」
「試してみる価値はある」
店主に尋ねると、旅人が稀に拾ってくる変異種らしく、まだ正式な名前もないという。
シズクは小鉢ごと購入し、包みを抱えた。
「……旅って、やっぱり勉強になるな」
「ですね! 美味しい物もいっぱいあるし!」
「食べる方ばっかりじゃないか」
「だって人生は食と冒険っすよ!」
シズクは思わず吹き出し、肩の力を抜いた。
こうして笑って旅をしている時間が、どこか懐かしく心地よい。
夕暮れ時、街の外れの宿に泊まることにした。
木造の素朴な宿屋で、湯気の立つスープの香りが鼻をくすぐる。
「師匠、明日はどこ行くんすか?」
「この辺りの山に、珍しい鉱石が出るらしい。カイルへの土産にもいいかと思って」
「鍛冶屋さんっすね! また喜びそうっす!」
「きっと、でかい声で笑うだろうな」
二人の笑い声が、夜の食堂に柔らかく響いた。
こうして――
酒場の外の世界で得た経験が、またひとつ新しい物語へとつながっていくのだった。




