仕入れの旅にて2
山道を抜けた先に、開けた街道が広がっていた。
木漏れ日が揺れる中、二人の影が並んで歩く。
「師匠、次はどこ行くんすか?」
「東の交易街だな。珍しいスパイスを扱う店があるらしい」
「スパイスっすか! 料理の研究ってやつっすね?」
「酒に使えそうなもんがあるかもしれない」
「さっすが師匠! やっぱり目的がブレないっす!」
「うるさいぞ」
軽口を叩きながら進む二人。
穏やかな風と旅の景色が、心地よい時間を運んでいた。
だが、丘を越えたあたりで、シズクがふと足を止める。
「……聞こえたか?」
「うん……なんか、人の声と……馬?」
次の瞬間、かすかな悲鳴が風に混じった。
二人は同時に顔を見合わせ、駆け出した。
林を抜けた先――小さな馬車が泥にはまり、数人の男たちがその周りを囲んでいた。
「……盗賊か」
「うわ、本当にいるんすね……!」
「興奮してる場合じゃない」
シズクが腰の剣に手を添え、一歩前に出た。
「すみません、その人たちに何を?」
静かな声で言うと、盗賊の一人がニヤリと笑った。
「見りゃ分かんだろ、“商談中”よ」
「強盗の間違いだな」
淡々と返すシズクの声に、男たちの表情が変わる。
「通りすがりのくせに、口の利き方に気をつけな」
剣を抜こうとしたその瞬間――。
リリィが手を前に出し、詠唱を短く切った。
「《エア・ブラスト》!」
突風が巻き起こり、砂が男たちの目を覆う。
視界を失った隙に、シズクが素早く踏み込み、片手を翳す。
「《ウォーター・バインド》」
地面の水気が瞬時に絡みつき、二人の体を縛り上げた。
残る一人が剣を振るうが、リリィの魔弾が正確に打ち抜く。
「わ、わぁっ……! 当たったっす!」
「狙ってたんだろ?」
「も、もちろんっす!」
短いやり取りの間に、戦闘は終わっていた。
男たちは尻餅をつき、震えながら両手を上げる。
シズクは剣を納め、商人に声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……助かりました。本当に、ありがとうございます!」
「馬も怯えてるな……地面がぬかるんでる。ちょっと待ってください」
シズクは軽く手を翳すと、足元の泥を固める。
「……え、今の魔法っすか?」
「実用重視だ。こういうのが一番役立つ」
「ほんっと師匠って器用っすねぇ」
リリィが感心している間に、馬車はゆっくりと動き出した。
「お礼に、これを……」
商人が小袋を差し出すが、シズクは首を振る。
「気持ちだけで十分です。困ったときはお互い様ですよ」
「……かっこいいっすね、師匠」
「おだてても酒は出さないぞ」
「ちぇー」
商人を見送ったあと、二人は再び街道を歩き出す。
「でも、すごかったっすね。私、ちょっと焦りました」
「焦らない冒険者なんていないさ。冷静に動けたのは上出来だ」
「へへっ……えへへ……褒められたっす!」
「褒めて伸ばすタイプか」
「たぶんっす!」
風が心地よく頬を撫でた。
ふと見上げると、青空の向こうに次の街の塔が見えている。
「……ま、こういう旅も悪くないな」
「ですね! 次はご飯食べて、温泉入って……」
「……お前、完全に観光気分だな」
笑い合いながら、二人は旅路を進んでいった。
――それは、穏やかで少し騒がしい、師弟の一幕だった。




