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仕入れの旅にて1


 夕暮れ時に辿り着いた村は、静かで穏やかな空気に包まれていた。

 小川が村の中心を流れ、木柵に囲まれた家々の煙突からは、夕餉を知らせる香りが漂っている。


 「うわぁ……いいとこっすねぇ」


 「旅人を歓迎してくれる雰囲気だな。今夜はこの村で宿を取ろう」


 「賛成っす!」


 二人は村の広場にある掲示板を見つけ、案内所らしき小屋へと向かった。

 中では年配の男性が帳簿をつけており、旅人の姿を見て目を細める。


 「ほう、珍しいのぉ。こりゃまた遠くから?」


 「はい。少し素材を探していて……“風果”という果実を、この辺りで見たと聞いたんですが」


 「風果か、あぁ……あれなら村の北の外れに群生しとるよ。風が吹くと、果皮がしゃらしゃら鳴くんじゃ」


 「本当にあるんすね!」


 リリィが目を輝かせ、身を乗り出す。

 男は笑いながら頷いた。


 「ちょうど見ごろじゃ。明日の朝行ってみるとええ。風が吹きゃ、きっときれいに鳴る」


 「ありがとうございます。宿はどこか紹介してもらえますか?」


 「この道をまっすぐ行った先、赤い屋根の家が“カナ婆さん”の宿屋じゃ。飯もうまいぞ」


 「助かります」


 案内を受けて宿屋へ向かうと、店先には干された薬草と果実が吊るされていた。


 「旅人さんかい? まぁまぁ、上がっとくれ!」


 ふくよかな老婦人――カナ婆さんが笑顔で迎えてくれる。


 「部屋は二階の奥。風通しがいいから気をつけな。夕飯はすぐ出すよ」


 「ありがとうございます」


 「シズク師匠、優しい人多いっすね」


 「こういう村は助け合いが基本だからな。人も土地も温かい」


 リリィは「なるほどっす」と頷きながら、宿の中をきょろきょろ見回していた。

 夕食は煮込みスープに焼き魚、地酒までついていた。


 「うまっ! このスープ、味がしみてて最高っす!」


 「だろうな。山菜の旨みが出てる」


 「……弟子になってよかったっすね、あたし」


 「なんの話だ」


 「だって、こんなおいしいもの食べながら旅できるなんて最高っす!」


 「……まぁ、それは否定できない」


 そんな他愛ない会話に笑いながら、夜は静かに更けていった。

 翌朝。

 太陽が山の稜線から顔を出すと同時に、二人は北の森へと向かった。

 木漏れ日の中、鳥のさえずりと風の音が混ざり合い、森の奥へ進むたびに空気が澄んでいく。


 「ねぇ師匠、これ……もしかしなくても、“気持ちいい”ってやつっすね!」


 「感想が小学生みたいだな」


 「うるさいっす!」


 笑いながら歩いていると、ふとリリィが指をさした。


 「……あれ! なんか光ってません?」


 シズクが目を凝らすと、木々の間で風に揺られて煌めく青い実が見えた。


 「――あれが、風果か」


 近づくと、手のひら大の果実が枝にいくつもぶら下がっていた。

 薄い皮はまるではねのようで、風が吹くたびに“しゃらん”と小さな音を立てる。


 「うわぁ……きれいっす! 本当に鳴いてるみたい!」


 リリィが見とれる横で、シズクは慎重に観察する。


 「なるほど、果皮の表面に薄膜の層がある……音はその震動だな。香りも……柑橘系に近い」


 「師匠、もう仕事モード入ってるっすね」


 「素材を見るとついな」


 小刀を取り出し、果実をいくつか丁寧に採取する。

 リリィも手伝いながら、嬉しそうに声を上げた。


 「これ、絶対お酒に合うっすよ!」


 「試してみる価値はありそうだ」


 昼前には予定していた数を集め終え、二人は森の出口で腰を下ろした。


 「これで仕入れ完了っすね!」


 「いや、もう少しだけ。この辺り、果皮の模様が違う種類もあるみたいだ」


 「えっ、まさかの追加調査っすか……」


 「仕事熱心なのは悪いことじゃないだろ?」


 「むむむ……そうっすけど!」


 ぶつぶつ言いながらも手を動かすリリィを見て、シズクは思わず笑ってしまう。

 昼下がり、山を下りる風に吹かれながら村へ戻る途中。

 リリィが小さく息を吐き、空を見上げた。


 「ねぇ師匠」


 「ん?」


 「こういうの、いいっすね。なんか、“冒険”って感じがして」


 「そうだな。俺も久しぶりにそんな気分だ」


 「ふふっ、じゃあ今日は“素材探索パーティー”っすね!」


 「……勝手に名前つけるな」


 そんな会話を交わしながら、ふたりの笑い声が山道にこだました。

 村の風がそよぎ、遠くで“しゃらん”と果実の音が響く。

 その音はまるで、これから始まる新しい発見を祝福しているかのようだった。



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