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なんでこんなことになったんだろう。
今更後悔しても遅い。
「────信じられる?こんな話」
先の騒動(…?)で時間がかなり経ってしまったことから、歩きながら今までのことを話した。
この世界は、私が好きだったゲーム…創作の物語の話に酷似していること。
その事を、力が目覚めた時に思い出したこと。
ペルラはどの結末を迎えても死んでしまうこと。
唯一、ペルラが女王になる展開だけが、ゲームになかったこと。
エリオットは急にそんなファンタジーな話をされて相当混乱していた。…うん、無理もないよね。
でも、私の話だからと、信じてくれた。
「…てことは、僕のことも知ってたの?」
「ん?んー…まぁ、ね。あの時は確信は持てなかったけど」
「…名前も?」
「そう、だね。その登場人物に似てるなーと思ってたら本人だったし…」
さ、さすがに本命とは言い難い…!
その言葉を聞いたエリオットの表情は、嬉しそうな、悲しそうな、あまりにも複雑で私には読み取れなかった。
「…そろそろ、かな」
長かった螺旋階段を降りきった先の小部屋の壁にある窪みを押す。すると、大きいな音を立て、隠されていた部屋への通路が現れた。
「っ…!!」
「ペルラ!」
だいぶ慣れた上にエリオットで中和されているはずなのに、込み上げる吐き気と不快感。
…間違いない、ここにラスボスが封印されている。
つまり、目的の最後の燭台はここにある。
「…ごほっ、だ、大丈夫。行こう」
「でも…」
「早くしないと、私だけでなくこの宇宙諸共消えることになる」
「…っ!」
その言葉にハッとしたエリオットは私を抱えあげた。…ん?
「エリオット、あの…歩けるけど…?」
「いいの。手だけより、密着する部位を増やせば少しは楽になるでしょ?」
「まぁ、そうだけど…!」
誰も見てないとはいえ、これはちょっと恥ずかしいって!てかね、怖いんですよちょっと!!
縮こまっていると、面白がって揺らしてきたので首の当たりを締めるかのように抱き着いたら謝りながらも笑っていた。
ぴちょん、ぴちょん、と規則正しい水の落ちる音がする狭い通路を抜けると、急に開けた場所に出る。
持っていたランタンと炎の力で当たりを照らすと、今までのより、数倍大きな燭台が鎮座していた。
「これ、が…」
「降ろして。ここからは歩くよ」
そこに降り立つと、足に絡みつくような瘴気にまた吐きそうになったが、エリオットが薙ぎ払う。
「せめて握ってて。燭台までの道は拓くから」
「…ありがとう」
炎で焼き、風邪で吹き飛ばし、緑で固め、水で流す。全ての力を自在に操り燭台までの道を切り拓く。
──いつの間に、こんなことを。全ての力を操るなんて。
そのおかげで、燭台まではさほど瘴気の影響を受けずに辿り着いた。
ひとつ、深呼吸をする。
この後どうなるかなんてわからない。
それでも私は、今後続く未来が少しでもエリオットに優しい世界であることを願った。
───────マルガリータ
「…なんか言った?」
「え?別になにも言ってないけど…」
「んん?」
不思議な声に疑問を抱きつつも、短銃を構える。
ラスボスが来ないならそのまま来ないでくれ。
ここに炎を灯せば、全てが終わる。
─────────ようやく、きてくれた
『私の愛しいマルガリータ』
「っ、え」
「ペルラっ!!!!」
そのまま燭台から落下した私の目には、どす黒い瘴気に取り込まれるエリオットの姿が見えた。