朝を待つ男
二人の男が話している。
「恵美ちゃんって覚えてるか?」
「覚えてるよ。俺の初恋相手だもん」
「そりゃ初耳だった。こないだ結婚したってよ」
「はーあ、どいつもこいつも結婚してくなあ」
お互い缶コーヒーを一口飲む。
二人の男が話している。
「ニートやってたヒロ坊がいるじゃん」
「うん。白くてちょっと太ってる」
「そう。あいつ家飛び出して行方くらましたってさ」
「あいつの母ちゃん鬼ババだからな。毎日ケツ叩かれるんだろう」
「ところがだよ、飛び出したあとしばらくしたら社長になってやがった。起業して成功したらしい」
「結局金持ちか。いい才能だなあ」
階段の縁に明かりが灯っている。
二人の男が話している。
「俺んちのタマと亀子がさあ、立て続けに死んじまって」
「歳だろ。子供のころからいなかったっけか」
「そうだけど、三日違いだぜ?気持ちの整理がつかないっての」
「ご愁傷さま。けど死んじまったもんはしょうがないんじゃねえの」
「…………」
二人が座った階段に冷えた空気が溜まっていった。
二人の男が話している。
「気を悪くしたか。一本どうだ? 仲直りに」
「ありがたいけど、もうしばらく禁煙してるんだ」
「台風でも来るんじゃないか。お前が禁煙なんて」
「何とか続いてるけど、目の前に出されると吸いたくなる」
「吸っちゃえよ」
「やめろってば」
笑った拍子に缶コーヒーをこぼした。
二人の男が話している。
「お前もずいぶん大人になったよな」
「お前は変わらんな」
「そりゃそうだろ。お前は結婚しないのか?」
「彼女のこと? ずいぶん前に振られたよ」
「うわあ、おかわいそうに」
「笑うなよ、バカ。まじめな話だぞ」
「いやいや、もっといい人がいるって神のお導きとかだよ、たぶん」
「神がいるならお前を生き返してくれるよう頼むよ」
流れ出したコーヒーはもう冷えている。
二人の男が話している。
「うん。死んじまったもんはしょうがないんじゃねえの」
「よく言う。遺された身にもなれよ」
「そんなこと言ったって、俺だって死にたくて死んだわけじゃないしなあ」
「どうして毎日俺の夢に出てくるんだ」
「さあなあ。なんでだろう」
「成仏できないのか?」
「俺は夜が終わらないんだ。それだけ」
外階段からは色の薄い月が見えている。
二人の男が話している。
「仕事のほうはどうなんだよ」
「ぼちぼちだな。可もなく不可もなく」
「相変わらず無難だな」
「うるさい。俺にはそれが性に合ってるんだよ」
「あっそ。せいぜい頑張れよ。昇進できねえぞ」
二人が並んだ階段の向こうから光が差し込んできた。
「あ、ほら見ろよ。朝だ」
朝はまだ来ない。
コンセプトどおりにすると、あたりまえだけど夜の話が増えてしまって、自分の力量不足を痛感する。




