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太陽の子・3

 アンナはすでに芽が出ていることを周りに隠し続けた。葉が増えても、茎が伸びても、いつまでも職人服の立て襟の中にしまい込んだままだった。まだなんです、と困ったように笑う一方、レネにだけは逐一ひまわりの成長を報告してくる。そのたびに反射のように苛立ちを感じながら、レネは戸惑ってもいた。アンナの行動が理解できなかった。なぜ隠すのか、なぜ芽が出たのに体を休めないのか、なぜ自分にだけそのことを打ち明けているのか。

「……太陽の子から加護をなくす方法ってあるのかな」

 レネの家の作業場で依頼を受けているアンナを見ながらつぶやくと、聞きとがめた父親が側に寄ってきた。

「なんだって?」

「例えば、花を摘んだらどうなるのかな、と思って」

 レネの父は一瞬、席向こうのアンナに目をやる。

「いくら妬ましいったって、滅多なこと言うものじゃない」

「例えばって言ってるだろ。言い伝えとかないのかよ」

 レネが鬱陶しそうにすると、父の顔からも険しさが消える。無精ひげを掻きながら宙に視線を投げて考え込んだ。

「花を摘んだ奴の一番大事なものがなくなるとか、そういうのは聞いたことがあるがなぁ……」

「太陽の子の方はどうなる?」

 父はまた少し警戒するような気配を見せる。

「この手の話に食いつくの、珍しいな。何考えてんだ?」

「別に何も。で? どうなったか知ってる?」

 父は訝しげな顔をしながらも口を開く。

「そこまでは知らない。俺もあんまり罰当たりな話だからほとんど聞いたことないんだよ」

 レネは知らず力んでいた肩から力を抜いた。それはそうだ、という疲れに似た感想が生まれる。レネの様子を見ながら、父はそっと付け加えた。

「でも、加護されて生まれるくらいだから、花がなくなっても損なわれるようなことはないんじゃないか? 花が枯れたら死ぬんだったら、摘んでも死ぬのかもしれないけど……」

 レネはアンナの方を見る。商談が成立したのか、客が嬉しそうな顔をしている。アンナも笑っている。レネはその襟元を見ている。知っているからこそ、その襟元が閉じている違和感に気付くことができる。アンナはもともと襟のある服が嫌いで、初めて職人服をもらった日にも首が苦しいと襟を全開にしていた。

 もうじき花が咲く。ひまわりのつぼみはもう零れそうなほど膨らんでいるのを、レネだけが知っている。花が咲いてしまったら、どうすればいいのだろう。もう一生アンナには勝てないのだろうか。レネはふとアンナに言い放った宣言を思い出す。

『オレは年取ったって腕一本で生きていける』

『レネはすごいもんね』

『そう。ひまわりの加護なんかなくても、オレは仲間内で一番腕がある』

まだ幼かった。自分の実力が見えてなかったころだから言えたのだ。あの頃も今も、一度だってアンナに追いつけたことなどなかった。

あの頃からずっと、誰にも言わずに願っていることがある。ひまわりの加護がなくなったアンナと力比べをしてみたい。本気で勝負をして、勝ちたいと思っている。しかしこのままではレネの願いは叶わない。それどころか、花が咲いたらアンナはもうすぐ死ぬのだ。レネが勝負を申し込む時間が、刻一刻と減っているのを感じる。アンナにひまわりを見せてもらうたびに、激しい苛立ちを感じる。考えてみると、レネはいつもアンナに苛立ってばかりいる。レネだけが、アンナに苛立っている。アンナはいつまでも焦らない。

いつまでヘラヘラ笑っているつもりだ。レネが睨むと、客を帰したアンナがこちらに気付いて手を振った。レネは目をそらす。アンナはまるで分っていない。眉尻を下げて笑って、まるでレネを相手にしないのだ。

次の日の早朝、レネは父の緊迫した声で起こされた。

アンナが誰にも言わずに家出したという。突然どうしたのだという驚きの隅で、とうとうその時が来たのかという思いがあった。それはひどく冷静な、気負いのない感想でもあった。

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