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太陽の子・1

 ひまわりを抱いて生まれてくる。レネの村ではそういう子を「太陽の子」と呼んで大事にした。太陽の子は生まれた時に、体のどこかに種を持っている。種とともに才能も持って生まれてくる。レネの生まれた職人村では、ときおり生まれる太陽の子が特別な存在だった。

 しかしレネは、小さな頃から口癖のように繰り返した。

「あんなのは呪いだ」

 それを言うたびに、近所に住むアンナは困ったように笑った。

「そうかもしれないね」

 決まってそう答えるのが、レネには一層腹立たしかった。

「だって花が枯れたら太陽の子も死ぬんだろ? 呪いだよ」

「うん。そうかもしれない」

 レネがどれだけムキになって言っても、アンナはいつもおっとりと、少し眉尻を下げて笑うだけだった。村の大人たちにこんな話をしたら、必ずたしなめるだろう。罰当たりな、と叱る人だっているかもしれない。年寄りなんかの耳に入れば、お天道様が授けてくれた種をけなすなんて、と激昂するのも想像に難くない。ほかの友達に言っても馬鹿にされるかいじめられるだけだから、アンナといるときは常にこの話しかしなかった。

「花で手に入れた技術をもてはやして、みんなどうかしてる」

「そうなのかなあ」

「大した才能でもないくせに」

「そうかもしれないね」

「しかも早死にだ。オレは年取ったって腕一本で生きていける」

「レネはすごいもんね」

「そう。ひまわりの加護なんかなくても、オレは仲間内で一番腕がある」

「ふふ。そうかもね」

「なんとも思わないのかよ」

 レネが睨むと、アンナは小さく首をかしげる。

「太陽の呪いだよ、あんなのは」

 ダメ押しで言うと、アンナはまた少し困ったように笑った。

「そうかもしれない」

「太陽の子は大事なんだろ? 何か言い返したくねえの?」

 アンナは困ったように声を濁した。

「分かんないよ。だって本当に太陽の子は早く死ぬんだもの」

 レネはこういうことを言うアンナがあまり好きではなかった。家族ぐるみで付き合いのある幼馴染ではあるが、もともと鞄職人だったレネの父親が革細工だけを専門にやるようになったのは、実はアンナの父親のせいではないかとひそかに疑っていたりもする。アンナの父はほかの村にも名が知れたような腕のある鞄職人だった。それもレネは気に入らなかった。レネの父の鞄だってとても質が高いと思うのに、なぜ革細工だけにこだわるのか、レネには理解できなかった。レネの父がアンナの父に負けたのではと考えただけで、アンナのへらへらした笑顔に腹が立った。

 おーい、と声がする。気取った丸眼鏡をかけた男の子がこちらにやってくる。レネの二つ年上で、アンナと同い年の秀才くんだった。

「レネ、またいじめてるの? アンナ、こっちで遊ぼう」

 レネとアンナの仲が悪いのは近所では有名な話だった。二人でいるところを見るや否や、気弱なアンナがいじめられているようにでも見えるのだろう、レネはいつも追い払われた。声をかけられたアンナは彼に笑って応じた。そのまま去ると思ったら、にっこりとこちらを振り返る。

「レネも行こう」

「やだよ、オレはお呼びじゃねえもん」

「だめ?」

 アンナは困ったように丸眼鏡を振り返る。彼は軽く苦笑した。

「アンナがいいなら、僕は全然かまわないよ。まったくアンナは、お人好しだな」

 そうかなあ、と笑うアンナに、レネはまたも顔をしかめた。アンナの存在感が気に入らなかった。ヘーゼルの瞳も、オレンジに近いベージュの髪も、いつも下がり眉の笑顔も、太陽の輝きには一歩及んでいないとレネは思う。冴えないと思うのに、アンナはいつもみんなの中心にいる。腕だってほとんど変わらないのに、大人たちはみんなしてアンナの腕ばかりをほめる。太陽の子だからだ。だからって、レネは太陽の子に生まれたかったとは思わない。公言している通り、ひまわりの種がなくても、村一番の職人になると決めている。

 太陽の子というだけでちやほやする村のみんなも、それに甘んじてにこにこするだけのアンナも、レネは何もかも気に食わなかった。


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