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stardust fantasy  作者: そうしょう
3 二重人格の双子
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13

保健室で保険医が怪我の治療をして――この世界にはとても便利なことに《治療》という力も存在する――ほとんど回復をした少年は感心したように頷いた。それにしても、元々の生命力が高いからかこの少年の傷はほぼ完治といってもいい程だ。もちろん全快には程遠いかもしれないが、危ない状況は去った。《治療》といっても自分の自己再生力を上げる類のものでしかない。魔法のように瞬きをしていたら完全に治った、などあり得ない。

それから少年は眼帯を取り出すと右目に括り付けて、柔らかく微笑んだ。

保険医は治療を終えた後職員室に仕事があるからと去っていったから、今は少年と捻子しかいない。いや、加えると朝霧もだが。

「もう、怪我は大丈夫そうですね」

「ありがとうございます」

…おや?

やけに柔らかすぎる口調に違和感を覚えていると、彼も察したらしい。けれど先にするべきことがあった。

「ぼくは影時丹色(カゲトキニイロ)。影の時、色の丹色、と申します。初めまして、次霜捻子くん」

少年、丹色はそう言うと手を差し出した。捻子は握手に応じると疑問を口にする。

「…先ほどの、人とは」

「彼は光彩と言います。ぼくの≪力≫は≪二重人格≫。別人だから、違和感を感じるでしょう?」

あくまで自分とは違うという。

「あ、俺のことは敬語なしで構いませんよ!…ところで、丹色、と言いましたよね。確か、転校生の名前…って」

ふと思い出した。今日からくる転校生の名。少年と同じではなかったか。丹色は困ったように頬を掻いた。

「今日から登校の予定だったけど、予想外のできごとに巻き込まれちゃって。困っちゃったよ」

「いや、笑いごとじゃないですよね…」

ふふ、と丹色は笑う。思わず捻子はツッコミを入れた。あの傷、笑いごとや困るどころの騒ぎではないのでは。

「…丹色は、俺に用事があったのでしょう?」

「うん。だけど、放課後で大丈夫だよ。…えっと、あのさ」

少し躊躇いがちに口を開口し、やがてはにかんで尋ねた。

「教室まで、案内してもらってもいいかな……?」


丹色と同じクラスでもあったから、という理由で捻子は昼休みを使って丹色に学校内を案内することにした。目に映る物ほとんどに瞳を輝かせていたその様はどうにも自分より幼く見えた。その途中、ばったりと紀磨に遭遇する。

「げっ、捻子」

「げってなんですが、嫌そうな表情やめてください…」

キョトン、と丹色は片目を瞬かせる。その丹色の姿に捻子は説明した。

「彼女は紀磨。隣のクラスの…同い年ですよ」

「あ、転校生?初めまして、望月紀磨よ。よろしくね。」

にこやかに紀磨は自己紹介をする。

「それにしても、捻子と仲良くなったの?やめときなさい、厄介ごとに巻き込まれるだけよ」

何とも雑な言い方に捻子はカチンときた。

「いやいや、何ですかそれ」

「ほんとのことでしょう?丹色、だっけ。君も気をつけたほうがいいわよ。」

「あはは…ありがとう」

フリルのついたスカートを翻して、一度だけ捻子を一瞥してから歩き去る彼女を見送る。ふと捻子は思い出して丹色を向いた。

「そういえば、捻子は朝霧が視えるのですか?」

「え?」

キョトン、として丹色は首を傾げる。朝霧。誰だろう、そう顔に文字が書いてあってキョロキョロと周囲を見渡してる。実際には朝霧は捻子のすぐ後ろをふよふよと浮いているのだが、気付いた様子はない。それに今度は捻子が傾げる番だった。確かに、彼は自分にしか視えない筈である、朝霧を視ていたような気がするのだが。その疑問を感じ取ったのだろう、朝霧は口を挟んだ。

『おそらく、視えるのは丹色じゃないんだろう。』

「もしかしたら、光彩かも」

呟くように丹色も言う。光彩、彼の別人格、いや別人か。

「えっと、…丹色と光彩、さんはどんな関係なんですか?」

「うーん、一言で言えば双子の兄、かな。あはは、無茶ばかりするけど」

双子だったのか。無茶…確かにしていたなと思い返す。

「色々あってね。」

そういって丹色は「次はどこを案内してくれるの?」と話題を逸らした。


×××


次霜捻子という男は、とても優しい人だった。

丹色は小学校や中学校など、学校には縁がない生活をしていた。そのため学校という、同い年近くの子供が集まる場所というのが初めてだった。緊張もしていたし内心ではヒヤヒヤしていたのだが彼が居てくれたお陰で丹色は何とか馴染めそうだと感じていた。捻子は優しい。

――けれども、まだ足りない。

まだきっと、自分は次霜捻子という男のほとんどを知らない。当たり前だ、今日あったばかりなのだから。

本来であればもっと時間を掛けたかったけれど、仕方ない。予想外の出来事にどうものんびりすることはできなさそうだ。

放課後、丹色は最後に案内してくれるというサークルの部屋に向かう途中、立ち止まった。


「捻子」

丹色が名を呼ぶ。捻子は「どうしました?」と振り返った。今日は7限まであったため、日は傾きだしている。外では部活動が盛んにおこなわれているらしい声が響いていた。その中で、丹色は一つ息を吸う。

「―――ちょっと、お願いがあるんだ」

「お願い…?」

どこから、取り出したのか。

彼は手に持った赤い傘を―――パチンと開いた。


「≪二重人格≫」


ほぼ囁くような小さい声で紡がれた言葉。傘を持たな左手が丹色の眼帯を振り払う。下から現れたのは金色に光る瞳――――次の瞬間。

『――捻子』

「―――?!」

朝霧の静かな声が警告だと気付くより早く、目の前にナイフが走ってきていて思わず上半身を捻って躱した。ナイフは捻子の頬すれすれを通り、背後の壁に突き刺さる。

「…なっ」

よろり、と一歩後ろに下がると、少年はゆっくりと腕を下ろしたところだった。くるり、くるり。二度三度、肩に置かれた傘が回る。

「へぇ、避けた。」

「な、にするんですかっ、丹色!!?」

突然の敵意に目を剥くと、少年はめんどくさそうに眼を細め、袖を振った。――そこから、刀身が覗かせる。

「丹色じゃない。話、聞いてたろ。―――光彩だ」

刀の柄を持つと切っ先を捻子に向けた。捻子もまた、思わぬ展開に動揺しながら薙刀を携える。2人の間に重々しい雰囲気が流れている。

「こう、さい…」

「あぁ、そういやぁさっきは礼言いそびれてたな。怪我の治療、ありがとな。助かった」

微笑んで光彩は言う。けれども切っ先がぶれる様子はない。

「…どういう、つもりですか。」

「言ったろ。おれは、おれたちはあんたに用があって来たんだ。」

「…それは、俺を、…殺すこと、ですか」

ふむ、と丹色――いや、光彩は傘を回す。

「―――そうなるかも、な!!!」

「―――朝霧…!!!」

刃が恐ろしい程のスピードで突き出された。咄嗟に出たらしい誰かの名前が光彩の耳に届く。

――ふわり、と甘い匂いが鼻孔を擽った。

気が付くと花弁が舞うだけで、捻子の姿が掻き消えていた。少し気配を探ってみても上手に隠しているのか感じ取れない。光彩は刃を収めると、傘を閉じて肩に担いだ。

「殺す…ねぇ。あぁそうだな、こっちの世界じゃあ殺すっていうのは物騒なモンなんだよなぁ」

めんどくさそうだ、そうため息を零しながら光彩は、捻子を――いや、捻子とあの少年を探すために歩き出した。


×××


「今日ばかりは紀磨に同意するよ。厄介ごとに巻き込まれた」

花の香りを纏いながら朝霧は地に足をつく。そうして長い袖の下、腕を組んだ。その足元で捻子は冷や汗を垂らしながら眉を寄せる。あの一瞬、言霊なしで≪繰る印≫を発動できたのはまさしく間一髪といったところだ。もしあのとき、朝霧もまた危機のように感じ取っていなかったら発動されることはなかっただろう。

「朝霧からみても、彼は危険な人、ですか」

光彩が去った方向を見て、捻子は呟く。光彩が去るまで朝霧の≪力≫…≪幻の揺らぎ≫によって気配を隠し身を溶かしていたのだ。嫌な汗がべったりと張り付いて気持ちが悪い。朝霧は涼しそうな表情のまま、囁いた。

「彼自身が負った血とは違う、臭い。あれは人殺しの匂いだ。≪力≫の匂いに混じっても感じ取れるもの。………そうだね、≪力≫では僕には及ばないだろうけれど…」

チラリと朝霧は捻子の薙刀を見る。

「君の武術では歯など立たないんじゃないかな。」

「……彼は、オレに用があると……そして、殺すことになるかもしれない、と言っていました。つまり、何かを見極めようとしている、ということですよね。……。全く、身に覚えがないのですが。」

「厄日だね」

理由もなしに命を狙われることほど、辛いものはないと思う。朝霧は壁に寄りかかって、未だ座ったままの捻子を見下ろした。

「それで?どうするの?見つかるのも時間の問題だろう。いくら気配を消しているといっても、あの人種は苦手だからなぁ。勘良く見つかるだろう」

「……今、考えてます。けどダメですね。」

あはは、と捻子は笑う。けれど最早その笑いも震えていて、みっともなかった。あれだけのスピードからの剣劇、見せられてしまった今では恐怖しか覚えないというのが本音だ。けれど、話が通じる。そこがまだ救いというところだろう。だから、捻子は冷や汗を垂らしながらも朝霧に言った。

「全く良い案、思い浮かびません」

「清々しい程の言葉に僕は感嘆しか零れないよ」

そういって朝霧はにっこりと笑った。

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