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 目的の駅に着き、そこから少し歩けばほんの数年前に出来た大型ショッピングモールがあり、そこの中に映画館がある。入ってすぐに映画館のチケット売り場に行き、僕はその時になってようやく何を見るのかがわかった。しかし、作品名がわかっただけで、それが一体どんな映画なのかよくわからないのだが、ほぼ満席の状態から人気作品なのだろうということは想像がついた。

 「どんな映画、」

 大輝の方を見ながら尋ねると、彼ではなく河合が答えた。

 「まあ、冒険活劇を織り交ぜたラブロマンスだね」

 「らぶろまんすぅ・・・」

 普段ならまず見ないだろう単語に、僕は口を歪めて大輝を見た。よく大輝が見ようと賛成したものだと思っていると、河合はケラケラ笑いながら大輝の首に手をまわした。

 「こいつさ、こう見えて恋愛もの好きなんだよ」

 「うっせーな、流行ってるから見んだよ」

 長いこと一緒にいながら、分からないことは多いようだ。僕は肩を竦め、券を眺めた。どうせなら、本格的な冒険ものやアニメ、戦争映画を見たかったが、買ってしまったのでしょうがない。取りあえず、人気のある作品ならば、興味のない話でもまずまず楽しむことは出来るだろう。

 映画の上映まで時間があったので、まず食事をしておこうという話になり、ショッピングモールの中で一番安い定食屋に入った。僕はあまりお金がなかったので、メニューで一番安いうどんを頼み、大輝はかつ丼、河合は何かの定食を頼んでいた。

 「お前さ、うどんだけで足りんのか、」

 「僕は、あんまり食べないほうだからいいの。足らなかったら、ポップコーン食べる」

 話をしている内に、早くも僕のうどんが来た。素うどんなのだから、出来あがるのが早いのだろう。皆が揃ってから食べたら協調性があるだろうが、冷めてしまっては美味しくないので先に食べ始めた。半分ほど食べたところで、二人の頼んでいた昼食が運ばれた。時間差と量の差があるのだから、僕は先に食べ終えて、二人が食べ終わるのを待たなければならない。空腹というわけでもないが、人が食べている様子をただ眺めていると言うのは、なんとも侘しい気持ちになるので、お茶を飲んで誤魔化した。

 食事も終わり、近くの店を買いもせずに眺めていると思ったよりも時間が経っており、映画の上映時間になったので、小走りで劇場に入りに、大輝を真ん中にして三人並んで座った。河合の隣に座るのが嫌だった。

 映画の最初には宣伝が流れ、次にどのような作品を見ようかと眺めていたが、思ったよりも面白そうなものはなく、テレビのCMのような煩わしさを感じた。十分か十五分ほど経って、ようやく本編が始まった。映画の始まりから恋愛になるわけもなく、ただ、この二人が恋をし合うのだろうというのが見え見えなのだが、思ったよりも面白いので、ジュースもポップコーンも食べることなく見入ってしまっていた。

 男と女が出会い、いろいろあって恋をして、そしてそれが一気に弾ける。暗闇の中で、男が女の上に覆いかぶさり、熱を帯びた声、身体、表情、その艶めかしさを眺めていると、胃の奥に何かこみ上げるものがあった。すぐにトイレに行って吐き出したかったが、時計を見ると終了の時間が近付いていたので、口を押さえ嘔吐感をやっと抑え込んだ。二人は愛し合っていたが、最終的に死に別れて、女は一人で老婆になるまで生きていく。エンディングのスタッフロールに入り、まだ誰も席を立とうとしなかったが、僕はもう限界だったので、隣の大輝に「トイレ行く」と告げ、荷物も何もそのまま置き去りにして、逃げるように劇場を出た。女子トイレにも男子トイレにも入らず、良くないことだと分かっているが、入り口に一番近かった車イス用のトイレに駆け込み、鍵を閉めて便器に顔を押し付け、身体の思うままに胃の内容物を逆流させて口から吐いた。酷い刺激臭に痛みが遅い、また数回吐きだし、水を何度も流し、唾液も口から吐き出して、ようやく治まった。吐き気はおさまったが、気分が良くなったわけではなく、頭が痛み視界が少しチカチカと定まらなかった。

 口を濯ぎ、トイレから出ると傍の椅子に荷物を持った大輝と河合が座っていた。気分が悪かったが、荷物を持ってきてもらった負い目もあり、僕は笑顔を作って「ごめん、ありがとう」と自分の荷物を背中に背負った。

 「大丈夫、」

 「うん、平気」

 「・・・気分悪いなら、もう帰るか」

 気を使われたことに、惨めな気持ちがした。だから、首を振って「少し座ってれば治るから、二人は好きなところに行ったらいいよ」と笑顔を作った。大輝と河合は納得したようなので、僕は一人でショッピングモールの休憩所に行き、適当に空いている椅子に腰かけた。目を閉じて俯いてみると、空っぽの頭には人の声がよく響く。今まで気にならなかったが、視界の情報が遮断されて聴覚だけ機能していると、要らないと脳にまで届かなかった音まで拾い上げてしまう。それでも、先ほどよりも気分はずいぶん良くなり、僕は目を開けて周囲を見回した。すると、いつの間に来ていたのか、隣に河合が座ってジュースを飲んでいた。

 「具合はどう、」

 「・・・もう、大分良いよ」

 会話をするつもりは無かったので、どうしたものかと河合ではなくジュースに視線を向けていると、僕が欲していると勘違いをしたのだろう、「あげるよ」と飲みかけのカップを渡された。丁度喉が渇いていたので、遠慮なくジュースをもらい一息に飲み干した。炭酸のない、シンプルなフルーツジュースで、喉の渇きには丁度良かった。

 「ありがとう」

 礼を述べると、河合が笑顔を返した。人懐こそうな顔なので、彼ならたいていの人には嫌われずに、円満な人間関係を構築できそうだと思えた。そうだというのに、なぜか僕は彼が心を開こうとするたびに、心の臓辺りがピリピリと痺れた。顔を合わせることを止め、俯き目を軽く閉ざした。


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