23−2.ステージ対策
「今回の楽しかったからまた誘って。なーんかまたステージ立ちたくなるなぁ。セッションでも出てみようかな」
「去年、ハシコーの見に行ってセッションあったぜ。ハシコーならやってくれんじゃね」
「行ってみるか。ハシコーと合わせてたの懐かし〜」
これだけ上手い人だから、そりゃあステージに立ちたくもなるだろう。
清和くんだけじゃなくて。
上手いのに、アマチュアでいる人って実は多いんだな、と改めて感じる。
ほんとに上澄みのプレイヤーだけがプロに行けるって感じ。
おれはラッキーだったのかも。
「二人はさ、どこで出会ったの?」
「こいつが彼氏に振られて家を追い出されたっていうから、俺が拾った」
「えぇ〜、セーワそんな思い切ったことするヤツだっけ?」
「清和くん、いろいろ端折りすぎ……」
「ブルービートっていうライブハウスあんじゃん?あそこ出たとき、インディーズだけどいいベースがいるって耳にしてて、何回か見に行ってたんだけど、それがこいつ」
「ブルービート、懐かし〜。なるほどちゃんと音も好きになった上でのことね」
あ、それで納得してくれるんだ。
弁護士さんならまあ、いろんな人を見てそうだし。
弁護士ってお堅くて厳しいイメージだったけど、幡中さんはおれをちゃんと話に入れてくれるし、言葉は穏やか、気配りはバッチリ、個人的なことに深くは触れない、スマートな人だ。
「セーワのそういう話聞いたことなかったから、なんか嬉しいな〜」
「まあ……話すようなことなかったしな」
彼氏がいなかった、ってことなのかな。それとも話すほどの人じゃなかったとか。
カミングアウトのタイミング、難しいし。
でも、絶対えっちの経験はある。
それどころか、多分だけど、おれよりずっと経験豊富。
……追求しようと思ったことはないけど。
デートのエスコートもスマートだし。
おれ側の状態もよく分かってくれるし。……ひょっとしてネコの経験もあったり?っていうくらい、挿れられる側の負担を分かってくれてるというか。
あー清和くんの昔の人とか考え出したらモヤモヤしちゃう。やめよう。
おれだってカケルがいたんだし文句を言う筋合いないと思うけど、でもやっぱりこういうの、平常心では聞けないよ。
清和くんが今おれを大事にしてくれるのだけ、信じてよう。
こうやって色んな人にヨメだなんて言ってくれるんだから。
「将来もしなんかの証人が必要とかなったら、俺呼んで」
「おう。そうなったら仕事依頼させてもらうわ」
「源吾くん、こいつ大事なものはとことん大事にするから。ときどき自分の世界にはまり込んで出てこなかったりするけど、見守ってやってな」
「ハイ!ちゃんとごはん食べさせます」
「ははは!てか冗談抜きでまじでいいヨメさんじゃん。きみらずっと見てたいわ〜」
将来、か。
このままずっと一緒にいたいし、実家で家族みたいに迎えてもらったし、“ヨメ”が本当になれたらいいな、と思っていたけど。
パートナーシップ制度とかもあるのは知ってるけど、清和くんはその辺なにか考えてるんだろうか。
もし、考えてくれてるなら、嬉しい。
♪
二月中、もう一度清和くんと二人でリハをした。
二人のときは、清和くんがDTMでドラムパターンを入れてくれたのに合わせる。
三〜四月は清和くんが繁忙期に入って、次に合わせられそうなのがGWまで飛ぶからだ。
「だいぶ曲に慣れてきた感じだな。安定してきた」
「やっぱプロ程遠いわ……ジャズのプロはこんな複雑なの初見で一発でやるってまじ?人間技じゃねー」
「こういうのの積み重ね。素材と引き出しを増やすこと。ほしいときに引き出せる練習すること。
ロックに戻ったら絶対やりやすくなるから」
「がんばる……」
「休憩に、一曲俺の曲弾くか?」
「あ、やる!」
「つーか、実は今回の曲、“Midnight Highway”は作曲、俺」
「えっ?」
「昔、ハシコーに楽曲提供したんだよ」
まじすか。
え、ほんとなんでリーマン行った!?
「っていうか……悔し―!清和くんの曲って分かったらもっと違う解釈で弾いたのにー!」
「今から直せばいいじゃん」
「ちゃうんよ……清和くんの曲って気づかなかったの超凹む……」
「まあ、作ったの二十代前半だしな。多少雰囲気違うだろ。
俺も昔は尖ってたっつーか。
違う解釈って、どう弾くんだ?やってみよーぜ」
「全力で清和くん寄りにさせていただきます」
清和くんの曲って分かった途端に親しみが増す。
清和くんならこんな音を欲しがって、こういうフレーズ混ぜ込んで、……
原曲のベースが流石なんよな。
おれが使いたい音がちゃんと織り込まれてる。
トッププロと同じ解釈ができたのも嬉しいし、清和くんの曲をジャズのプロと同じくらい理解できたのも嬉しいし、清和くんを理解するのはプロだろうと負けねぇぞとも思う。
「――いいじゃん。この曲は完成だな。
おまえ、俺の曲すげー理解してんじゃん」
「清和くんの曲ですから。使いたい音とか動きたい方向とか、日々頑張って清和くん流に染まっております」
「作った人が欲しい音が出せるってことだから、普通にすげぇ。
おまえのベースがトラで求められるのって多分そういうところだよ。
ジャズとは別方向なだけで、ちゃんとプロの技だぜ」
清和くんがプロって言ってくれると、すごいじわじわ来る……
去年も一応プロ名乗ってはいたけど、自分でもぐっとレベル上がったなって思ってる。
清和くんのおかげなんだけどね。
「あとおまえが俺推しでふつーに嬉しい」
清和くんが珍しく素直な気持ちを口にした。
こういうところが、最近かわいいって思うんだよ。
でもおれの目を見て言わないんだよな。楽譜揃えながらとか。
かわいい。
「そうだよ。おれ清和くんの音だいすき。
ってか、清和くんの音超エロいの、すき」
「褒めてんのそれ?」
「めっちゃ褒めてる」
おれは言うよ。
好き、大好きって。
清和くん、嬉しそうになるもん。
清和くんは言うの苦手なんだよね。
でもその分おれにくれるものが多いから。
おれは、清和くんに好きって言い続ける。
「今日夜、えっちしよ?」
「はー?おまえのがすけべじゃん。ムッツリじゃねーけど」
「だって清和くんの音がエロいから〜」
「んなこと言ってる間に残り時間減ってるぞ。次合わせよ」
「うん」
「音楽はなァ、セックスなんだよ」
「出た名言……!」
清和くんのこういうとこ、意外だけどかっこいい。大好き。
てか本当に、そうなんだ。
本能に訴えかける音に、グルーヴ。
体のナカを揺さぶる低音。
そして今二人だけの空間。
おれたちの音が、重なり合う。交ざり合う。
だからか。
ステージで、愛してるぜーって叫びたくなるのは。
いつか清和くんと二人のステージに立ったら、おれはきっと愛を叫ぶ。




