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ハイテンション・ノート 〜詰みベーシスト、音楽ガチ勢リーマンに拾われる。〜  作者: 橘 いゆ璃


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23.ステージ対策

今日は、清和くんとスタジオ入り。

いつものスタジオじゃなく、ドラムのあるスタジオ。


「どもーっす」

「おー、ヒロヤ久しぶり」

「久しぶりー」

「時間作ってくれてありがとな。こいつ、ヨメの源吾」

「ちょっ……」


例の、弁護士のドラマーさんが練習に来てくれたのだ。

清和くん、そこから言う!?いきなり顔が熱い。


「ドラムの幡中浩也(ハタナカ ヒロヤ)といいます、お話は伺ってます。

アマチュアなんで力不足かもしれないけど、よろしく」

「大滝源吾と申します。おれもジャズ系はこれからなんで、よろしくお願いします」


うん、アマチュアって言ってプロ級が出てくるやつだ、これは。

清和くんの人選はそうなってる。


ドラムに座って、キットの位置を調整して、ジャケット脱いでスティック取り出す動作がもうベテラン感だもんな。

ちょっとウォーミングアップといって音出しを始めたのが、それだけで圧倒される。


音のヌケがいいのはもちろん、ストロークが力強くて、具合を確かめるようにペダルを踏んで、手足のコンビネーションプレイがもう普通にステージにいそうなかっこよさなんですが。


そうなると思いましたとも。


清和くんもキーボードの前に座って、橋立さんのステージ対策の練習が始まった。



清和くんと俺のことを考慮して、橋立さんは早々とセットリストと譜面を送ってくれている。

今日はもうその曲を全部やっちゃう計画だ。

ステージ自体が二十分ほどで、四曲の準備、一つはフュージョンで有名な曲、あとは橋立さんの持ち曲で、曲構成は大体覚えてきた。


バレンタインデーに清和くんにステージのことを知らされて、一週間くらいだけど一応曲に合わせて通しで弾けるくらいには仕上げた。


早速一曲目から。


緊張して構える。


幡中さんがスティックを叩いてカウント入れて、冒頭は勢いのあるキメ箇所だ。


って、うおおぉい!


やっぱ幡中さん普通に原曲の再現してますやん!

もーそうだろうと思ったー。


しかもそれだけじゃなく、キメはしっかり合わせて来つつ、原曲にはないフィル(飾りのような短いソロ)も交えてくるとか、気を抜くと今の位置を見失ってしまいそうになる。

ドラムがすごいと思って聴いてしまうと、それがトリックにもなってベースのパターンが崩れそうになる。

フィルを気にしたらダメだ。ドラムの上でリズムを引っ張っていくのはおれ。そんな意識しながら小洒落た飾りを交えるとか今これムリ。

佐古江さんがどれだけ余裕を持ってプレイしているのかがよく分かった……


一曲終わった時点で、なんか力が抜けてしまった。


「め、めちゃくちゃ、大変……!音源に合わせるのと全然違う」

「ときどき迷ってたろ、源吾」

「ハイ……」


清和くんには見抜かれてた。清和くんはこれをもうプロと一緒にやってんだもんな……強い。


「ごめんね源吾くん、ちょっと遊びすぎた。プロの人だったらもうちょっと分かりやすくしてくれるんじゃないかな」

「いや、全然!イレギュラーに対応できるようになりたいんで大丈夫です」


普段のロックだったらそんなに気にしないんだけど。

超絶技巧系バンドとかじゃなければめちゃくちゃドラムが変わったリズムぶっ込んでくるとかないしさ。


「ヒロヤ、そんな感じで頼むわ、思いっきりリズム掻き回してやって。ポリリズムぶち込んでいいから」

「容赦なくない?さすがに、ねぇ?」

「ポリリズムってナンデスカ……」

「足四拍子で五拍子フレーズ入れるとか」

「待ってそれはもうムリよ?」


清和くんの言葉が何だかとても恐ろしい気がして、頭が理解を拒否してる。


「じゃ、次の曲。一回全部通しで」


こんな調子で、清和くんのスパルタが二時間ほど続いた。


♪


「いや〜久々のセッション楽しかった〜!

セーワありがとな声かけてくれて」


練習の後、三人でちょっと遅めのランチに行った。

何だろう、同じ大学の人同士って雰囲気似るのかな。服の傾向とか。

職業柄もあるのかも。


「ヒロヤが一番適任だったわ。アドリブとかリズム崩すの、おまえ好きだったじゃん?」

「ポリリズムハマってたからなー。さすがに現役のときみたいにはいかないな。月一でスタジオ練行けたらいい方だし、合わせる機会だとなかなかないしさ」

「そうなるよな、おまえ忙しいし」


大学の同期の仲の良さって、いいな。

おれはいつの間にか連絡取らなくなっていった。

カケルとセットだと思われてて、同期で集まる話がカケルにばかり行ってたのもあるけど。


「俺ら、学生時代に“変態同盟”組んでてさー。めちゃくちゃ変拍子の曲やって遊んだり、超難関曲に挑んだり、逆に普通のジャズあまりやってなかったりとかさ」

「でも四回生とかで一周回ってスタンダードなジャズが趣深く感じたりな」

「それな」


想像つくー。


「清和くんって学生時代からこんな感じですか?」

「こんな感じってなんだよ」

「え?音楽一直線のムッツリすけべ」

「は?ふざけんなよおまえ」

「あははは、セーワって源吾くんの前ではそうなの?」

「うるせ、ちげーし」

「セーワは……なんだろ。同い年の中じゃ大人っぽかったかなぁ。学外にセッションもよく行ったし、レギュラーで弾いてる店もあったし、ハシコーみたいに他大生とも知り合って顔も広かったし。

そういや、タバコやめたよな?もうだいぶ経つっけ?」


え。

タバコやってたんだ。

今の清和くんからは思ったこともなかったからちょっとびっくり。


「卒業までにはやめてたよ。てか蒸し返すなよ、んなこと」

「だって聞かれたし?」

「学生なんて、背伸びしたいガキだったってだけだよ」

「でも……結構似合いそう、タバコ……」

「いいよ、今どき喫煙者は肩身狭いし、タバコ切れてイライラしたら作業の妨げになるし、もう吸うことはねえな」

「ちょいワルな清和くん見てみたかった〜家に写真ない?」

「ねーよ」

「流石にそのときのデータは今持ってないな〜」


残念。

タバコ吸ってる清和くん、色気あって絵になりそうって思ったのに。

でも意外な一面を知れて面白かった。


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