21−2.おまえ、ぬくいな
後日、橋立さんのステージでエレベを弾いてた人が出演するライブに足を運んだ。
清和くんは今回は仕上げたい曲があって、おれ一人。
でも、そのベーシスト、佐古江さんに連絡を取っておれのことを頼んでくれた。ライブ後に話しかけていいって。
やっぱりロック系のハコとは感じが違う。
ハコって言ったらだめか。今日のジャズバーは歴史あるっていうか、喫茶店みたいな雰囲気もあり、時間を過ごすにもいい感じ。
オトナの来るところで、客層もイケオジが多いかも……でも学生みたいな人もいるな。
ドラムもジャズだとサイズが小さくなるのか。
ピースも少ない。
ベースアンプと、ギターはエレキみたいでアンプが置いてある。
ドラムは生音、あとはアンプの音を直に聞かせるんだ。
三人のめちゃシンプルな構成なのに、超オシャレな演奏だった。
一人ひとりの音がはっきり聞こえていい。
こんな小さい会場でフュージョン?て思ってたけど、全然迫力あってグルーヴがガンガン迫ってくる。
前清和くんのステージを見たときみたいな、ビートがしっかり効いてるタイプの曲なので、ジャズにはまりきってないおれにはすごく聴きやすい。それも清和くんが選んでくれたライブだからなんだけど。
ベースの粒がほんとにきめ細かくて、きれいだ。
超一流ってこういうことよな。
使う音が全部が全部分かるわけじゃないけど、すごく滑らかに曲が進んでるのに、すごい細かいテクが織り込まれてるのが、感動でゾクゾクする。
いいなぁ。おれもこんな風に、余裕のある演奏したい。
おれのやるジャンルと違うのが、ベースのソロが多いこと。
楽器って間奏扱いだけど、ジャズ系だと楽器が主役なんだ。
ソロがギターからベースへ、それからドラムへ、順番に回っていく。
ほんと音使いはあんまり分かんない。でもおもしろいテクが次々出てきて、使えるか分かんないけど練習してみよう。
すげーなジャズ系のプロって。学ぶことがてんこ盛りだった。
♪
終演後、佐古江さんに勇気を出して挨拶に行った。
清和くんが根回ししてくれてたおかげで、すごくよくしてくれました。
なんか連絡先も交換してくれたんだけど。
「あー、これ藤くんとやってるやつか。うん……いいじゃん、そのうちこっち側でも活動できると思うよ」
「頑張ります!」
おれのSNSで清和くんとやってる練習動画も見てくれて、嬉しい感想をいただきました。
「藤くん、サラリーマンにしとくには勿体ないよね」
「ですよね!」
プロでもそう思うんだ。
「まあ、自分のやりたいことだけできる今のやり方があいつにはいいのかも。
何気に好き嫌いあるから、あいつ」
「そうなんですか」
「知らない?あいつアイドル系の音楽嫌いなんだよ」
「あー……言われてみれば」
うちにはテレビがないし、Y◯uTubeなんかにしてもお互いどんなものを見てるかまでは共有してない。
ただ清和くんのCDコレクションに関して言えば、見事に男らしい作品ばっかり。
女性ボーカルが参加してるCDとかはあるけど、女性アーティスト名義のCDって、なかったような……全部見たわけじゃないけど、今のところ。
それに、最高峰のプロだとしてもポッと出のアイドルの知名度にも及ばないって言ってたし、そういうところが好きじゃないんだろうな。
「特に女性アイドルとか苦手だよ」
「うち、テレビないんでそういう話題も出なくて」
「テレビないの?藤くんっぽいー」
あ。
めっちゃナチュラルに、うちって言ってしまった。
突っ込まれなかったけど、清和くんそこまで話してる人なのかな。
「ま、ベタ惚れのヨメちゃんがいるから、そういうのいらないんだよな」
「!!」
「大丈夫、その辺の事情聞いてるから。初めて藤くんの惚気話聞いたわ。お幸せにっ」
「あ、どうも……外で言われるとめっちゃ恥ずかしいっす」
清和くん何を話したんだー。
あんまり外で惚気るイメージなかったから超恥ずい。
でも、清和くんがおれのことパートナーとして外で話してくれるのが――秘密にされてないことが、おれは嬉しかった。
♪
あまり長居してもアレなので、そろそろ引き上げようと思ってメンバーの皆さんに挨拶し、帰ろうとしたとき。
「おにーさん。一人?」
カウンターに座っていたお客さんから、声をかけられた。
え。イケオジ。
深みがあって人を惹きつけるイケボ。
背がすらっと高くて、ジャケットがすごく似合ってる。
テーブルに置かれてるロックのウィスキーが、様になってて。
「えっと……まあ」
「楽器やってるの?」
「ハイ」
「いいね。若い子がこういう音楽聴いてるの、何か嬉しくて。
よかったら一杯飲んでいかない?奢るから」
色気ある人だなぁ。こういう年のとり方、いいかも。
清和くんがアラフィフとかになったら、こんな感じだったりして。
でも。
「すみません、ちょっと……帰らないといけなくて。
お声がけ、ありがとうございます」
「あはは、振られちゃった。いいよ、気にしないで。
またどこかで会えたら、そのときに」
タバコを取り出しながら軽く手を振ってくれたので、会釈して、店を出た。
ダンナのいる身でよその男と飲むのはね。
単に音楽の話だろうけど、それでも。
それより早く帰って、清和くんに今日の感動を伝えたいんだ。
忙しくしてたらムリかもだけど……
雪が舞ってて、顔に当たる風がちょっと痛い。
でも、清和くんの待つ家に帰る足どりは軽くて、心は温かかった。




