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ハイテンション・ノート 〜詰みベーシスト、音楽ガチ勢リーマンに拾われる。〜  作者: 橘 いゆ璃


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24/30

 Interlude by Seiwa 2

新年を迎えて、朝は揃って雑煮とおせち。

頼みもしないのに、朝から源吾は台所に立っていた。


みんなで歩いて行ける距離の寺に初詣に行って、お参りを済ませる。

帰って昼過ぎからは、親戚がこの家に集まってくる。

夕方の宴会に向けて、台所は、今どきこう言うのもなんだが女の戦場。

とはいえ大人数分の料理をするわけではなく、ほとんどは注文したものである。


そこにもなぜか源吾が参戦している。


「ゲンちゃーん、机拭いたー」

「ありがとー。じゃありんたろーくんはこのお皿運べる?」

「できる!」

「みくりちゃんはこのお箸並べてくれるかな」

「わかった」


源吾、兄貴の子たちを巻き込んで準備してる……

ふと、甥っ子はこうやって手伝いに巻き込まれて、そのうち自然に台所に立ったりするのかも、と思ったりした。

源吾がここにいなかったら、そんな可能性は生まれなかっただろうな。

帰ったら、あいつを喜ばせてやりたいと思う。



その後、大阪在住の妹が帰ってきて、兄貴の奥さんも顔を見せて、親戚がまた訪問してきて。

長い座卓にずらりと料理が並んで、新年の挨拶と宴会になった。


俺はあまり親戚と話す方じゃなかったから、誰が誰の家族だとかもう細かくは覚えていなくて、他人が混ざっても多分分からない。


ただ、父の従兄弟で、もう五十くらいの人が男のパートナーをこの五年ほど、毎年連れて来ている。

どちらも穏やかで、紳士的な装い。

二十年付き合ってて、パートナーシップ制度のある自治体に住んで制度を利用したと聞いた。


俺は今までカミングアウトはしていなかったし、誰かとパートナーを結ぶつもりもなかったから、特に話を聞いたりすることはなかったんだけど。

今なら、彼らの佇まいが、将来はこうありたいと思う姿に見える。


源吾を連れて挨拶に行き、初めてちゃんと話をした。


あちらは驚きつつも、同性カップル同士として歓迎してくれた。


♪


本当は今日帰るつもりだったが、源吾が片付けまで手伝いたいと言うので、もう一日泊まって帰ることにした。


親戚たちが引き上げた後、てきぱき片付けていく源吾。

それを見て、甥っ子たちも真似して手伝ってる。


「食器洗うんで!お母さんもおばあちゃんも休んでてください!大変だったでしょ」

「悪いわねぇ」


「源吾くん、悪いね、ほんとはうちの家内がやるところを」


兄貴の言葉に、大人が一斉に凍りつく――早く帰りたそうだった兄貴の奥さんも含め。


それ言っちゃだめなやつだろ……

源吾を気遣ったつもりで、奥さんイコール嫁が台所仕事という固定観念が見えてる。


「いえいえ!お義姉さんも遠くから来られて大変だったと思うんで!

おれ一番若いんで働きますから、お気遣いなく!」


源吾が明るく言うので、ちょっと空気が和らいだ。


「普段清和くんに楽させてもらってるんで、全然頑張れます。

お義姉さん、またすぐお仕事ですよね?こっちは任せてもらって大丈夫なんで、遅くならないうちに」


兄貴の奥さんはちょっと気まずそうだったが、うちの妹が促して一足先に帰宅した。


「兄貴……さっきの、子どもが巣立ったら熟年離婚案件だぞ。俺ならそうするわ」

「えっ……何で」

「台所仕事をほんとは嫁さんがするって何だよ。てめえの家のことはてめえがやれよって話。

そういう意識がちょくちょく透けてんだよな、兄貴は。

離婚されたくなかったらまじで気をつけろ」

「いや、そういうつもりじゃ……」

「兄貴が不自由なく専業主婦で生活させてんならまだ分からなくもねえってとこかな。

ちなみにうちは源吾を完全に養ってる。源吾も仕事安定はしてきたけどな」


源吾が実費で出すのは、基本仕事関連のことだけ。

収入は足りてはいるが、まず奨学金一括返済のために貯めさせてる。


「専業主婦、頑張ればできるけど、ユマの方が働きたいって言うんだよ……」

「専業主婦になっても楽できねえしさらに自由がなくなるからなんじゃねーの。

兄貴、養ってやってんのにとか言いそうだしな」


俺も言うが、俺は源吾を自由にするために言ってる。


「和兄(わにい)の言う通りやと思うわ〜。相手の家に入るって考え今どきキツいよね。

一兄(いちにい)はその辺アップデートしとかへんかったら、取り残されるで」


すっかり関西弁が板についた妹が、加勢した。妹も俺に負けない自由人で合理主義。

二人とも兄貴の逆を行ったような感じだ。


「それにユマさんはさ、うちのお母さんとかばあちゃんとか、めっちゃ喋るタイプの人苦手やんか。ゲンちゃんは得意なんやろ?できる人がやったらええねん。

ごめんな〜ゲンちゃん、アタシも和兄と一緒で家事嫌いでさ。戻ったら和兄のとこにお礼送っとくわ〜。何がええ?お酒?お肉?」

「いや全然お気遣いなく!おれは清和くんが面倒見てくれてるんで……」

「でも家事はゲンちゃんがやってんねやろ?何もせんわけにはいかへんわ」


妹もいつの間にか源吾と打ち解けてた。こいつ何気に人たらしか?


「和兄が誰か連れてくるとか初めてやから、よっぽどええ人なんやろうなって思ってんけど、ホンマにすごい子やわ。和兄のこと、よろしくお願いします」

「ほんとそうねぇ、今後とも清和をよろしくお願いします、ゲンちゃん」

「任せてください!清和くんのヨメなんで!」


今、うちの家族の中心で笑ってるのは、源吾だった。


ベーシストとして、彼氏として見守ってきたけど。


源吾はもう、家族の一員だと思った。


(考える。こいつを、家族として迎え入れる方法を)


帰りの車の中、眠ってしまった源吾の横顔をときどき見ながら、そう決めた。



※ 長男が「清一(せいいち)」やから「一兄(いちにい)」と「和兄(わにい)」で呼び分けてます by 妹:和奏(わかな)



♪


帰宅後。


源吾が早速、実家で習ったという料理を試している。

別におふくろの味じゃなくたって、源吾の作る飯は普通にうまいんだが。


「正月も働き詰めだったな、家事で」

「え?全然働くし。

それ言ったらお母さんとかおばあちゃんとか、休めないじゃん」

「手抜きだったけどな?

気づかなかったけど実は買ってきた惣菜をメインで出されてたりとかさ。

そんなもんだって。それでいーし」

「お母さんも言ってたな。普段は惣菜に頼ってる〜って」

「だろ?手抜きされたって、こっちは気づかないんだから」

「うん、でも、惣菜に負けたくない気持ちもあるんだよね」

「すげーな、それも……」


どれだけ手抜きでいいと言っても、やっぱり頑張っちまうのがこいつ。


それと、兄に注意した手前、俺自身のことで気になっていることはあった。


「源吾。

俺は、作業に集中したくて、家事に余分な思考を取られないようにずっとしてきてる。

だからこれからも家事する気はない。

前はただの居候だったから、家に置いてもらう代わりに家事ってのもよかったよな。

でも、もう身内じゃん?

普通に考えたら、おまえも仕事してるし、家事負担するべきだと思うんだよ。

今頃は、家事を“手伝う”って意識からダメらしいし?

それでも敢えて言う、俺は家事に意識を割きたくない。集中を削がれたくない」


「うん」


「でも、おまえにも音楽に集中してほしいし、家事負担は減らしたいと思ってる。

だから定期で家事代行、使おうと思って。月一でも週一でも。単発で使ったことは、今までもあるんだよ。それこそ家事のこと考えるのが苦痛だったから。

そういう方向で進めても、いいか?」


「……実は、清和くんに手伝ってほしいって思ったこと、ありました……

でもそうよな。それっておれのこだわりで、おれが全部抱え込んで、それを手伝ってほしいって思っちゃってたんだもん。

清和くん、ずっと手抜きでいいって言ってくれてたのに。

おれが素直にそこ聞けなくて。

おれのこと考えてくれての提案、ありがとうございます」


「そうそう、手抜きを覚えな。

外注できるものは外注。大事にしたいもんを大事にするため」

「そっか、大事にしたいのに、やること多くてイライラしてたら本末転倒だもんな」

「ていうかおまえ、手伝ってほしいって思ってたんだ。

ほんとに言わねーな、おまえ、それじゃ分かんねぇよ」

「いや、おれがしないといけないのに清和くんに言うのはお門違いだから」


やっぱり、こいつはずっと遠慮する。

しんどい状況も、自分が悪いと思って人のせいにできないんだ。


「そうやって言いたいこと飲み込んでると、爆発するぞ。

カップルが一回の喧嘩で別れるやつ」

「え!そんなのやだ」

「女側が不満をためてブチ切れて別れるって、あるあるじゃね。

だから適度にぶつかり合っとくのがいいとか言うじゃん」

「んー……おれ元カレにもキレたことなかったんだよな」

「あんな言い方されてたのに?」


「……失ったら、天涯孤独になるような気がしちゃって。

自分を抑えてでも、繋ぎ止めたかった気がする」


源吾の笑顔の中に、哀しみが浮かんで。

手を差し伸べて、ぐっと抱き寄せた。


「抑えんなよ。俺の前で。

怒っても文句言っても、嫌ったりしないから」


源吾が、しがみつくようにして抱きついてくる。


「清和くんに、怒ることなんて、ないけん」

「でもイラついてたんだろ」

「違う、自分にイラついてた」

「だから、そうやって自分を原因にすんなって。

もうクセだよな。……いいんだよ、俺にイラついたって」


多分、このクセは根深いだろうから。

源吾も無意識で、気づきもしないこと。


「……泣きそー……

なんかすげー、……こんな、温かいの、初めてな気が」


あったまれ。冷え切ってたんだから。

よくそれで、健気に人前でいい顔ができたんだ。


「あのさー。

…………


ちゃんと、おまえのこと、愛してっから。安心してここにいろよ」


俺としたことが、柄にもない。

でも、こいつには言ってやらなきゃって思った。


源吾がぐいぐい顔を押し付けてくる。

多分、堪えながら泣いてる。


俺たちのくっついてるところが、寒さを忘れるほどに、温かかった。



次回構想中につき、投稿までしばらくお時間いただきます!

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