Interlude by Seiwa
清和くんによる間奏ストーリー。
年末、再び源吾を連れて実家に帰省した。
今回は事前に、ヨメ(男)を連れて帰ると連絡済み。
だだっ広い田舎の家、一人くらい滞在者が増えても大したことはない。
家族の反応?
一斉に、は?と返ってきたが、そのうち、あ、そう、に変わった。
俺は元々家族の中でも変わった子扱い。
親戚の中でそういう前例があることもあり、田舎でありながら意外に許容範囲が広い部分もある不思議な家系である。
「大滝源吾と申します、この度は、こちらにお世話になることになり、ふつつかものですが、よろしくお願いします!」
「あら〜イケメン〜」
「まぁ〜可愛らしい子ねぇ、どうぞ上がって〜」
源吾は家に入るまでだいぶ緊張していたが、田舎特有の距離の近い母や祖母に逆に安心したらしい。
「親父、ヨメ連れてきた」
「ん」
「大滝源吾と申します、お世話になります。あの、これつまらないものですが……」
「ああ……悪いね」
ヨメっぷりが思ってた以上にすげぇ。
顔なんか愛嬌あるヤツだし、バイトは接客だし、バンドに潜り込むの上手いし、無意識にスキル発動してる。
親父がなんか聞き出してるし。
「源吾くん、仕事は?」
「ミュージシャンで、ベースをやってます」
「へーすごいねぇ。どんなバンドでやってるの?」
「僕はバンドのヘルプに入るフリーなんですけど、だいぶ仕事がもらえるようになりました」
「おい、親父、源吾を困らさないでくれる。
俺がちゃんと養ってんだからそんなもん聞くなや」
「清和がヨメさん大事にせんかったら、自立する経済力が必要でねぇか」
「なんで俺がモラハラ夫の設定なんだよ」
意外に世の風潮に明るい家。
ちなみに親父は昔グループサウンズ的なバンドをやってたことがあって、音楽への興味は親父の聞いてた音楽がきっかけだ。
源吾が大丈夫そうなのを確認し、俺は日課の作曲作業を開始した。
隣家との距離があるので、家にはアップライトピアノもあるし、源吾がベースの練習をしても問題ない。
と思ったら。
「何か手伝いましょうか?」
「ま〜源吾くん、いいのよここは」
「おれ家事全般できるんで、使ってください!働きます!」
「あら〜清和とは違ってほんとにお嫁さんだわねぇ」
「もしよかったら、藤崎家のおふくろの味とか、教えていただけませんか?帰って清和くんに作ってあげたいので」
まじか。
主夫スキル高すぎだろ。
そんなもんほっといて楽器の練習すりゃいいのに、と俺なんかは思うが、あいつは音楽だけで生きていける体質じゃないらしい。
しばらく放っておくとしょんぼりしてくるし、でも俺が忙しいと思って我慢してる。
(大型犬なんだよな)
だから思い切り甘やかす時間をちゃんと取ってやる。
そうしたらまた元気にいきいきとなる。パターンが分かってきた。
今回だって何もしなくていいって念押ししてあったのに、結局家事してるし……
主婦の会話についていけるとか信じらんねぇ。
「清和くん、ごはんできたよー。味付け教わったから、食べてみて!
お父さーんごはんできましたー」
「……へー……ちゃんとうちの味じゃん」
「ゲンちゃんほんと手際いいのよね〜。清和、あんたゲンちゃんに任せっきりにしないで、手伝いくらいやんなさい」
「清和くんにはお仕事頑張ってもらいたいから、全然!大丈夫です!」
めちゃくちゃ馴染んでる……
俺はこのとき、源吾の潜在能力を見た気がした。
♪
時間差で、兄も子ども二人を連れて帰ってきた。
「ゲンちゃーん!マリカしよー!」
「おっけー。やべーゲーム超久しぶり」
ウソだろ。もう子どもと馴染んでるし。
ゆっくりしてほしいから、俺の後ろに庇っておこうと思ったのに、あいつ自分から出ていってる。
子どもたちと源吾の笑い声。
俺は……
ムリだ。静かなところに避難したい。
源吾には悪いが子どもは任せた。
だがこの古い家は大体襖の仕切りでつながっているので、個室という概念が薄い。
だから実家苦手なんだよな……
兄貴の奥さんはいつも別行動で、泊まらずに一日だけ顔を見せるんだが、俺はその気持ちがすごく分かる。
普段子どもを見てるなら尚更、夫という他人の実家の行く時間なんて最低限でいい。一人の時間を満喫するなんて、最高に貴重な機会に決まってる。
奥の間の襖を締め切って、ようやくある程度の静けさを確保した。
(俺の高校までの部屋は物置になっているので使えない)
初めて源吾のステージを見たのも、一年前くらいだったか。
こうして側に置く結果になったのは本当に偶然だと思うが、それにしても、俺も結構変わったと思う、こうして実家に泊まりがけで帰るほどには。
源吾が成長して、仕事を取るようになって、気分的な余裕が二人ともに出たこと。
それから、昔から積み上げてきた金銭的・音楽的資産が、それ自身である程度の収益を生み出し始めたこと。
とはいえ曲は作り続けないと、AIなんかも優秀になってきている今、AI不使用の作曲の需要があるうちに曲を出して収入にした方がいい。音楽を知らない素人が、AIで作曲して収入を得られる時代なのだ。
ただ生演奏は今のところ人間の範疇で、源吾の仕事は心配がいらないと思う。
人間の奏でる音というのは、やっぱりエネルギーが乗っていて、感情を動かせるものだから。
プレイヤー、か。
労力の割に実入りが少ないと思って、大学在学中に見切りをつけた。
でも、ステージに立つ快感は知ってるし、年に数回はプレイヤーに戻って楽しむ。
楽しいばかりじゃないのが仕事になるわけだが。
(好きな音楽を、気に入ったヤツと、ぶちかましてぇ)
たまにそんな衝動を、腹の底で感じてる。
(源吾なら、乗ってくれるんだろうな)
ずっとジャズ・フュージョン方面をやってきたが、以前からロックも聞くし、なんなら複雑な変拍子まみれの音楽だって好きだ。
普段、BGM用に柔らかく聞きやすい曲を作ることが多いからか、ときどき無性に重低音とツーバスの効いたプログレ(プログレッシブ・ロック)とかメタルが聴きたくなる。
そっち方面に付いてこれる奴というと、
(源吾と……そういやユージュが7弦やりたいヤツだっけ。
強力なボーカルと、ツイン使えるドラムがいるな)
ただ、やりたい音楽と売れる音楽は違う。
楽器好きが集まると際限無くマニアックになるに決まっているので、商業路線でいくかどうかも考えておかないといけない。
まあ、今すぐどうこうなるわけでもない。
ちょっとした願望というだけだ。
もうしばらくは安定収入確保して、源吾が一人でも食えるくらいになったら、その頃には不労所得も増えてくるし、そしたら――
「あ、清和くん、ここにいたー」
襖が開いて、源吾がこっちに来た。
「子どもの相手、ありがとな」
「めーっちゃ久々にゲームして、なんかあの子達の方が上手いね、完敗しちゃった」
「おまえ、すげぇよ馴染んでて。
俺まじで賑やかな家庭とか苦手。おまえいなかったら帰省しねーわ」
「でも、みんなで食卓囲めるって、おれはいいなーって思って。
これならもう数日いさせてもらっても大丈夫だったなぁ」
「いや、俺がムリ」
「来年の夏も泊まっていいかなぁ?」
「おまえならいいだろ。
ここだとセックスできねーけどな」
「そうだけど。……でもちゅーくらいならできるじゃん」
それでキスしてくる源吾。
小悪魔かよ。
「……かわいーな、おまえ」
「ん……」
「ヤリてぇ」
「ムリじゃん」
「明日、帰ったらな」
顔を離すと、ちょうど源吾の首元に、プレゼントしたチェーンネックレスが見え隠れする。
ずっとつけっぱなしだ。
指輪みたいに。
次はどうやって、こいつをしあわせにしてやろうかな。
もう一度、顔が近づきかけて――
「清和〜。
ゲンちゃんにお風呂案内したげて〜」
母の声が近づいて、不覚にもびっくりした。
こっちも慌てた源吾が赤くなってて、かわいい。
「あーあ、やっぱ実家って落ち着けねー。
風呂一緒に入ろ。抜き合いくらいならいけるだろ」
「うん……おれも、触りたい」
音がしない程度の軽いキスをして、風呂に向かう。
♪
和室は古いが、水回りなんかはリフォームもしていて、バリアフリーで使いやすいシステムバスに変わってる。
シャワーを浴びながら、抱き合って、深く口付けて。
舌を絡めて、吸い合って、体を密着させる。
「せいわくん、キスマークして……」
「これ買ってやったのに、まだいるのかよ」
首筋に噛みつくようにして、はっきりと跡を付けておいた。
本当に、愛されたがりだ。
そのくらい、欠乏してただろうから。
「……な、口でシてやろうか?」
「え、清和くんが?」
「いいだろ、今日はできねぇんだし。そこ座って」
「……これ、はじめて、なんだけど……」
初めてってまじ?あの元カレにはされてなかったってことか。
いいじゃん。
俺のだけ知ってればいい。
・
・
「あ。除夜の鐘。聞こえるんだ」
「近くに寺があるからな」
「今年は、すごい目まぐるしい年だったな……環境が変わりすぎて」
「たしかに。俺も結構変わった」
「でも、全部清和くんのおかげだよ。
来年も、一緒にいさせてください」
「当たり前だろ。俺のヨメなんだから」
布団を二組敷いたが、古い家は寒い。
結局抱き合って、温め合って眠りについた、今年の終わりだった。




