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ハイテンション・ノート 〜詰みベーシスト、音楽ガチ勢リーマンに拾われる。〜  作者: 橘 いゆ璃


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22/30

20−2.俺のヨメに、何の用?


止まった時が動き出したのは、清和くんが身をかがめておれの髪に軽くキスした瞬間。


うおぉい。カケルの前!


「俺のヨメ」が脳内でまだ反響してて、じわじわと顔に熱が上がっていく。


カケルを見ると、今まで見たことのない追い詰められたような顔だった。


「俺はこーいうモンだけど。あんたも名刺出せや」


カケルに、わざわざ名刺入れを下に両手で名刺を出す清和くん。

カケルが慌てて名刺を探って取り出してる。

そんでちゃんと立ち上がって、ヘビ対カエルのような名刺交換の図が出来上がっていた。


「一旦座れ」


カケルが恐る恐る座る正面、清和くんはおれを奥に行かせて、どかっと座る。

清和くんの物理的上から目線……おれ受けたことないけど絶対怖いやつ。


「話、聞いたわ。源吾に通話繋げてもらってたんだよ。

不穏な部分は録音しといたから、あんたが変な動きするなら、出るとこ出るぞ。

俺、弁護士の友達いるんで」


「あ、いや、別にそんなつもりは……」


こえーよ清和くん。敵に回したらヤバいタイプだ……


「スピネルの権利については、こいつが放棄してもいいっつってるから、あんたがその気なら両者合意の元で公正証書作成してもらうが?」


公正証書って何……?

多分カケルも知らなくて、どう返していいか困ってる。


「そういうほどのものじゃ……」

「こいつにちょっかいかけたら、相応の根回しはさせてもらうから、そのつもりで」

「いや……その……」


カケルって、立場に弱いとこあるんだよな。

先輩にはちゃんと従うけど、同等以下にはちょっと気が大きくなるというか。

多分清和くんの名刺の、会社名と肩書見て、びびってる。

ちょっとかわいそうになってきて、清和くんを制止した。


「清和くん、ごめんね、巻き込んで。

カケル、そこまでじゃないなら、なんでこじれさそうとするん?

そういうところだよ、だからブロックしてた。

おれはもうおまえに関わる気ないし、黙って言うとおりにするのはもうやめた。

昔のファンのこと考えるなら、おれをけなすんじゃなくて、ファンの思いをちゃんと聞いて受け止めろよ。ファンがおれらの仲違い見たいのかよ。

おれはスピネルを黒歴史にしたいわけでもないし、あの活動は大事に思ってるし、ただトラブルの元になるならしがみつきたくないだけ。

それでも、ファンを軽んじてることになる?」


「……」


カケルは、おれを見ない。

気まずいときのこいつのクセ。

こいつがおれに謝らないだろうことは、分かってる。そこだけプライド高いヤツなんだ。

でも、謝罪がほしいわけじゃない。


「源吾、帰るぞ」

「……ん。

じゃあな、カケル」


清和くんが席を立って、おれも立とうとした。


「……ずりぃし」


ぼそっとカケルが呟く。


「おまえばっか、うまく行ってて」


ああ。

こいつは、おれが光の中にいると思ってるのか。

本当は、こいつだって、音楽で成功したかったのをおれは知ってた。

だから、一緒にやっていけると思って頑張ってた。


「……地道にやっただけだよ。おまえが思うような、華やかな道じゃない」


清和くんっていうチートサポートがあったのは、認めるけど。


その清和くんが、注文票をさっと取り上げて。


「おい、俺のヨメに絡みたいなら、年収800万、副業200万売り上げてから来い。

そこまでしたら話すくらいは認めてやる」

「ちょっ……清和くん!?」


もうカケルのライフは0だよ。


清和くんがさっさとレジに向かうので、おれもカケルを残して後を追った。


♪


クリスマスの彩りの中を抜けて、電車に乗り、家に戻る。

電車に乗るまでも、乗ってからも、降りてからも、ずっと手を繋いでた。


「清和くん、まじごめん。

とんだクリスマスやった」

「んーん。おまえに落ち度ないだろ」

「めっちゃ怒ってなかった?」

「刺せる釘は刺しといた」

「こわっ、あはは」


清和くんにぶっ刺されたカケルにはちょっと同情する。


「……おれさ。ずっと曖昧にしてたけど、凸までされたし、バイトやめる。

近場にして……もうそれかバイトせずに音楽一本でもいいかな。練習時間も確保したいし、配信も時間取って」

「いいんじゃね。おまえの必要経費なら、もう事業収入で賄えるだろ」

「でも生活費はまだ……」

「心配しなくても、養ってやるって。俺のヨメだからさ」


うっわー。

顔が赤くなるのが自覚できる。

“彼氏”より強烈な気がするのはなぜ。


清和くん、あんまり好き好き言わないけど、こういうときの破壊力が凄まじい。



家に着いて、清和くんがピースのケーキを買ってくれてて、一緒に食べて。


こっそり買ってたプレゼント――百貨店で買ったちょっといいネクタイ、これがおれの精一杯――を渡した。

いつも清和くんの服を片付けてるから、手持ちのネクタイの価格帯より高いものを選んでみました。モブ感がちょっと消えた。


そしたら清和くんからも、プレゼントの袋が出てきて。


なんとブランドもののチェーンネックレス。

清和くんが後ろに回って、付けてくれた。


「プラチナだから、つけっぱでもいける」


プラチナって……これいくら!?


値段は怖くて聞けない。

でも、消えてしまうキスマークの代わりに、ずっとつけていられるのが嬉しい。

人に見せることだってできるし。

もちろんそれでも、キスマークは欲しいんだけど。


ネックレスをしたまま、一緒に風呂入って、そのままベッドに向かった。



「清和くん、すき」

「ん」


好きで、大好きで。

絶え間なく清和くんにキスを浴びせちゃう。


清和くんが、上に跨るおれを下から見上げて。

ネックレスを辿りながら、おれの首元に手を触れてくれる。


「ネックレス(これ)、すげー似合ってる」

「清和くんが選んでくれたんだもん」

「全裸にプラチナ、エロくていいな」

「……っ」


頬が熱くなる。

言い方、エロ。

でもそんなこと言われたら、もっとその気になっちゃう。


唇を重ねて、じゅっと音を立てて、何度も吸い合うように繰り返して。

互いの口内で、舌が絡み合う。


もっと、もっと欲しい。


「ん、すきっ……」

「……ん」

「ヨメに、してくれるん?」

「最初から、そのつもりだけど」

「ふつつかものですが……ってもうやったっけ」

「そうそう、そのときからヨメ確定」

「……清和くんすき、大好き」


嬉しくて清和くんにがばっと抱きついた。

清和くんがしっかり、抱きしめ返してくれて。


あたたかさに、心が満ちる。


何も起こらないと思ってたクリスマス、おれが清和くんのヨメだと判明した日になりました。


※帰ってからの二人


源吾:清和くんこれ(ネックレス)ティフィニーやん……いくらか知りたくない……てか年収1000万……?

清和:年収800万は盛った。釘になればいいからな

源吾:え、副業200万は?

清和:まぁあったりなかったり?

源吾:盛ってもないんかい!

  (ティフィニー買えるわけだ……やっぱスパダリやんけぇぇ)

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