20−2.俺のヨメに、何の用?
止まった時が動き出したのは、清和くんが身をかがめておれの髪に軽くキスした瞬間。
うおぉい。カケルの前!
「俺のヨメ」が脳内でまだ反響してて、じわじわと顔に熱が上がっていく。
カケルを見ると、今まで見たことのない追い詰められたような顔だった。
「俺はこーいうモンだけど。あんたも名刺出せや」
カケルに、わざわざ名刺入れを下に両手で名刺を出す清和くん。
カケルが慌てて名刺を探って取り出してる。
そんでちゃんと立ち上がって、ヘビ対カエルのような名刺交換の図が出来上がっていた。
「一旦座れ」
カケルが恐る恐る座る正面、清和くんはおれを奥に行かせて、どかっと座る。
清和くんの物理的上から目線……おれ受けたことないけど絶対怖いやつ。
「話、聞いたわ。源吾に通話繋げてもらってたんだよ。
不穏な部分は録音しといたから、あんたが変な動きするなら、出るとこ出るぞ。
俺、弁護士の友達いるんで」
「あ、いや、別にそんなつもりは……」
こえーよ清和くん。敵に回したらヤバいタイプだ……
「スピネルの権利については、こいつが放棄してもいいっつってるから、あんたがその気なら両者合意の元で公正証書作成してもらうが?」
公正証書って何……?
多分カケルも知らなくて、どう返していいか困ってる。
「そういうほどのものじゃ……」
「こいつにちょっかいかけたら、相応の根回しはさせてもらうから、そのつもりで」
「いや……その……」
カケルって、立場に弱いとこあるんだよな。
先輩にはちゃんと従うけど、同等以下にはちょっと気が大きくなるというか。
多分清和くんの名刺の、会社名と肩書見て、びびってる。
ちょっとかわいそうになってきて、清和くんを制止した。
「清和くん、ごめんね、巻き込んで。
カケル、そこまでじゃないなら、なんでこじれさそうとするん?
そういうところだよ、だからブロックしてた。
おれはもうおまえに関わる気ないし、黙って言うとおりにするのはもうやめた。
昔のファンのこと考えるなら、おれをけなすんじゃなくて、ファンの思いをちゃんと聞いて受け止めろよ。ファンがおれらの仲違い見たいのかよ。
おれはスピネルを黒歴史にしたいわけでもないし、あの活動は大事に思ってるし、ただトラブルの元になるならしがみつきたくないだけ。
それでも、ファンを軽んじてることになる?」
「……」
カケルは、おれを見ない。
気まずいときのこいつのクセ。
こいつがおれに謝らないだろうことは、分かってる。そこだけプライド高いヤツなんだ。
でも、謝罪がほしいわけじゃない。
「源吾、帰るぞ」
「……ん。
じゃあな、カケル」
清和くんが席を立って、おれも立とうとした。
「……ずりぃし」
ぼそっとカケルが呟く。
「おまえばっか、うまく行ってて」
ああ。
こいつは、おれが光の中にいると思ってるのか。
本当は、こいつだって、音楽で成功したかったのをおれは知ってた。
だから、一緒にやっていけると思って頑張ってた。
「……地道にやっただけだよ。おまえが思うような、華やかな道じゃない」
清和くんっていうチートサポートがあったのは、認めるけど。
その清和くんが、注文票をさっと取り上げて。
「おい、俺のヨメに絡みたいなら、年収800万、副業200万売り上げてから来い。
そこまでしたら話すくらいは認めてやる」
「ちょっ……清和くん!?」
もうカケルのライフは0だよ。
清和くんがさっさとレジに向かうので、おれもカケルを残して後を追った。
♪
クリスマスの彩りの中を抜けて、電車に乗り、家に戻る。
電車に乗るまでも、乗ってからも、降りてからも、ずっと手を繋いでた。
「清和くん、まじごめん。
とんだクリスマスやった」
「んーん。おまえに落ち度ないだろ」
「めっちゃ怒ってなかった?」
「刺せる釘は刺しといた」
「こわっ、あはは」
清和くんにぶっ刺されたカケルにはちょっと同情する。
「……おれさ。ずっと曖昧にしてたけど、凸までされたし、バイトやめる。
近場にして……もうそれかバイトせずに音楽一本でもいいかな。練習時間も確保したいし、配信も時間取って」
「いいんじゃね。おまえの必要経費なら、もう事業収入で賄えるだろ」
「でも生活費はまだ……」
「心配しなくても、養ってやるって。俺のヨメだからさ」
うっわー。
顔が赤くなるのが自覚できる。
“彼氏”より強烈な気がするのはなぜ。
清和くん、あんまり好き好き言わないけど、こういうときの破壊力が凄まじい。
家に着いて、清和くんがピースのケーキを買ってくれてて、一緒に食べて。
こっそり買ってたプレゼント――百貨店で買ったちょっといいネクタイ、これがおれの精一杯――を渡した。
いつも清和くんの服を片付けてるから、手持ちのネクタイの価格帯より高いものを選んでみました。モブ感がちょっと消えた。
そしたら清和くんからも、プレゼントの袋が出てきて。
なんとブランドもののチェーンネックレス。
清和くんが後ろに回って、付けてくれた。
「プラチナだから、つけっぱでもいける」
プラチナって……これいくら!?
値段は怖くて聞けない。
でも、消えてしまうキスマークの代わりに、ずっとつけていられるのが嬉しい。
人に見せることだってできるし。
もちろんそれでも、キスマークは欲しいんだけど。
ネックレスをしたまま、一緒に風呂入って、そのままベッドに向かった。
「清和くん、すき」
「ん」
好きで、大好きで。
絶え間なく清和くんにキスを浴びせちゃう。
清和くんが、上に跨るおれを下から見上げて。
ネックレスを辿りながら、おれの首元に手を触れてくれる。
「ネックレス、すげー似合ってる」
「清和くんが選んでくれたんだもん」
「全裸にプラチナ、エロくていいな」
「……っ」
頬が熱くなる。
言い方、エロ。
でもそんなこと言われたら、もっとその気になっちゃう。
唇を重ねて、じゅっと音を立てて、何度も吸い合うように繰り返して。
互いの口内で、舌が絡み合う。
もっと、もっと欲しい。
「ん、すきっ……」
「……ん」
「ヨメに、してくれるん?」
「最初から、そのつもりだけど」
「ふつつかものですが……ってもうやったっけ」
「そうそう、そのときからヨメ確定」
「……清和くんすき、大好き」
嬉しくて清和くんにがばっと抱きついた。
清和くんがしっかり、抱きしめ返してくれて。
あたたかさに、心が満ちる。
何も起こらないと思ってたクリスマス、おれが清和くんのヨメだと判明した日になりました。
※帰ってからの二人
源吾:清和くんこれ(ネックレス)ティフィニーやん……いくらか知りたくない……てか年収1000万……?
清和:年収800万は盛った。釘になればいいからな
源吾:え、副業200万は?
清和:まぁあったりなかったり?
源吾:盛ってもないんかい!
(ティフィニー買えるわけだ……やっぱスパダリやんけぇぇ)




