20.俺のヨメに、何の用?
――なんで?
[おまえ何でL○NE出ないの?話あるから会おう]
SNSのほうにカケルからDM来たんですが。
連絡来たと思ったら金払えのイメージが残ってて、話したくないんだけど……
「んー……ブロックしてもいいけど、それ仕事のアカウントだよな。一旦スルーしとく?」
「そうしよっか」
清和くんにはちゃんと共有済み。
「ウザくなったら弁護士紹介するわ」
「まじ、なんそれ」
清和くん、つよ。
スパダリいるからおれは安心して暮らせます。
てかカケル、結構な上から目線だよな……
付き合い当初はそうじゃなかったのに、だんだん上からになってきた。
おれが言うこと聞くポジに自ら収まったからかも。
「おまえって、DV彼氏を引き当てる女のパターン当てはまってね」
「あー……うわ、めっちゃ当てはまる……」
清和くんからそういうパターンのネット記事見せられて、納得してしまった。
おれってダメ男製造機だったんか。
「拾われたのが清和くんでよかった」
「そうだろ」
「言葉のチョイスだけは亭主関白っぽいよな。養ってんだからとか」
「うるせ、俺はどうせ昭和だよ」
「え、平成生まれよな?」
こんなことも笑いながら言い合えるのが、しあわせ。
それから数日後、クリスマス当日。
予定通りおれは昼過ぎからラストまでの一日勤務。(ちなみにちょっとオシャレ系飲食)
あーもう、人手削れてんのにカップルの多いこと。
昼はまだしも、夕方で勤務上がっちゃう子が何人かいるっていう。
予定のないバイトたちが何人かは入ってるけど、ちょっと経験の浅い子もいて、一応ベテラン勢になるおれがカバーしながら回していく。
休憩時間に賄いもらって、そろそろ退勤時間のはずの清和くんにL◯NE。
[帰り、駅まで迎えに行こうか?]
[嬉しい!]
これでバイト後半も頑張れる。目の前のカップルたちにも優しくできるおれだった。
・
・
「おつかれー」
「お疲れさまでしたー。カップルばっかりで凹みましたぁ」
「まじそれな。まー飲食はそんなもん」
ラストメンバーで片付けまで済ませて、帰り支度して、
早く清和くんに会いたくて、店を出る。
「え?」
見覚えのある人影に、一瞬目を疑った。
「よ。久しぶり」
店の前にいたのは、スーツ姿の元カレ、カケルだった。
♪
「……え、何で」
「おまえ返信よこさねーんだもん。てか無視すんなや」
状況が飲み込めない。
付き合ってたときと同じバイト先だから、ここ張ればそりゃ会えるけど。
「……おれ、用ないから。じゃ」
「待てよ、オレはあんの」
後から出てきたバイトたちが、不思議そうな目でおれたちを見ていて、ここで事を荒げるのはまずいと思い直した。
どっちかが女だったら絶対痴情のもつれって思われるやつ。
「駅前のファミレスでいいなら」
「えー、普通に飲みに行こうぜ」
「いい、帰る」
「は?クリスマスだし会いに来てやったのに。帰るとか何?」
「頼んでないんだけど。
てか触んないで」
肩を抱かれて、手を払った。
清和くん以外にされたくないし。
「なに?その態度。別にいーじゃん、付き合ってた仲だろ」
おれ、こんな言われ方に耐えてたのか?
まずそれに驚いた。
たしかに、ちょっと上からだった。当時は疑問にも思ってなくて、反論したこともなかった。
向こうが全部決めて、おれはそれでいいよって。
なんか麻痺してたみたい。
清和くんもなかなかぶっきらぼうな言い方ではあるけど、おれに求めることって、音楽やれくらいだから。
「あのさ。おれ、彼氏いるから。
だから二人で会うとかしたくないんだけど」
「は?おまえに?
あ、もしかしていつも配信にいるユージュってやつ?」
「違う」
こいつ配信見てたのかよ……それはいいんだけど……
「でも飯くらいいいじゃん。ほんとに久々に会いたかったんだって。普通に友達同士としてでさ、これでも五年一緒に音楽やっただろ」
「……だから駅前のファミレスならって」
なんだか妙にしつこくて、渋々ファミレスに移動した。
♪
何の話かと思えば、主にカケルの自慢話だった。
今の会社で営業成績1位を取ったとか、二丁目でモテてるとか、おれは一体何を聞かされてるんだろう。しかも、
「成績1位でボーナス出たから、奢ってやるよ。何でも頼めよ」
ファミレスでそれ言われてもな……いや、奢られないけど……
顔だけは相変わらずいいけど、おれは完全に冷めている。
元カレの話聞いて楽しいわけないやん。
友達に戻れるってタイプの人もいるらしいけど、おれはムリ……
途中でトイレに立って、清和くんに帰りが遅れることを伝えとく。
[元カレに待ち伏せされてた。とりあえずファミレス入ってるけどなんとか切り抜ける]
[そっちまで行くわ]
判断が早い。
心強い。巻き込んでごめん。
いや、走って逃げるのも流石にかっこ悪かったしな……っていうおれの甘さかも。
家からこっちの駅までは40分前後か。
耐えろおれ。
適当にメニュー頼んだけど、なんか味がしない。
おれこいつにそんなストレス抱えてたんだ。
でも、別れ話が出たとき縋ったのも事実で。
要するに黒歴史……
こいつはそんなに気にしてないのかな。普通に話してくるって。
嫌いっていうよりは、関わりたくないだけ。
古傷は古傷だから。
「おまえまだ音楽やってたんだ。諦め悪いな、オレいなくて大変だろ」
「あいにく、友達には恵まれてたみたいで。ちゃんとやってます」
「まー仲間意識は強いよなー。東秀とか返事テキトーでやんの。友達だったんじゃねぇのかいって」
「おまえさ、なんかおれに来たサポートの話断ってたって?こないだ仕事先で聞いたわ。
普通に相手に失礼よな。おれが謝っといたわ」
「なに、そんなことあったっけ?覚えてねー」
この空気読んでない感はわざとか?天然か?
こんな性格で会社でやれてるのが不思議。もしかしておれだけにこんな態度?
まあ喋る勢いは営業っぽくて、向いてたんかなとは思うけど。
「ファミレスの酒ってやっぱ不味。なあ、やっぱ飲みにいかね?いいバー見つけたんだよ」
「行かんって。
てかおまえ二丁目とか出入りするんだ」
「何、嫉妬?」
「彼氏いるのにそんな訳ないじゃん」
「なんだよ、彼氏彼氏って当てつけかよ。随分縋ってきたクセに」
「それは過去の話」
「んーじゃあおまえの配信出ていい?なんかオレ求められてたじゃん、スピネルのファンに」
「おまえ個人でやれよ」
「ひどくねー?あんだけオレに未練タラタラだったのに、もう手のひら返しちゃった?今度の彼氏どんなやつ?バンドマンとかやめとけって、おまえもだけど相手にも教えてやりたいわ。所詮相当才能ないとのし上がれない世界じゃん?リーマンやったほうがよっぽど人から認められるよ」
「あのさ。何がしたいん?」
いい加減面倒になって、切り込んだ。
おれの彼氏はその相当才能あるリーマンなんだよ。言わんけど。
「おれ別におまえと絡みたくないんだよ。まだおれが全部おまえの言う事聞くと、思ってる?」
「は、オレと絡みたくないって、何様?」
「その上から目線が、何様だよ。
おれはおまえの所有物じゃない」
「オレが前に出てバンドやってやったじゃん。オレがいなきゃベース一人じゃステージ立てねーし、ファンがついたのだって大体オレの功績じゃん」
「だからって今おまえの言いなりになる理由はないだろ」
「だったらバンドの収益、おまえが半分じゃ取りすぎじゃね。返せや」
「何、脅し?」
「脅してねーし。正当な権利の請求。あとスピネルのファンからの投げ銭はオレにも利益入んだろ」
「それは自分で配信したら?ファンはそっち行くよ」
やっぱ金の話か。
さらにうんざりする。
どこまで欲しがりなんだろ、人気も金も。
友達としての会話じゃ、全然ないじゃん。
「おまえがもらってんのがおかしいって言ってんの」
「もうそこまで言うなら自分で弁護士立ててくれる?おれスピネルの話してねーし。大体、別れたとき、音楽活動の権利はおれに譲渡するって決めたのおまえだろ。だからCDもグッズも持って出たけど。それ渡すし、バンドの権利は放棄するって一筆書くし、それで終わりにしてくれん?」
スピネルのCD、プレミアつく可能性もあったけど、おれはもうそんな利益はどうでもいい。
おれの名で仕事が入ってきてるし、過去を売って稼ごうとは思わない。
「オレたちの作品って、おまえにとってその程度だったのかよ?簡単に手放せるわけ?
そっちがそのつもりならオレも反論するわ旧アカで。そうやってファン軽んじる奴だってな――」
金の話からどこ行ってそうなった?支離滅裂な気も。
もはや難癖としか思えない。
そのとき、おれたちのテーブルの前に、人影が止まった。
――あ。
息が止まりそうになったのは、怖さじゃない。
(清和くん)
叫びそうなのを、息とともに止めたから。
耳に当ててたスマホを下ろして、おれをかばうようにカケルに向いて、見下ろして。
スマホの画面をタップする動作が妙に静かで、落ち着いてて。
「あんた、俺のヨメに、何の用?」
……
……ヨメ?
おれも、カケルも、しばらく言葉を失っていた。




