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ハイテンション・ノート 〜詰みベーシスト、音楽ガチ勢リーマンに拾われる。〜  作者: 橘 いゆ璃


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18/31

17.今日、晩メシいいわ

最近、フォロワーとか配信の同接が増えてきた。

おそらく重甲シフォンかユージュくん経由で流れてきたっぽい。

通りすがりじゃなくて、明らかにおれと認識したコメントとか増えてるし。

投げ銭もちらほら入り始め、ちょっとした小遣い程度までになってきた。


清和くんに収入の管理の仕方も教わりつつ、音楽で稼ぐ実感が少しずつ出てきているところ。


ユージュくんはチャンネル登録者数も既に万単位行ってて、既に人気配信者って言ってもいいくらい。

ギターのバカテク動画とかだとコメント欄が称賛で溢れてるし。


そんなユージュくんと、次のライブを前に配信で対談することになりました。

弱小配信者のおれなんか呼んでどうすんだよと言ったんだけど。

「部外者」であり「関係者」であるおれから見た重甲シフォンの魅力を聞きたいから、らしい。


これ、清和くんの家でやっていいやつか?


まずそれが気になってしまった。

いや、おれ個人の配信なら寝室で壁だけ映る形でやってるけど。

ほかの男とのコラボ配信を彼氏の家でやるってどうなん。


清和くんが嫌ならどこかレンタルスペースなりカラオケなり行こうかなと思って聞いてみた。


「俺どうせ作業でヘッドホンしてるし、夜だし、わざわざ外行くことでもねえだろ。そもそも仕事の一部なんだから、気兼ねすんなよ」


あっさり了承されて拍子抜けした。


なんかもっとこう……

またあいつとやんの?みたいに渋ったり……


しないんだよなぁ、清和くんって。

やっぱそれだけ大人だからなのかな。

仕事って堂々と割り切っててすごい。

もちろん清和くんに嫌な思いしてほしいんじゃない。

けどこんなに手放されてる感……


むしろ、止めてくれたっていいのに。


ユージュくんに誘われるがまま、彼との時間を増やしてもいいのかどうか、ちょっとためらってる。止めてくれたら絶対清和くんとの時間優先する。


あー、おれ、めんどくせぇ。

こんなとこまで清和くんに頼ってちゃだめじゃん……

年下に引っ張られてどうすんだ。おれだってしっかりしなきゃ。

つーか仕事の一貫なんだから割り切れよって話で。


ただ言い訳するなら、こんなに求められるのこと自体がほぼ初めてで、上手い対応の仕方が分からない。

求められたら応えたくなっちゃうというか、返さないと悪いと思っちゃう。


だから本当は、清和くんに一番求めてほしいけど。

清和くん、逆におれにいろいろ与えてくれるから。

おれの分の生活費だって、まだ出させてくれないんだよ。

おれができることって、家事とあとはアレ、セックスくらいしかないんだけど、清和くんががっついてくるよりおれが誘ってることの方が多いような。

それも、清和くんのためっていうより、おれが甘えたくなって至ってる傾向だから、清和くんがわざわざ相手してくれてるような気も。


おれ、守られてるなぁ。


もちろん嬉しいしありがたいんだけど。


おれが清和くんを守ることができるようになる日は、来るのかな。


♪


なんだかんだで週一はユージュくんとの配信をするようになった。

ユージュくんがホストで、ゲストを招いてるって感じで、バンド二大トップのボーカル・カイナくん(名字が仲井……笑)も出演したりしてる。

それでなぜか毎回おれは呼ばれている。しかも投げ銭の分前をギャラだってことでくれるんだよ、ユージュくん。どんだけ大人対応なん。

みんなにしてるとは言ってたけど。


おれもパソコンを手に入れたので、パソコンで曲を流しながら合わせて弾くカバー動画を作れるようになった。

有名な曲やベース映えする曲をやりながら、合間に清和くんの曲を演奏して紹介してる。

ベースなしの音源もくれたから、ベースカラオケみたいにできるのがすごいし面白い。

有名な曲のカバーでちょっと動画が回って登録者数が増えれば、清和くんの曲がより多くの人に届く動線にもなれるので、清和くんの売上につながるよう頑張ってるところ。


まあ、既に清和くんBGMチャンネルで収益化してるから、おれが応援するまでもないんだけど……


配信やら、動画作成・投稿やら、リハと本番やらで、なんだか急激に忙しくなってきた。


清和くんとゆっくり話す時間がない。悲しい。

ごはんだけはちゃんと作ろうと思ってるけど、シンクに洗い物が溜まったり、掃除が数日ごとになったり。


もう五日もえっちしてない。

清和くんから誘ってこないのは、おれに気を遣ってるのかな。

正直ちょっと余裕はないけど、清和くんに迫られたら多分やる……

てか清和くんに気を遣わせるなんて、ダメだろおれ。


(やば、こんな時間)


朝ごはんをしないといけないから、さすがにもう寝ないと。

清和くんはまだ作業してるのかな。明日仕事なのに。


ベッドに来ないと思ってリビングを覗いてみると、清和くんはもう要塞の椅子にはおらず。

前みたいに、ソファーで毛布にくるまって眠ってた。


つきん、とほんの少し、胸の奥がつらくなる。


おれの方に来てくれなかった。

編集中なのを気にしてたのかもしれない。

パソコンのクリック音が気になるから、別々に寝たのかも。


久々に一人のベッドに横になる。

妙に広くて、寒かった。


♪


「今日、晩メシいいわ」


朝見送るとき、清和くんに言われた。


「え?何か予定?」

「いや、別に。おまえ忙しいだろ。今日ライブって言ってなかった?」

「うん、本番だけど、家出るまでに作っとくよ」

「いいから。その時間で寝とけ」

「大丈夫だって」

「大丈夫じゃねぇんよ。とりあえず今日は外で食ってくるから。無理すんな」

「無理、じゃなくて……」


おれを遮るように、清和くんの人差し指がおれの眉間にとん、と刺さる。


「音楽に全集中。ほかに何もすんなよ。いいな」


おれを見据える目が鋭くて、動けなかった。


「じゃな」

「いってらっしゃい……」


清和くんが出ていった後、なんだか妙に気が抜けて、なんとなくソファーに座って横になる。

念のため、アラームをかけておいて。

これから朝ごはんを食べようと思っていたのに、先に眠気がやってきた。


清和くんの被っていた毛布を広げて被ると、ほんのり清和くんの匂い。


(落ち着くな……)


急いでごはんを済まして洗い物して、晩ごはんの下ごしらえと炊飯器のセット、洗濯機を回して昨日の分のアイロンをかけて……と思っていたのに。


清和くんの言葉にまるで催眠術にかかったみたいに、やる気が失せてしまった。


(こんなサボっちゃ、おれがいる意味って……)


そう思うのに、体はもう動いてくれない。

毛布で体が温まってきて、幸せに包まれてしまう。


・

・

・


一時間で起きようと思ったのに、がっつり昼前まで寝てしまった……

準備してたら出発時間ギリギリ。

あぶねー。

家事がなにもできないままで悔しい。ちゃんとしておきたかったのに、眠気に負けた。

すっきりしない感に凹みながら、家を出た。



「ゲンゴさん、今日もいい感じ」


ユージュくんはいつものように褒めてくれる。

実は心ここにあらずでごめん。清和くんにごはん作りたいってばっかり考えてしまった。


「今日の対バン相手に挨拶いこ」

「実はさ、昔対バンしたことあるんよ、5年くらい前だし3バンドくらいいたから覚えられてないと思うけど」

「そうなんだ!」


そうなんです、スピネル時代に声かけてもらったことがある。カケル経由で来たからおれは認識されてないかも。格上から対バン来た!って喜んだっけ。


メンバーみんなで挨拶にいった。

相手の方がキャリアは長く、インディーズ界隈では結構名の通ったバンド。地方ツアーにも行ってる先輩バンドである。

でも、ユージュくんは格上相手にも余裕の表情で挨拶していた。やっぱこの子大物の気配なんだよな。


「あと、ベースのゲンゴさんです、サポートに入ってもらってます」

「ゲンゴです、以前別バンドでお世話になりました。改めてよろしくお願いします」


向こうは覚えてなくても挨拶はしっかりと。


「ゲンゴ……って、あー!スピネルのゲンゴくん」

「あっ……そうです」

「サポート入ってるの?相方くん許してくれたんだ?」

「いや、スピネルは解散しちゃって、今フリーでやってます」

「あー……そっかー。

いやさ、一度ベースのサポート頼もうと思ったことがあったんだけど、相方くんの連絡先しか知らなくて、彼に聞いてみたらそういうのはしてないって断られちゃったんだよね」

「え、そうなんすか……こっちには全然そんな話は、てか、図々しくもお断りなんかして申し訳ありませんでした」

「いやいや、自分が知らないことだから全然いいんだよ」


カケルよ、何をやってくれたんだ……

カケルが勝手に話を潰した不満というよりも、格上の話を蹴るなんて恐れ多いことよくやったな?という気分。


「でも、リハ聞いてる感じ、前よりずっとよくなったよね。

今フリーなら、サポートお願いしても受けてくれる感じ?」

「ハイ、それはもちろん!……でもベースの空きなんか無くないですか?」

「ときどきもっちー(ベース)がメジャーの現場に呼ばれて、空くことあるんだよ。

もしそういう機会できたら呼ぶから、今度はよろしく」

「光栄です!よろしくお願いします」


まじか。

嬉しい。

プロに呼ばれてる人の代役ができるなんて。

すぐにすぐ機会が来るわけじゃないし、それかリップサービス的なのかもしれないけど、覚えてくれてて一応認めてくれてるってことで十分嬉しい。


てか、まじで、カケル……

なんなの?おれにそんなに目立ってほしくなかったん?

何考えてたかよくわかんないや……もういいけど。



相手のバンドはさすがの実力者、当然上手いしかっこよかった。

ステージの振る舞い方っていうのがこちらよりプロっぽいんだよな。

格上のステージの動き方をよく見ておく。



「ゲンゴさんはやっぱすげー。ずっと前から知られてたんじゃん」

「覚えられててびっくりした」

「話蹴るなんて、元相方さんイケてないっすね〜絶対嫉妬でしょ」


ユージュくん、遠慮がない。間違ってないけど。


「サポートの話、たまに来てたけど、行くなって言われてた」

「まじで?超足引っ張ってません?ゲンゴさんのが演奏もうまかったし。スピネルの動画上がってたのいくつか見たんすよ」

「え?それ公式じゃないな〜公式のSNS全部閉じてるはず。まあ、再生回数回るもんじゃないしいいけど」

「俺が何回も見て回しちゃった」

「あはは」


前のバンドの話が出るのは、別におかしくない。

ただ、相方と付き合ってたことでどうしてもそのときの記憶が一緒に出てくる。

そういえば、まだ別れて一年も経ってないのか。


(なんか、苦々しい感じの思い出になっちゃったな)


当時のおれが気づいてなかったことが、いろいろと見えてきて。

その度に、今のおれは大事にしてもらってるのが、よく分かる。


(だから、清和くんにはちゃんとごはんとかしたいのに)


清和くんは、何よりおれをミュージシャンとして大事にしてくれてて。

今日みたいに、家事の手を抜けと何度も言われてきたんだけど。



そうじゃないんだよ。

清和くんのこと、大事にさせてほしい。

ミュージシャンとしてだけじゃなくて、生活を共にする相手として。

明日の朝は、ごはん作ろう。


撤収が終わって、みんなに挨拶して、おれは一番にライブハウスを後にした。



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