13.重甲シフォン
おれは一大決心をした。
今日こそ、買うんだ。おれの相棒をッ……!
「おい、ギガ数ケチんなや。動画とかも作るの想定したらメモリ16ギガにしとけって。だからこっち」
……とうとうパソコンを買うことにした。十数万の出費で貯金がぐっと減るが、清和くんの強いおすすめで購入に踏み切った。
できるだけ安いのに目をつけてたら、あっさり清和くんにちょっとお高い方(なんか容量が多いらしい??)に誘導されてしまった。
ネット購入のため到着は後日。
デカい買い物にちょっと手が震えてる。
「これも経費計上するやつな。
パソコン来たら帳簿教えてやるから。こまめにやっとかないと、確定申告のとき死ぬぞ」
なんか凄まれました。
清和くんってガチの経理マンにもなるから不思議。てかそっちが本業だった。
「このパソコン、DTMソフトもデフォルトで入ってるから、ちょっとしたビートが欲しいときとか自分で簡単に作れるぞ。やり出したら難しくないから」
ベース機材はいじれるけど、パソコンとかあんま強くないおれ。
でも清和くんのDTMを駆使する姿にはちょっと憧れてた。
デモ音源も作れるって言われたら、いつかはやってみたいと思う。
♪
週一でスタジオ練と配信と動画撮影して、
バイトに行って、
家事をして、
ときどき頼まれるサポートの仕事に取り掛かる最近。
そのサポートの仕事も、まだまだおれを“プロとして雇う”感覚じゃなく、
“メンバーとしていけそうか試したい”バンドの方がほとんどで。
加入希望じゃなくて、フリーランスとして演奏を提供してる、って分かってくれる人はほとんどいない。
“フリーランスを雇う”レベルの人たちにはまだ呼ばれていないということで、
ベーシストとしての知名度も腕もまだまだ足りないという厳しさを思い知らされてる。
条件やギャラを提示したら、え、金取るの?ってなってお断りした話も少なくない。
清和くんに話したら、
「その辺のレベルはほぼ趣味でやってるから、おまえが引き受ける仕事じゃない。もっとプロ意識持ってやってるとこに声かけられるようにならないと」
はっきり言われて、自分は間違ってなかったんだと安心した。
――そんな中、今日の音合わせは、ちゃんとギャラを出してくれる数少ないバンドのリハである。
ベースは今固定メンバーがいないそうだ。
SNSを見た感じ、勢いがあってボーカルとリードギターが優秀。
彼らがこのバンドを引っ張ってる感じ。
「どうも、ベースのゲンゴです、よろしくお願いしまーす」
「リードギターのユージュです、今回はよろしくお願いします!」
スタジオのドアを開けると、リードギターのユージュくん(友樹/ともきをユージュって読んでるんだって)が来ていた。
学生かなと思えるような、ちょっと垢抜けてない感。マッシュの黒髪に、切れ長の目――妙に目力を感じる。
なんか、若いなー。
挨拶も、肌も、髪も、態度も。
「ユージュくんって何歳すか?」
「19です!あ、今年ハタチなんすけど」
「わかっ……」
清和くんとおれくらいの年の差か。
清和くんからは、おれもこんな感じに見えるのかな。
「学生さん?」
「いや、音楽でやってくんで。バイトはやってますけど」
つよ……!
え、もう覚悟決まってる子!?
おれなんかまだフリーターとか名乗っちゃいそうになるのに。
「ゲンゴさん、SNS拝見してます。今日楽しみにしてたんすよ〜」
「まじで、ありがと。おれも演奏見たよ」
「ほんとに5弦なんすね。5弦使う人と一緒にするの初めてです」
ユージュくんの楽器は、かの有名なイバニーズ。
いい意味で曲者な予感。
おもしろそうなので、他のメンバーが来る前に、抜け駆けしてちょっと合わせてみた。
これはっ……
おもろい。いいわこれ。
「ゲンゴさんのベース、めっちゃやりやすい」
「まじで?よかった」
「ベース固定せず頼みながらやってるんすけど、ゲンゴさんが一番いい」
「うわーそりゃ光栄だわ」
「5弦ってかっこいいすよね。俺も7弦ギターにしちゃおっかな、なんて」
「お、低音いっちゃう?」
「や、このバンドだとちょっとカラー違うから、すぐには……
でも憧れてるんすよ、7弦と重低音」
「えー、じゃあおれたち同士かも?」
思いがけず低音仲間ができそうで、早速意気投合した。
そうしているとドラム、そしてボーカル、ギターがもう一人とメンバーが揃い、改めて挨拶をしてリハーサルが始まった。
みんな同学年で若かった。
♪
うん。
なるほど。
こういう感じね。
いいバンドだ。
それなりに。
メンバーのビジュアルはかなり良くて、勢いがあるというのは分かった。
本番では立場的にもビジュ的にも一番後ろで演奏しよ。
ただ。
ただ。
なんかちょっと……
ユージュくんとボーカルくん、他のメンバーの力量に、やや落差が。
他のメンバーは、おれの学生時代を思い出す感じのちょっと荒削りな印象。
ユージュくんとボーカルくんは、なんていうか音楽的に一段階上にいるんだよな……
リズム隊として合わせたいドラム、リズムギターが若干不安定。
ドラムくん、ベースを聞いてほしいぞ……
ドラムって実はリズムを引っ張っていくんじゃちょっと違うんだよ。回りの音もきいてほしいなこれ。(ちなみに清和くんの受け売り。でも今体感してる)
合ってるのが、おれとユージュくんのところ、っていうちょっと妙な浮き感。
あとでユージュくんに聞いてみよう。
おれは今月のライブで弾くという役目だけやってればいいので、余計なことは言いませんが。
ユージュくんはちょっとやりにくいんじゃないかなって感じがする。
ギャラを出しますと言ってくれたのも、彼なのだ。
彼だけは、音楽をプロとしてやる意味をもう分かってるというのが理解できた。
音楽でやっていくと覚悟した人は、やっぱり最初から違うものなんだな。
「アキュー、ここドラムがちょっともたってて〜」
「まじ?ごめん」
「次のパラララの後は、だっぱーんってキメだから、みんな二拍目から入って。ゲンゴさんがスライド入れてくれたのがめっちゃ分かりやすくてよかったから、ソレでおねしゃーす」
ユージュくん指揮力抜群。
これはスゴイ子だ。
なぜか兄のような目で見てしまうおれ。
「アキューはさ、ゲンゴさんの音聴くようにしたらいいよ。ゲンゴさん超安定してるから。ドラムは前に出るんじゃないんだよ。ドラムの上に、俺らがいる感じ」
あっ指摘してくれた。
いや、ぶっちゃけ。
カケルより断然うまいんよ、この子。
全体の音も聞けてて、直すところも分かってるし。
こういう子が伸びていくんだろうなーってもう見えてきたもん。
「ありがとございましたー」
「ゲンゴさん、なんか安心できるっす」
「こちらこそ、ありがとー」
リハが終わる頃には、みんな馴染んでくれた。
一人だけ年上感がちょっとまだ変な感じだけど、当日までにはいい感じに仕上がりそう。
彼らは本番まで毎週リハーサルをするそうだけど、おれは清和くんのアドバイスに従って、リハを2回までにした。
一つのバンドに関わる時間が長くなるほど、時間単価は低くなる。
でも今日の感じなら、リハ2回でも大丈夫そう。
「ゲンゴさん、今日のリハ風景、アップしてもいいですか?」
「いいよー。おれもシェアするね」
おれあんまフォロワーおらんけど。
彼らのバンド、「重甲シフォン」のフォロワーは結構な数いてコメントも多かった。ユージュくんの人気はボーカルくんと並んで高い。
正直なところ、実力にはちょっと波があるけど、アマチュアとしては十二分、勢いとかかっこよさでカバーできてる。
ユージュくん以外のメンバーがプロ志向なのかどうかで、このバンドの方向性は決まる感じかな。
♪
「今日のリハ、リードギターがめっちゃ逸材だったんよ。
イバニーズ使いの子で」
「へー。それ観に行こうかな」
「まじ」
「たしかに、この動画とかギターソロしっかりしてるし周りが置いてかれてる」
「そう、そんな感じ」
帰ってから、清和くんに感動を伝えまくった。
清和くんも、ユージュくんに興味がある感じ。
「将来的に7弦ギターやりたいって」
「変態の匂いがするな」
「清和くん、変態好きだね?」
「は?変態はな称号なんだよ」
そんなことを喋っていると。
『ゲンゴさん、お疲れさまです!
リハとは別なんですけど、もしよかったら、飯行きませんか?
低音について語り合いたいんですけど、オフの日でもし大丈夫だったら!』
ユージュくんからメッセきた。
清和くんの目の前で開いて読む。
「ほー。デートのお誘い」
「絶対ちゃうて。
……普通に同業者として知り合いたいんだけど、行っちゃだめ?」
おれは清和くんに何も隠すつもりはない。
メッセだって全然見せれるし。
「心配だったら位置情報共有していいから!」
「いいって、別に疑ってねーよ。
普通に行ってきな。面白そうじゃん」
「ありがと!
ね、この子に言うわけじゃないんだけど、おれたちのことってどこまで人に言っていい?」
「あー……
俺は会社に絡まなきゃ言ってもいいかな。音楽仲間なんかはある程度知ってるし」
「そか。まあ、積極的に言うわけじゃないけど。
そういう話の流れになることってあるじゃん」
バンド友達周りには言ってある(カケルとのカップルとしてあの界隈で知れ渡ってた)から、いずれ耳にするかもしれないし。
言うなら早めに、がおれの方針。
「でも、おまえ、かわいいからなぁ」
清和くん、顎クイしてきた。めっちゃ様になってる……
「若いコが優しいおにーさんにメロメロになっちまうかもなぁ」
「ないって〜……それにおれは清和くんにメロメロなの」
「……おまえ……破壊力あるわー」
清和くん、ちょっと照れて目を逸らす。
あー、ときめく。
このデレが最高。
清和くんに抱きついて、首元にすりすりして、清和くんを堪能する。
顔を上げたら、目の前に清和くんの顔。
そのまま、キスが始まって。
「ん」
「んぅ……」
キスの音がエロくて、あっという間にその気になってしまう。
唇が何度も触れ合って、重なり合って、舌が絡み合っていく。
「清和くん、抱いて……」
「ん」
寝室に行くだけなのに、その間にもキスを繰り返す。
半分もつれ合うようにしてベッドに倒れ込んで。
「準備は?」
「もうしてる」
「用意いいな」
「そりゃそうでしょ。先、乗るね」
・
・
深くつながって、全身に喜びを走らせて。
「おまえの腰、エロいなぁ」
腰を掴まれて、何度も愛される。
そんなこと、初めて言われた。
「ゲイ受けじゃないからって、その気のあるオッサンとかには気をつけろよ」
男にモテたことはなくて、気にしたこともなかったんだけど。
「おまえ、思ってる以上に色気あるって話」
色気?おれって別に、そんな風に見られたことなんて……
意外に思いながら、清和くんの熱に浮かされて、思考は溶けていく。
※「重甲シフォン」由来について
ユージュ:こいつ(ドラム)がシフォン超好きで高校のとき毎日食ってた。あとこいつ(リズムギター)はミリオタ。深夜のノリと勢いでつけました
源吾:(そこから取るんや……)




