12.大事な相手だぞ
「というわけで、彼氏ができましたっ」
「あぁ〜それで浮かれてんのな」
「えっそんな顔出てる?」
「超出てる。でもま、おめでと」
ヘルプに入るバンドのリハーサルがあった日、たまたま東秀と近くで予定が合い、久々にメシ行こ、となった。
見ず知らずのリーマン作曲家に拾われた話をしたら心配してくれたこの友人に、その後の経過報告をしたところ。
「ゲンゴ、おまえほんと今すごくなったよな。あれからもう半年近く?
おまえの評判、最近よく聞くよ」
「え、まじで」
「ほんとに。どのバンドでも、合わせやすいって好評らしいぜ」
「へ〜そりゃありがたいことで」
「まだ新しいバンド加入決めてないの?」
「うーん……もうしばらくヘルプでいいかな……」
「それだと、安定しなくね?バンドに入ってちゃんと稼げるようにするのが本命じゃん。
別にスピネルにこだわるわけじゃねえんだろ?」
「それはないよ。
ただな……うん……いろいろ考えるとこがあって」
バンドマンの本命といえば、やっぱりバンドを組んでライブをして、CDを作って、それで成功すること。
おれは今どのバンドにも所属しない野良ベーシストなので、インディーズ界隈ではちょっと浮いた存在だ。
加入したいバンドを見つけられていない理由。
それどころか、積極的に探そうともしていないのは。
(やっぱり……清和くんと、正式に一緒にやりたいんだよな)
清和くんとはジャンルが違うのも、理解してる。
それに清和くんは清和くんで、やりたい自分の音楽があって。
自分で稼ぐ仕組みを確立していて、バンド活動は基本求めていないのも聞いてる。
金にならない行動は極力避ける清和くん。
おれとの結成を引き受けてくれるとしたら。
どちらか(多分おれの方)がSNSとかで知名度上げて、ライブの宣伝をすれば十分な客数が入る状態になること。
どちらかが曲をY◯uTubeとかにアップしたら、再生回数回って一定以上の収益が発生すること。(これは清和くんも有り得そう)
この辺の条件をクリアできないと、趣味でバンドやる時間なんてないって考えるだろうから、あの人は。
SNSで配信したらわずかばかりの投げ銭をもらえるようになってきたのは進歩してると思うけど、清和くんをスカウトできる財力ではまだまだない。
ていうかその前に居候を抜け出さないと。
(サブでバンドやるのだってなくはないか……)
生計を立てるための活動と、清和くんとやるサブのバンド、それなら……
でも、やっぱりプロともできるレベルの清和くんとサブでやるのは、もったいないというか。
清和くんにももっと出てもらいたい、と思ってしまう。
清和くんだって、もし収入を何も考えなくていいなら、音楽だけやってただろう。
「ゲンゴ、前より明るいよな、カケルと居たときより」
「え、そう?」
「なんか、おまえってずっとカケルに主導権渡して後ろに引いてる感じだったからさ。
別に不幸そうとかじゃなくてそういう印象だったって話。
でも今って、なんつーか……守られてます感?」
「はーっ?んだよソレ〜」
「彼氏のタイプが違うとこうも変わるか……まあなんとなく分かるわ、投稿見たけど、彼氏さんのピアノ、レベチで上手いもんな。こう、大人の余裕で受け止めてくれる感じ」
「あ、合ってる……その通りです……」
「スパダリじゃん」
「いや、身の回りのことおれやってるし。ほっといたらDTM要塞から出てこない人でさ」
「うーわ、惚気〜」
ああもう、なんだこの清和くんを自慢したくなってしまう心持ちは……
いつまでも惚気てしまいそうなので、東秀に切り返してみた。
「おまえは彼女とどうなんだよ」
「んー、そろそろ身を固めようかなって……」
「まじ!」
「向こうのが年上だし、そろそろ気にしてんよね、妊娠とか年齢関係するじゃん」
「うっわ……ちゃんと考えてんだ……向こうさんはバンドマンで大丈夫なん?結婚したらダメな3Bのバンドマン」
「いやそれな。ぶっちゃけ俺のが甲斐ナシ……
安定した男見つけたらって前言っちゃったことあるんだよ。そしたら音楽でやり抜く覚悟ないんかってどつかれてさ、こりゃ敵わねーと思って」
「めっちゃ男前やん、彼女さん」
「向こうもフリーランスで自分の道行ってる人だからさ。その辺自由さも大変さも分かるところあるし。俺のが向こうに甘えてたなぁって」
「いい話やなぁ……結婚式は呼んでな」
「おう、おまえもな」
「いや、式とか……でも今はなくもないのか……でもあの人しなさそうだな……」
また惚気モードに入ってしまい、東秀には盛大に笑われた。
♪
やばいやばい。
帰りが遅くなってしまった。
早く晩ごはんの準備しないと、清和くんが帰ってくる。
すぐできる料理はっ――
「おかえり!」
「……?
ただいま」
「ごめん、ごはん炊けるのあと5分……
先におかずだけ持ってくから」
「おお。別に急いでねーよ」
今日は手抜きで野菜炒めになってしまった……
皿に盛って、テーブルに持っていく。
「なに、今日は忙しかった?」
「いや、ちょっとバンドの友達と会ってて、帰り遅くなっちゃって……ほんとごめん」
清和くんの脱いだジャケットやネクタイを回収して、いつものようにクローゼットへ。
そうしているとやっとご飯が炊きあがって、よそってまたテーブルに持っていく。
「源吾」
「っ……」
「落ち着きな。バタバタすることじゃねえだろうよ、ご飯が遅れたくらいで」
せわしなく動いていたところを、後ろから抱きしめられた。
突然密着されると、まだ全然ドキドキする。
同時に、責められなくてホッとしてもいる。
「だって、清和くん、仕事から帰ってきたのに待たせるなんて……」
「おまえなー。
帰りが遅くなるなら、弁当なり惣菜にすりゃいーじゃん。
毎日全部手作りでなんて気ぃ張るなよ。
俺はおまえが楽に生活してくれた方がいーの。な?」
背後から、頬の横にちゅっとキスされて。
うれしい。
こうして甘やかしてくれるのが。
でも、だから甘えちゃいけないと思ってる。
ありがとう、清和くん。
「や、おれがつい引き伸ばしちゃったから……ちゃんと時間見て帰る」
「話が盛り上がることだってあるだろ。
家事を最重要視すんなって」
「うん、でも、おれがちゃんとしたいから」
付き合ってるけど、まだ居候だし。
「食べよ、仕事お疲れさま」
「おまえもな」
清和くんがキスをしてくれて、テーブルの回りに座り、二人でごはんにする。
「手抜きでごめん……」
「だから手抜きで上等だって。うまいし」
「手抜きでまずかったら最悪じゃん」
「んなまずくならねーだろ、おまえなら」
清和くんの優しさが染みる。
なんか、付き合ってからめちゃくちゃ甘々になった気がする。
それに甘えて重くならないようにしないと。
失敗は繰り返したくない。
「バンドの友達って、誰?」
「ときどきヘルプ行ってるとこのドラマーだよ。会うことあったら紹介するわ」
東秀のことは、清和くんはどう評価するだろう。
最近生活のことも考えてドラム講師も始めたと言っていた。
Y◯uTubeもそれなりに回ってる、イケてるドラマーだと思ってる。
(ちなドラム演奏のライブ配信をおすすめしてみた)
仮におれと清和くんでステージ立てるなら、清和くんの作ったドラム音源でもいいけど、生ドラムなら東秀に頼むのもいいんじゃないかな、とか思ったり。
(やっぱ、清和くんとステージやってみたいよな……)
言い出す勇気は、まだ持てない。
♪
付き合って三ヶ月前後、一番盛り上がってる時期って自覚はある。
清和くんの作曲の進捗にもよるけど、週に2、3回はセックスしてる。
付き合う前にそういう雰囲気がまったく感じられなかったのが嘘みたいに、清和くんはしっかりおれを抱いてくれる。
毎回、腰が砕けそうなくらい、甘く溶かされて。
嬉しい。
こんなに愛されて。
(すき)
このまま、ずっとつながっていられたらいいのに。
「マイナーペンタトニック縛りの曲作ろーかな」
賢者タイムになると、どっちかが小難しい音楽用語を口にするのが習慣化してしまった。
しかも互いに共感できるのが笑える。
少し休んで、一緒にシャワーを浴びて、ときには清和くんがまた作曲作業に突入したりするけど、今晩はこのまま一緒にベッドに戻ってくれる。
「清和くん」
「ん」
「くっついていい」
「おいで。おまえ甘えただよなー」
「だって。嬉しんだもん」
清和くんの髪から、最近おれが変えたシャンプーの香りがふわっと流れてくる。
おれも、同じ香り。
幸せを噛み締めて、清和くんの首元に顔を寄せる。
「ケツ痛くねえか」
「ん?大丈夫」
「そ。昨日もヤッたから、大丈夫ならいいや」
「心配してくれんだ……」
「するだろ、大事な相手だぞ」
首から上が、ぶわっと熱くなる。
大事にしてくれるのが、ダイレクトに伝わってきて。
「……ね、清和くん」
「なに」
「おれが言うまで、ゲイって言わなかったの、なんで」
東秀と話してるときに、ふと思い出したのだ。
清和くんのこと、ずっとノンケだと思っていたこと。
ワンチャンありと思ってたなら、ゲイだと最初から明かさなかったのはなんでだろう、という疑問。
「おまえが体で払うなんて言ってたからさ。
ゲイ相手って分かったら、おまえ多分、自分を差し出そうとしたろ。
かといってそれを断ったら断ったで凹みそうだったし」
「う……おれ、やりそ……」
「こっちを向いてくれるなら、でよかったんだよ。
おまえにその気がないままなら、ゲイとは言わずに今まで通りでいけたし」
「それ……ムラムラしたりせんの?」
「長年そんなこと考えてる間もなく作業してたから、特に」
「えー……なのに今はめっちゃエロいやん」
「一旦自分に許可したら、遠慮しねぇかな」
遠慮が外れた清和くんは、溺愛ルートだった。
「……おれのために、ゲイって言わないでくれたん」
「まあ、そんな感じ」
あっさり答えるけどさ。
どれだけ丁寧に、おれのこと、扱ってくれてたんだろう。
(愛、されてる)
体中に、それを感じて。
「でもな、それ無駄だったと思うんよ」
「なんで?」
「清和くんのピアノも曲も、フェロモンダダ漏れやもん。
音楽人が惚れないわけないやん」
「実力でオトすのは、ありだろ?」
「もちろん、アリ」
ちょっと茶化さないと、愛が大きすぎて、泣きそうだったんだ。
おまけ:東秀との会話の一幕
東秀:最近は“結婚してはいけない4B”ってのもあるらしいぜ
→ 美容師・バーテンダー・バンドマン・ベーシスト
源吾:ベーシストはバンドマンに入るやろ。なんでベーシストだけ名指しやねん!
東秀:なになに(検索中)……“変態だから”?
源吾:え?むしろ彼氏が変態推奨してくれたんやけど♡
東秀:……(彼氏さん、音楽的変態だな多分)




