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ハイテンション・ノート 〜詰みベーシスト、音楽ガチ勢リーマンに拾われる。〜  作者: 橘 いゆ璃


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12/12

 Interlude by Seiwa

間奏:清和くんsideです

「もうすぐ着くぞ」

「ごめ……寝ちゃってた」

「寝顔よかったわ」


源吾の頬が朱に染まって、かわいい。


「清和くんの運転、心地良いんよな」

「久々だけどなー。そりゃよかった」


夏真っ只中、レンタカーで、関東近郊の田舎町――俺の実家に源吾を連れてきている。


藤崎家の、盆と正月には墓参りという習慣で、日帰りで実家に顔だけ出しているのだが。

源吾に盆はどうするのかと聞くと、ずっとバイトを入れる予定だったという。


『親と疎遠にしちゃってるから、上京以降会ってない』


とのことで、毎年盆休みの時期はバイト漬けだったそうだ。


『日帰りで墓参り行くんだけどさ。実家に顔出せとは言わないけど、行こうとしてる日がちょうど花火大会被ってんだよ。

一緒に行かね?』

『花火大会……デート……?』


そういうわけで、今年は源吾を連れての帰省。



付き合い始めてひと月過ぎた。


順調だが、それはまだ源吾の遠慮が取れていないからだと思う。

俺にすごく気を遣っているのが、よく分かる。


こいつの中では、まだ“拾ってもらった”“居候させてもらっている”意識が強いんだろう。

そこまで自分を抑えているつもりはないとは言っていたが、こいつの場合、人に合わせていくのが癖になっていて気を遣っているのに気づいていない部分が多そうだ。


人に合わせるのが自然にできるから、サポート仕事でも評判なんだろうが、

パートナーの前では多少わがままになったっていい。


もっとこいつの自我の部分を、見てみたいのだ。



「清和くんの実家、でかっ……」


昭和の一軒家を、源吾はびっくりして見つめている。

敷地内に車を停めて、源吾は車内で待機、俺は一瞬だけ顔を出すことに。

兄の車が置いてあるから、兄一家は盆の間滞在しているのだろう。


仏壇で線香だけあげて、話の長い母と祖母をかわし、滞在中の甥と姪に挨拶し、生真面目な父と兄に適当に返答して手短に切り上げる。


毎年のこと。

深く話さないし、実家の様子を軽く見て帰るだけ。


でも、今年は。


「わー、素麺一箱」

「お中元が食い切れないんだって。

いつもは断るけど、おまえが作ってくれると思って」

「ありがたやー。いいやつじゃん。淡路島の」

「知ってんの」

「昔よく見かけた。おれ高校まで中四国を転々としてたから」


明日は素麺にしようと喜ぶ源吾の、初めて聞く話。


「中四国か。関西弁かと思ってたけど」

「四国はちょっと関西弁に近いかな。

方言が混じっとんよ」

「ハイブリッドだな」

「ただのごちゃ混ぜやって。

実家って言えるとこも、ないんよな。

転勤族だったし、親は離婚して、どっちも再婚して、どっちも新しい家庭があってさ。

居づらいじゃん?

墓だってどこ辿ればいいんだよって感じでさ、てか場所も知らんのよな」


窓の外に目を向けながら、淡々と話す源吾。


だとしたら、元カレに追い出されたとき、どれほど所在ない心地だっただろう。


「じゃ、代わりにウチの墓参っていきな。

うち親戚多いし、血縁かどうかも怪しい人が何人か混じってるよ」

「あはっ、そんなことある?」


ようやく笑った源吾の頭を、くしゃっと撫でた。



墓参りに寄って、手短に済ます。

後ろで源吾も手を合わせてくれていた。


花火大会の屋台が開き出すまでもうしばらく、ファミレスに立ち寄って涼み、日が暮れる頃に早めに駐車場を押さえて会場近くへ。


「こういう雰囲気、めっちゃなつかしー。小学校以来とかじゃね」

「俺も、言われてみれば」

「清和くんこういうとこ来なさそう」

「合ってる」


音楽以外のことで誰かと連れ立って行動することなんて、もう相当なかった気がする。

ただひたすら、作業して作品と収入を積み上げていた。

そこに不満はないどころか、それこそが生きている意味でもあった。

無駄なものは削り取って、時間も集中力も体力もすべて音楽に割く、それでよかった。


「もう人結構多いな」

「浴衣の人もいるね。清和くん似合いそう」

「めんどくせぇ」

「えー、浴衣デートよくない?」


柔らかく笑う源吾との会話は、心地よくて。

居候の当初こそ音色が違うような感覚はあったが、だんだん調和してくるようになった。


『あんた、なんか顔色いいわね』


顔を合わせたとたん、母に言われたこと。

きっとこいつの作ったちゃんとした飯を食ってるからだ。


自分をこんなに変えるほどに、こいつは俺の生活に存在していて。

養ってやってるし、居候させてやってるけど、俺だって受け取ってる。


「源吾、手」

「……?」

「はぐれんなよ」


源吾の手を握ると、驚いた顔がみるみる嬉しそうに変わった。


弦を押さえて厚くなった指先が、俺の手に絡んでぎゅっと締まる。


「こういうの、都会じゃないけど大丈夫かな?知り合いとかいない?」

「こんなに人多くて、誰も気にしねーよ。

こっちに住んでるわけでもねえんだし」

「ん。うれし」

「あちーからかき氷食いてー」

「こういうとこでしか案外食べないよね……あ、あそこ、氷」


「タッチ決済無理よな……」

「現金、おれあるから!

じゃあ今日は奢らして。こないだ配信で初収入獲得したから!」

「まじで。おめでと、すげーじゃん」


源吾も確実に成長してる。

次ここに来るときには、どんなベーシストになってるだろう、そう思いを馳せる。



「……駐車場に戻るのかと思ったら、こんな穴場かあ。さすが地元民」

「いいだろ、人混みも回避できて、帰りやすい。

何も近くで見るのが全てじゃねーんよ」

「清和くん、そういうのほんと上手いよね……」


よく見える場所からは離れるが、駐車場には近い河川敷。

買ったものを食べながら、花火の開始を待つ。


「焼き鳥いる?」

「いや、おまえが食いな」

「ちょっと食べなよ」

「手が塞がってんよ」


源吾に焼き鳥の串を差し出してもらって食いついて。

お返しにかき氷を食わせてやり。


源吾の表情も動きも、いちいちかわいい。


よく笑ってるが、もっと心から笑ってほしい。


もっと安心して、俺のところにいてほしい。


時間はかかることだろう。

ゆっくり安心していってくれたら、それでいい。


「あ。上がった。

すげー久しぶりに見た〜」

「俺も」


花火が上がり始め、夏らしい音が夜空に響き、光が散る。


こういうところでもメロディを考えてしまうのが、俺のクセ。

花火の音の合間に、思いついたメロディをすぐさまスマホに鼻歌で録音しておく。


「もう思いついたの?どんな曲?」

「帰ってラフイメージ組んでみる」


もはや職業病にも近い行動に興味を持ってくれて、話を合わせて笑ってくれる源吾は、健気で本当にかわいい。

本人は重いと言っていたが、たしかに同年代には扱えない複雑さはあるのかもしれない。


でも、俺にはその重さは感じない。

源吾が頑張ったスピネルの解散を喜ぶ意味ではないが、元相方がこいつを捨ててくれてよかった。


大事にされろ、源吾。


花火を見つめるその顔に手を触れて、引き寄せる。


「…………」

「……ふ……」


一度離れて見た顔は、緩んでかわいい。


もう一度。

我慢できなくて、舌も差し入れる。


「……清和く……んっ……」

「…………」

「エロすぎ……無理……」

「かわい」


すっかりふにゃんとなった源吾を、肩に寄りかからせて。

もう一度指を絡ませて、夜空の大輪を二人で眺める。



「免許取ろうかな……」

「おまえ、免許ないの」

「原チャだけ。東京にいたらいらないやん、それにお金厳しかったから」

「まあな。なんで?」

「……交代で運転したいやん。清和くんばっかり疲れるし」

「大丈夫よ。余裕できてからにしな、金もだけど時間も」


帰り着いたのは日付が変わる頃。

帰省ラッシュの手前で助かった。


源吾が風呂に行っている間に、鼻歌メモを聴き直す。

鍵盤で弾いてみてコードをつけ、メモ程度に録音しておいた。


今日はこのくらいでいいや、と思うようになったのは、いつ頃からだったか。

ちょっと前まではまだ、一つでも早く曲を仕上げてストックを増やそうと意気込んでいたはずだ。

少しでも多く音楽で稼ぎたくて。

収入が増えて安定したら、いつか専業になりたくて、その境地に一年でも、半年でも早く近づきたくて、必死で積み上げて。


なのに、何で出費が増えるはずの、源吾を養うことにしたのだったか。


(あいつがミュージシャンとして成功するのを、見たいと思った)


就職を選んだとき、音楽にコミットしきれなかった。


会社に労力を割かなければいけない自分が悔しくて、必死で音楽での収益化を試行錯誤した。


だから今は、あいつにミュージシャンとして稼ぐ方法を伝えてやれる。


あいつは、あのとき選択しなかった道を行った、もう一人の俺を見ているようで。


あいつが成功するときには、俺もあいつと一緒に夢を叶えられる――そんな気がした。



「今日思いついた曲、どうだった?」

「クソださかった」

「嘘やん」

「最高の曲ができたと思ったら、翌日聴いたらクソみたいだったとか、あるあるだぜ」

「まじでー」


ベッドで抱き合って、他愛もない言葉を交わす。

明日はまだ休み。

寝る時間を気にしなくていい夜は、一番好きな時間だ。


「諦めて明日直すわ。それよりおまえと過ごそーかなって、せっかく休みだし」

「んふふ。うれしすぎ」


そうやって、大事にされてればいい。

はにかむ源吾がかわいくて、顔に何度もキスを落とす。


繰り返していると、不意に源吾が体を起こした。

俺の肩をベッドに沈めて、上にまたがる。


「清和くん、今日は疲れたでしょ。……おれが乗ったげる」

「ん。任せる」


晒す裸体は、最高の眺め。

ほっそりとした腰回りを、実は気にしているらしいが。


「おまえ……腹筋エロいな」

「腹筋、ないし……」

「すげーそそる」


手を触れて、抱きしめて、口付けを繰り返す――細い腰に、たくましい前腕に、固い指先に、もちろん唇にも。


「清和く……すき……」

「……っ……俺も……」


満足させてやる。

おまえは、幸せに、包まれてろ。



次話構想中のため、更新は少し先になります。

しばらくお待ちくださいませ!

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