11.ふつつかものですが、
やらかした……
完ッ全にやらかした。
(うわあぁぁぁぁ)
覚えてはいる。
てか、バッチリ記憶はある。
「嘘だ……こんな……」
絶望だ。
おれは何をやってんだぁぁぁ。
昨日、ほろ酔いでなんかいろいろメンヘラちっくになって、清和くんに甘えてしまいました。
なんか一緒にいてくれて、流れでキスしてしまい、最後まではいってないけど接触したっていうか……
スマホのアラームが鳴ってなかったのか、ガッツリ寝坊して、清和くんの朝ごはんもできなかった……てか起こしてくれてよかったのに。
爆睡してしまった。
めっちゃ寝心地よかった。
いや待て。
清和くん、怒ってないかな……
なんか甘えさせてくれたけど。
え、キスしてくれたよな?おれから迫ったつもりはないんだけど。
最後も清和くんが上だったし、合意ではあったはず。
恐る恐るスマホを確認したが、何もメッセージは入っていなかった。
安心したような、
でも清和くんがどんな反応してるのか知りたいような。
(いやでも、気まず……)
今日は午後からバイトだから、顔を合わせるのはおれが帰宅したとき。
まともに顔見れるかな。
(ていうか、清和くんはどういう認識なんだろ)
おれのこと……
す、き……?
いやそんな感じはあんまり……どうだろう?
でもセフレでとか言われたら悲しい。
そもそも事故みたいなのかもしれない。それでも悲しい。
おれワンナイトとかやりたいタイプじゃないんだ……
(あー。なんでこうなっちゃった……いや清和くんは悪くない……おれが変な甘え方しちゃったから……)
お詫び?したらいいのか分かんないけど、ちゃんとした晩ご飯を作っておこう。
本当に、酔うっていうほど酔ってないつもりだった。
体は元気で、酒は残ってない。
なのになんでかなぁ〜〜……
(キス、めっちゃエロかった……
カケルより断然上手いんだけど。
って、うわぁぁ)
昨夜の熱と、ついでに元カレを比較で思い出してしまって、誰もいないのに顔を覆ってキッチンで悶える。
(あれ絶対セックス上手い!……いや上手くなくてもおれはいいんだけど!
なんかリードが慣れた感あって、大人の余裕……
もしかして百戦錬磨?
普段はそんなことしてる様子全然ないのに)
でも中身チャラ男だったりしたらちょっと……どうしよう。
いくら好きでも、遊び人は傷つくだけだ。
今までそういう側面を一度も見なかったから、勝手にあまり縁ないことかと思ってしまっていたけど。
つーか音楽もエロくてキスもエロいとか、スペック高すぎん?
家事なら勝てるけどさ。
清和くんのかっこよさって、オスらしい色気ってやつだと思う。
逆になんでパートナーがいなかったんだろう。
……あ、これだけ音楽集中してたらパートナーの面倒なんか見きれないか。
一人で答えにたどり着けた気がする。
おれも、邪魔しないようにしないと……彼氏にしてもらえるならの話だけど。
家事をしてると、こういう考え事がとりとめもなく頭の中に浮かんでは消えていく。
洗濯に掃除、冷蔵庫にあるもので今から晩ごはんの準備。
バイトの日は清和くんが先に食べるから、レンチンできる火の通ったメニュー。
今日は三色丼と、酢の物一品。
いっつも「何でもいい」って言うし、作りがいがないほど料理の感想とか言ってくれないけど、
なんとなく、和食の方が好きなんじゃないかなと思ってる。
炊飯器もセットして、三色丼にして食べてなとだけメッセしておいて、バイトに出かけた。
♪
仕事をしていると、そっちに没頭できるので助かる。
昨日のアレは外で思い出していい内容ではない……
夕方から夜のピークを超えて、やっと一日が終わり、着替えてスマホを何気なくつけた。
そこに入っていた、清和くんからのメッセ。
[めっちゃうま]
びっくりして画面を開くと、ちゃんと三色丼に盛り付けた写真が一緒に送られてきていた。
(ふわぁぁぁぁ)
胸がぎゅっと締め付けられて、思わずロッカーの前に座り込んでしまった。
何この甘酸っぱさ。
うれしい。
清和くんからこんなメッセきたの初めてなんだけど。
てことは、昨日のアレは、前向きに捉えていいやつか。
急いで帰らなきゃ。
早く会いたい。
家から遠いのがもどかしい。
一本前の電車に乗るべく、夜の街を駆け出した。
帰ったら、いつもの光景。
清和くんは要塞にこもり、食器がシンクに置いてある。
集中しているところに声はかけづらい。
(あっつー)
駅からほぼ走って帰ってしまった。
とりあえず水……
早く清和くんに会いたくて走ったのに、清和くんは要塞から全然出てこなくて、水を飲んでいるうちに火照っていた体と頭がだんだん冷めていく。
あれ、おれ一人でテンションおかしくなってたんかな。
冷静になってきたら、自分の舞い上がり具合が急に恥ずかしくなってきた。
幸いおれだけが知ってること。
先にシャワーを浴びて、汗を流して、それから自分のごはんを食べる。
清和くんの作業中は、あまり音を立てないように、いつもキッチンで立ったまま。
清和くんが初めてうまいと言ってくれた自作ごはんは、いつもより美味しくできた気がする。
♪
(そしてこれはどうしたらいいのか)
清和くん、おれが帰ったの、気づいてるよな……?
洗い物もしてたし。
でも要塞から出てくる気配がなくて。
(声掛けに来てくれるとか妄想しちゃったけど……
ないよねー……うん、それが現実の清和くんだって分かってたし)
要塞にこもってる清和くんからおれに話しかけてくれるって、あまりないこと。
おれがおやすみって声かけて、清和くんが半分くらい振り向いて生返事してくれるくらい。
だからおれたちが会話するのは、音楽やるときか、清和くんの出勤までの時間が主だ。
ただ、昨日のあの雰囲気……
なかったことにされるのはちょっと悲しい。
(でも待ってちゃだめだよな。ちゃんと、話しておいたほうが)
大体、あの流れもおれのせいな気がするし。
「清和くん……」
「ちょい待って」
一切振り向かずに、マウスをカチカチやる清和くん。
音が一つ、また一つと追加されていく。
「あ、急ぎじゃないから、明日でもいいよ。
邪魔してごめん」
「んー」
生返事。
入り込む隙間がなかった……
今日は仕方ないか、と寝室に入って、寝転ぶ。
でもすぐに昨日の熱が思い出されて、体をぎゅっと丸めた。
「源吾」
うとうとしかけていた耳に、清和くんの声が響く。
「区切りついた」
「おつかれ」
清和くんがベッドに上がってきて、おれの背中に密着してきた。
「あの……えっと……」
「ん?」
抱きついてきて、ん?って!確信犯!
ちゃんと言わなきゃ。
これは流される方向になりそうなので、起き上がってベッドの上になぜか正座をしてしまう。
「昨日は、その。
すいませんでした」
「何が?」
「えと……おれも何でか覚えてないんだけど、その、清和くんに甘えちゃったと思ってて……」
「ああ。かわいかった」
「!!?」
清和くんも起き上がって、胡座をかいて座る。
「変な雰囲気にして、ごめん……
あの、知ってるか分かんないけど、おれは……ゲイで」
「知ってるよ。あのとき聞いてたし」
「あ、やっぱり……じゃあ分かってて、連れてきてくれた?」
「ん」
「そうなんだ……そういうの、抵抗ない感じ?」
「つうか、おれも、そうなんだよね」
「え」
思いがけない言葉に、一瞬思考が止まる。
「そうって……おれと、同じ……」
「おれも、ゲイだよ」
「まじで……」
心臓がドキドキしてる。
この人がゲイでよかったという思いと、それならおれたちはこれからどうなるんだろうという緊張。
ゲイ同士だからといって好き合えるかはまた別だから。
「えっと、その……
よかった、って言っていいのかな。
いや何か変な言い方かもしれないけど、その。
ノンケだったら望みないし」
「へえ、望んでくれてた?」
「えっ……」
うわぁぁ。
無意識に言っちゃってた。
清和くんが笑顔になってるけど……やば、かっこいい。
あわあわして頭が沸騰しそう。言葉が出てこない。
「付き合う?」
「……っ、はいっ」
言われてしまった。
言われてしまった……
「てか、おれで、いいの?」
「“でいい”じゃなくてさ。
まあ、ワンチャン、こっち向いてくれたらいいなって思ってて……」
清和くんがちょっと照れてる……なにこれ尊い。
「それっていつからの話?」
「おまえのライブ、2、3回見てたんだよ。
いいプレイヤーだなとは思っててさ。
解散だっていうから声かけるつもりではあったんだけど、行くとこないって言うから連れてきたわけ。
俺的には有りだったし、彼氏と別れたって言ってたから、まあ、そうなることも考えて」
えー。
そういう風に思ってくれてたんだ。
おれが清和くんのことばっかり追いかけて、清和くんがこっちを見てくれることあるのかなって不安になってたけど……
ずっと見てくれてたんだ。
めっちゃ嬉しい。
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
正座のまま、清和くんに頭を下げる。
「ふっ、ヨメみてぇ」
「ヨメっ!?」
「あーかわいい。こっち来い、源吾」
やっぱり、何回かかわいいって言われた気がするけど、そういうことだった。
膝で清和くんの方へにじり寄って、腕が触れ合い、ハグを交わす。
(あー……うれし……)
多分、ずっと人恋しかった。
あの日清和くんに拾われただけでも、随分と救われたと思う。
でもその人が今本当に、受け入れてくれるなんて。
ハグをほどくと、目の前には清和くんの顔。
そのまま、キスへと続く。
(やっぱ、えろ)
だんだん深くなっていく度合いが、絶妙で。
あっという間に体は反応してしまう。
「するか?」
「したい」
「道具、買っといたから」
「おれも……風呂のとき、一応、準備した……」
「ヤる気じゃん」
「おれお盛んな二十代やし」
「俺はおっさんってか?」
「貫禄はあるかな」
「なんだそれ」
「大人の色気。まじでかっこいい」
♪
ベッドに仰向けになり、下から清和くんをうっとりと見上げると、
その色気ダダ漏れの視線が降ってくるよう。
もうそれだけで、体が熱を持ってくる。
初めて見る清和くんのカラダは、それなりに厚みがあって、そそってくる。
逆におれは、いわゆるゲイ受けする体つきじゃないから……
「鍛えたほうが、いい?」
「いや。
おまえがベース弾いてるときの、前腕の筋肉の筋がくっきり出てるのがいいわ」
あーもう、そういう視点がエロい。
上にまたがられて、右腕を取られて、その前腕を軽く喰まれる。
そのまま、指にも唇が触れていく。
「おまえの手も、エロいな」
「……清和くんだって」
下にいるまま、清和くんの片手を取る。
鍵盤をがっちり掴む手。
おれに触れてくると思うと、中から熱がせり上がるよう。
またキスを繰り返して、体に触れ合い、高まり合って。
ゆっくり加減を確かめながら、進んでいく。
後ろから抱きしめられて、顔を振り向かされて、その先のキスはすごく情熱的。
(嬉しい……)
こんなに丁寧に愛されるのを、知らなかった。
力技じゃないのに、むしろスローなくらいなのに、こっちの方がずっと満たされる。
「めっちゃいい……」
「これ好きか?」
「すき……」
「かわいい、源吾」
抑えたような声が、一層色気を帯びていて。
ああもう、声で孕みそうってこういうことなのか。
すっかり溶かされたところで、今度は前からも迫られて。
覆いかぶさられるのが、たまらなく切ない。
(あー……オルタードスケール練習しとかなきゃ……)
両方賢者タイム中、抱き合ったままでぼんやりとそんなことを考える。
「源吾、次いつライブ出ることある?」
「んー……来月一件頼まれてる。バリバリのJロックって感じ」
「観に行こうかな」
「清和くんの好みじゃないかもよ」
「それはいいんだよ。
おまえがどんな音楽の中でどんなアプローチしてるのかを見たい」
「はは、もはや監督?」
「監視じゃねーよ。おまえならバンドに合わせた音作りができるって思ってるし」
「めっちゃ評価してくれるやん」
「“スピネル”のときから、そう思ってたよ」
「……まじで?」
「まじで。おまえを拾えてよかったわ」
「……清和くん大好き」
「よしよし」
清和くんに抱きついて、胸に顔を埋める。
頭を撫でてくれる手は、大きくて、やさしくて。
心からの安堵とともに、深い眠りに誘われた夜だった。




