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最悪の裏切り

1995年 ジャカシティ 郊外

 砂漠の真ん中に小さな村があった。メキシコの不法移民が暮らす村だ。

 その村に通じる道なき道を走るバンにライアンとドリアン、そして麻薬売人ゴラウスの手下のジュリアンは乗っていた。「クソ、どこからフアレスと私たちの取引情報がもれたのかしら・・・あなた達、内部をしっかり調べなさい!」とイライラしてジュリアンは叫んだ。

 「何だ、見たこともねえ連中だな。」村の中央にある巨大な倉庫の管理人がつぶやき、二人の護衛がライフルを掲げる。

 彼らの前にバンを止めたライアンは「ったく・・・ひでえ歓迎だぜ!」と言った。「ふん・・・仕方ねえ、両手を上げて降りるぞ。」とドリアンは言い、「ったく、あんたらのせいで最悪よ!」と叫びながらも渋々ジュリアンも降りる。

 両手を上げる三人を見て倉庫の管理人が怪訝な顔をする。「黒人男二人に白人女性一人・・・どういうことだ?」するとジュリアンが吐き捨てるように言う。「この黒人どものもめごとに私たちが巻き込まれたのよ!ミゲルには会えないかしら?」「ミゲルさんは今忙しい。」「そうか、そうだろうな!あんたらはゴラウスだけじゃなくハイチ人にもヤクを卸してるからな!」と叫ぶドリアン。

 「まあそう怒るなよ。我々はゴラウスにヤクを卸した。あんたらは多分ソマリア系だろ?ゴラウスとあんたらの取引は知らなかったよ。」と言う声がしてダークスーツを着た一人のメキシコ系の青年が歩いてくる。

 この村の村長かつフアレス・カルテルアメリカ支部長のミゲル・ラージャだ。


 ミゲルは自分の住んでいる邸宅の庭のテーブルに三人を招いた。

 「随分と豪華な場所じゃないの。」と呆れたように言うジュリアンは当たりを見回した。

 テーブルは木々に囲まれた芝生の中心に置かれており、真後ろにはベランダがあった。ベランダの上には多くの鉢植えがあり、綺麗な花を咲かせたサボテンが植わっている。その隣にはプールがあり、ミゲルの同居人のギャング達が泳いでいる。

 「麻薬は金になるからな。ところで、あんたらは撲に文句があるみたいだけど何だ?」と笑顔を崩さないミゲル。バディダは内心不気味に思った。

 「リムソンシティのハイチ系ギャングとの取引を中止してくれないか?奴らに売る予定だったヤクは俺たちが買い取る。」とドリアンが言う。「なるほどねえ・・・」と顎をかきながら考えるミゲル。だがジュリアンが言う。「いいえ!もしソマリア系がフアレス・カルテルからのヤクを仕入れるなら私たちを通しなさい!私たちがリムソンシティのフアレス・カルテル産ヤクの窓口となってる筈よ。」「はいはい、分かったよ。確かにゴラウスがフアレス・カルテルのヤクを扱ってる。だけどどっちみちハイチ系はフアレス・カルテルのヤクを売る権利はない筈だ。」「ううん・・・撲に言われても困るぜ。こっちとしては頼まれたらヤクを売る。ただそれだけの話だからな。ゴラウスもハイチ人も金をきちんと払ってくれる。だからヤクを売る。リムソンシティの情勢は詳しくないから、ヤクの扱いを巡ってはそちらできちんと取り決めしてくれ。僕はただ本国から送られてくるブツを保管して売るだけだ。抗争なら勝手にやってくれない?僕は本国のボス直属部隊みたいに血の気が多いたちじゃないし喧嘩は嫌いだ。」「そこを何とか頼むぜ!」とライアンは言うがドリアンが止めた。「仕方ねえ、とりあえず今日は引き下がろう。またアブデイの家で会議だ。」


 「はあ・・・どこから情報がハイチ人側に漏れたのよ!」とジュリアンは言うがライアンが言い返す。「おいあんた、勝手に俺たちのせいにしてるがあんたのお仲間の可能性だってあるんだぜ!第一俺たちはハイチ人を憎んでいる。わざわざあんな奴らに手を貸すような奴はいねえ。怪しいのはむしろあんたらだぞ!」「はあ!?馬鹿じゃないの。ハイチ人がヤクを売ったら私たちのリムソンシティでの立場が脅かされるじゃないの。」ジュリアンが言い返す。「あのなあ・・・」とさらにライアンが反撃しようとしたところでドリアンが叫んだ。「二人とも黙ってくれ!いいか・・・いいか・・・とりあえずハイチ人をどうにかしよう。俺たちは会議を開く。あんたもボスと協議してくれ。」


翌日 サン・ドリル地区

 「このままだとハイチ人どもが有利だ。俺たちはゴラウスから仕入れているが、奴らは直接カルテルと取引している。直接仕入れるから仕入れ値は安くすんでいる。まずいぞ。」とパッチドが言う。アブデイが頷く。「まずいな・・・奴らに貧民街の市場を支配されるぞ。」それに対してモハドが言う。「なるほどな・・・だけどハイチ人のビジネスパートナーはフアレス・カルテルの連中じゃない。サイード・カルテルの筈だぞ。奴らがハイチ人を許すか?」「許すも何も奴らはまず焼き払われた分のヤクを本国から補充しなきゃならない。今は奴らの手元には灰となったヤクしかねえからな。ハイチ人に文句を言える立場じゃねえな。」とドリアン。「じゃあ・・・チカーノや中国人と協力するか?」「サイード・カルテルが協定の再構築に向けて動いてる。もしチカーノや中国人と協力するとなればサイードと同盟関係になる。奴らがヤクを手に入れたらサイードから仕入れる羽目になるぞ。」「じゃあどうすればいいってんだよ!」「皆落ち着け!いいか、何も俺らの市場は貧民街だけじゃない。ムショにもヤクを流してる。ブラックスネイクスの同意を得た以上、ストリートからムショへのヤクの流れは俺たちが管理できる。貧民街はハイチ人にくれてやってもいい。だがその分のヤクをムショに回そう。ブラックスネイクスと協力すればハイチ人どもも大人しくなるさ。それに貧民街でハイチ人どもがフアレス・カルテルのヤクを売ればサイード、チカーノ、トライアドの協定と対立する。奴らは破滅するさ。」と冷静に分析するアブデイ。だがモハドが反対する。「ヤクの買い手がムショだけだときついぞ。確かにブラックスネイクスは強力な後ろ盾となるだろう。だけどムショ内の情勢は複雑だ。どうやらホワイトパニッシャーズの攻勢が激しくなってるようだぜ。ムショ内の仲間から聞いた話じゃあ、食堂で四人の仲間がホワイトパニッシャーズの連中に刺し殺されたってよ。」「くそ、まじかよ・・・」とパッチドが舌打ちをする。

 全員黙って考え込む状態が少し続いた後、アブデイがとある策を思いつく。「ブラックスネイクスに武器を売ろう。」「武器?だけど俺らが持っているのはせいぜい・・・」「分かってるさ。だけど今ヤクがなくて財政的に苦しい奴らがいるだろ?」「まさか・・・」「そう、そのまさかだ!サイード・カルテルさ。ヤクは本国での製造に時間を要するが、武器ならばすぐに取引先に注文できるだろう。奴らの武器を買い取ってムショに流すぞ。副業だ!」と叫ぶアブデイ。


同日 真夜中

 「やっぱり温水プールは最高だな。」と言ってエドウィンは体を拭いた。彼は今自宅のプールで真夜中の運動を終えたところだ。

 ローブを着たエドウィンはプールサイドの椅子に座り、クーラーボックスを開いてビールを取り出し、飲み始める。

 そのとき、背後から足音。「ああエレンどうした?」と振り返らずに言ったエドウィンに帰って来たのは鋼のように冷たい女の声。「エレン?あんたの家の使用人かしら?彼女なら今縛って玄関前に転がしてあるわよ。」

 エドウィンは驚愕して思わず後ろを振り返り、驚きで目を見開く。「お前は・・・」「こんにちわ。」

 ジュリアンが引き金を引き、エドウィンの胸を撃った。エドウィンがのけぞる。「とどめは譲ってやるわ。」とジュリアンが奥に呼びかけると暗闇の中からライアンが現れる。「俺たちとゴラウス、フアレスとの取引情報をハイチ人に流したのはてめえだな!」ライアンは倒れてうめくエドウィンを見下ろした。「君は・・・何を言って・・・くそ・・・私じゃ・・・ない・・・」「黙れ裏切り者!」ライアンは叫ぶとエドウィンの頭を撃ってとどめを刺した。


翌日 ホーネット地区

 「あんたらはムショに武器を追加するだけでいいだろうが本来フアレスのヤクは俺たちが扱う筈だったぜ!」とゴラウスが叫んだ。「そういう取り決めにはなっていたな。だけどフアレスの奴らとやり合えばあんたらもつぶれるぞ。」とドリアン。「そうだな!だけどなあ、フアレスじゃなくてハイチ人を潰せばいい話だろ!?ハイチ人はあんたらの宿敵だしな。」とごねるゴラウス。「だからよお、潰すためには武器をムショに流して俺らの権力を強化する必要があるだろうがよ!」とモハドが言い返した。「ああ、そうかもな。だがこっちとしては手っ取り早くいきてえんだよ。俺たちは勝手にハイチ人に攻撃するぜ。」「おい待て・・・貧民街に介入するな!あんたらはハイチ人から直接市場を奪うつもりだな!?ハイチ人があんたにとって代わるんだろ!」モハドの怒りは爆発し、ゴラウスにつかみかかる。それと同時にジュリアンがピストルを腰から抜く。「おいモハド、やめておけ。ハイチ人は勝手に壊滅すると思うがハイチ人にこいつらが攻撃してくれるんだから助かるよな?今回はあんたらにやらせておくよ。だけどハイチ人の市場をあんたらが奪って俺らを脅かすことがあれば・・・俺らだってフアレスと直接取引するぜ。」ドリアンはそう警告すると不満顔のモハドを連れて行く。


2時間後 サン・ドリル地区

 「よし、着いた。危ねえからお前はここで待ってろ。」と言ってライフル片手に下りていくパッチドをライアンは不安そうに見送る。

 サイード・カルテルのデック宅の周りを警備するラキアンラッツのメンバーが一斉にパッチドにライフルを向けるのが見える。パッチドは冷静にデックを呼ぶように頼んでいるようだ。

 ログハウスからサイード・カルテルの傭兵が出てきてパッチドの手からライフルをむしり取った。ライアンはピストルを手に握って動向を伺う。

 パッチドは無防備な状態でログハウスの中に入ったようだ。


 数分後、無傷な状態でスーツケースを持って来たパッチドを見たとき、ライアンは安堵した。

 「デックとの間に商談がまとまった。奴らの持ってる銃のサンプルだ。」と嬉しそうにスーツケースを指さすパッチドにライアンは抱き着きたくなった。

 ライアンは恋人の死を経験した。この上兄のパッチドを失いたくなかった。


四日後 バーネット刑務所

 ブラックスネイクス派の刑務官が独房からデゥラハンを連れ出し、ブラックスネイクス支部長のバロンの独房に連れて行った。

 「よおバロン、話があるとか?」「ああ。あんたのギャング・・・ピンキーライオンズに関わる重要な情報を手に入れた。ハイチ人系の囚人からな。俺はストリートの情勢には介入しねえが、あんたにはヤクを入れてくれた恩がある。俺が直接動くことはしねえが情報をやるよ。裏切り者についてのな。」


翌日

 「おおデゥラハン、久しぶりだな。で、どうした?」アブデイはデゥラハンからの電話を取る。「情報?アブデゥライについてか?あ、違う?なるほど・・・ああ、ああ・・・何だって!?」アブデイはデゥラハンから伝えられた内容に驚愕しているようだ。


同時刻

 「ライアン、ボスから呼び出しだ。」何やら深刻そうな顔のドリアンが言う。「ボスから?どうしたか?問題発生か?」ライアンはそう聞きながらピックアップトラックの助手席に乗り込んだ。ドリアンは無言でエンジンをかけるとピックアップトラックを急発進させた。


7分後

 「やあボスどうし・・・!?」ライアンはアブデイの部屋に足を踏み入れて驚くことになる。

 涙を流したアブデイが銃口をライアンに向けているのだ。そしてドリアンも背中にピストルを押し当ててくる。

 そしてアブデイから衝撃の一言。「裏切り者はアブデゥライの他にもう一人いた。サツへのタレこみはアブデゥライだ。だがハイチ人やデックや奴が参入する協定側に情報を流したのはあんたの兄だ。デゥラハンからの命令を伝える。ライアン、兄を殺せ。」


同時刻

 シルバーウルフのボスジョナスンは電話機を取った。「よおバロン、久しぶりだな!で、どうした?」「公平を期すためあんたにも言わねえとな・・・スパイの正体をデゥラハンに伝えたよ。手間をかけるが別のスパイを作って・・・」「俺としては構わねえよ。スパイなんてバレる前提さ。そろそろ奴に渡す金惜しくなってきたしよ。」

 ジョナスンはすぐに別の電話をかける。


 パッチドは電話に出た。そして不快な声に眉をしかめる。「何だよ!俺はもう十分やったぜ。」それに対してジョナスンの笑い声。「そうだな!あんたはもう働いた。だから用なしだ。」「よっしゃ!じゃあお前らはかつての敵だな。」「そうだな。俺らは敵対関係に戻る。もっとも俺にとってはそれだけだが、あんたは大変だぜ!あんたのスパイ行為をバロンを通じてデゥラハンに流した奴がいたようだな。」「何だと!?」「とっとと逃げたほうがいいぜ!じゃあな!」そう言って切れた電話を前に唖然とするパッチド。そしてすぐさま行動を開始した。



 「くそ、くそ!」後ろからモハドに銃を突きつけられている状況でライアンは泣きながらアクセルを踏み込んだ。

 「パッチドを殺せばあんたは幹部昇格だとデゥラハンが言っていた。つらいだろうが頑張れよ。」と助手席のアブデイが言う。

 パッチドの家についた頃のライアンはうなだれながらもその顔には決意が宿っている。

 モハドにピストルで背中を突かれながらもライアンは確固たる足取りでパッチドの家に近づき、扉をけ破った。

 「兄さん!」と叫ぶライアンの耳にエンジン音が聞こえる。

 「くそ!感づかれた!」とアブデイが言って裏庭で地団駄を踏む。

 一同の目に走り去るピックアップトラックが見える。


 10分後

 パッチドはピックアップを乗り捨てるとデックのログハウスに駆け寄る。

 「ジョナスンが楽しそうに報告してきた。用意は出来ている。」と待っていた様子のデックが言ってパッチドを待機させていた車に乗せる。

 運転手はサイード・カルテルの傭兵だ。「あとで金を貰うぜ。」と言いながら奴はアクセルを踏み込んだ。



 

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