序章「ネオン街ととんこつラーメンバリカタ」11
彼女の細くしなやかな右手人差し指の先には、幸良の刀があった。
今は彼の腰ではなく、足元に立て掛けてある。
というかそもそもこんな刀を持ち歩いて銃刀法違反とかでよく怒られなかったな……と、ここにきてようやくリアは感じた。
一件すると模造刀のようなそれこそ刀オブ刀な代物だ。
しかしリアは確かに見たのだ。
この刀が男のスキルによる攻撃を斬り落としたのだ。
巨大な石の塊をあっけなく一刀両断にしたのだ。スキルで作られたものを防ぐことができる武器というのは、リアは知らない。
だからこそ彼の持っている刀が気になったのだ。
「ん? こいか?」
リアがうんうんと首を縦に振る。
幸良は箸を置き刀を手に取る。そして、少しだけ抜いて刀身を見せる。
白熱灯の明かりを反射して、暖簾を照らす。
キンッと心地良い音を鳴らして刀を納める。そして、ようやく幸良は話しだした。
「こいはちょっと変わった刀なんだよ」
「変わった? スキルを斬るというところでしょうか?」
「そうたい」
「ではベッキーのスキルはその刀ですか?」
スキルホルダーの持つスキルの中には武器を作り出すスキルもあったりする。
ならばスキルを斬る武器を作り出すスキルがあっても、それはありえない話ではない。
「いや違う。俺のスキルは――」
幸良は人差し指をピンと立てる。その先に意識を集中させると、バチバチと小さな火花が飛んだ。紫電のように見える。
「この電撃を出すスキル『雷射』ばい」
「そうだったのですね。しかし、初めて見ました」
「そらそうやろ。これは俺の知る限り世界に一振りしかなかと思う」
「では、その刀はどこで手に入れたのですか?」
何気ない質問だったのだが、彼女の疑問を聞くと答えに窮した。
そして正面を向き、リアを見ずに言った。
「そいは親父の形見さ」
「形見……」
彼の言葉を反芻する。しまった……。いくらなんでも無神経過ぎたか……。
なんと言えばよいかリアが次に出すべき言葉を選んでいると、彼女の「形見」という言葉を返事と取ったのか、「ああ」と漏らし続けて、
「俺の親父とお袋は数年前に死んだったい。正確には殺されたんだよ」
リアは息を呑む。
ますます返すべき言葉が見つからなくなってしまった。
まさかこんなところでほとんど初対面の人の身の上話を聞いてしまうことになるとは……。
「えっと……すみません」
彼女に言えることはそれだけであった。
「別に謝ることはなかろうもん。気にせんでよか」
彼の言葉は庇うわけでも強がりで言っているわけでもないことはすぐにわかった。
幸良は再び顔をリアへと向けると、にっこりと笑った。




