第87話 追跡
ソウア=シダヨの行方は、九千防の配下が捜索していた。だが、今回のソウア=シダヨが敗戦したことで、クオカフ地方の各地で、謀反が発生しているそうで、九千防の配下も捜索に苦労しているらしい
『どこかで捕まったという話もないですわ!』
コチュカはガサ飛行場に設けられた一室で楽しそうに言ってのけた。
『絶対的に君臨していたはずが、落ち目になった途端、手のひらを返してしまうのだよ』
狐稲荷は悟ったように言った。
(まあ・・・確かにそんなことも・・・)
ジュアルにインストールされている知識には、明らかにこの世界でない事件の記憶が入っていた。
『ソウア=シダヨにひどい目にあった人たちはこの機会を逃さないだろうし~』
どうやって来たのか分らないのだが、一反木綿のユウが周囲を飛び回りながら付け加えるように言った。
・・・
『申し上げます。ソウア=シダヨとその護衛たちと思われる一団が、ラツカの街にあった船を強奪、乗り込んで出港していったとのことです』
ガサ飛行場に設置された魔方陣にやって来た九千防の配下が叫ぶように言った。
『どんな船だったのかわかる?』
ジュアルは報告してくれた、九千防の配下に言った。
『はい。彼らが強奪した舟はラツカの街にあった領主様用の船で、出港していくとき、周囲の船に火をつけていったそうです。なので、かなり大きい船です』
(かなり、大きいといっても、小型船舶の範囲だよな・・・多分)
この世界で19tを超える船が出来そうに見えなかったのである。ジュアルにインストールされた知識は、小型船舶であると推定させていた。
『あそこから行けるとなると、キイ島か、その先のシマツ島くらいね。ガサキナ地方は、領主たちがソウア=シダヨに恨みが沢山あるから、もし向かっていたら殺されるわね』
コチュカがあっさりと物騒なことを言った。
(多分あっているのだろうけど・・・)
ジュアルは思わず苦笑していた。
『キイ島もマツ島もガサキナ地方だけどねえ~』
一反木綿が言った。
『キイ島もマツ島もまだソウア=シダヨの身に起きたことを知らないだろう・・と思っているはずだよ』
狐稲荷がソウア=シダヨの心理を予測、解説していた。
『解かった。ソウア=シダヨが乗っているらしい船を探そう』
・・・
ガサ飛行場のウエストエプロンのスポット21に移動したジュエルは、異次元ポケットに収納していていたBE36を取り出した。
『飛行機が変わっているう~』
一反木綿が楽しそうに言った。
今回は、後部座席に一反木綿とコチュカを乗せることになった。コチュカはBE36に乗らなくても転移してきそうなのだが、本人曰く、
『行ったことがないところには転移できないのですわ』
なのだそうで、キイ島もマツ島も行ったことがないコチュカはBE36に乗ることになったのである。
(上空から探してもらうのに丁度いいか・・・)
ジュアルは、外部点検をした後、コチュカを後部座席に座らせ、シートベルトをつける。コチュカは当然、そんなものは知らないし、嫌がったのだが、有無を言わさずジュアルは装着させた。一方、一反木綿はおとなしく、後部座席に折り畳んだ状態で座っている。彼にはシートベルトは意味をなさないし、装着できないからである。
その後、ジュアルは操縦席に座り、各チェックを行った後、エンジンをスタートさせた。
一反木綿は慣れてしまったのか、気にしていないが、コチュカはエンジン音に驚いて騒いでいる。シートベルトで縛り付けているので襲われることは無いだろうが・・・。
滑走路に移動して最終チェックの後、R/W29から離陸、離陸上昇しながら、右旋回してラツカの街に向かう。右に見える山に注意しながら、高度2500ftで水平飛行に移行。脚とカウルフラップを閉じると、本来の速度になった。
『早いねえ~』
一反木綿が楽しそうに外を見ている。セスナ172より速いことは解るらしい。一方、初めて飛行機に乗ったコチュカは、地に足がつかないのが恐ろしいらしく、硬直して大人しくしている。
(借りてきた猫だな・・・)
捜索の役に立ちそうにないコチュカに呆れるジュアルであった。
・・・
10分ほどで、ラツカの街の上空に来ると、進路をキイ島に向けた。普通に考えれば、近くにあるキイ島に行くだろうと思われたからである。そして、周囲の海面を見ながら飛行していくと、一回り、他の船より大きな船が、キイ島の南にある港に向けて航行していた。
(狐稲荷からは、船ごと沈めてしまえと言われていたな・・)
丁度周囲5マイルには船がいない水域を航行していたので、沈めるならここしかない状況である。
『なあ、ユウ。ここであの船を沈めたほうがいいのかな?』
ジュアルは見つけた船を指さして言った。一反木綿は何か確認するような動作をした後、
『あそこにソウア=シダヨがいるよ。早く沈めようよ~』
と今にも飛び出していきそうな感じである。
『解かった』
ジュアルはそう言うと、船の右に向かって降下を開始した。
降下して来ると、船の形もはっきり見えてきた。木造船なのでよく燃えそうである。1000ftまで降下したところで、船から火の玉が飛んできた。幸い、BE36の上を火の玉は通りすぎていく。
(これで、敵確定だな)
ジュアルは操縦席の小窓を開けると、
船に向かって
『ファイヤーボール』
『ファイヤーボール』
『ファイヤーボール』
を3発放った。操縦しながらだと、照準が合わせにくいからである。3発放った後、一旦上昇回避していくと、3発の内、最初の1発は何故か途中で霧消してしまったが、残り2発は船船首と船尾に着弾した。ファイヤーボールの火が船に燃え移ったらしく、船は船首と船尾が燃え始めた。甲板で火を消そうとしている人影が見える。あのどれかがソウア=シダヨなのだろう。
『サンダーボルト』
ジュアルは船の中央目掛けて雷撃を放った。途中で霧消することなく、船を直撃。船は中央で折れてあっという間に沈んでしまった。
(最初から雷撃でよかったのかも)
ジュアルは船が沈んだ海域を旋回したが、船の残骸以外を見つけることがはなく、そのまま針路をラツカの街に向けたのだった。
・・・
ラツカの街を3500ftで通過したのち、左手の山に気をつけながら、谷のようになっている部分を進んで行くと前方に海が見えた。左前方にはガサ飛行場が見える。
(これで、俺を襲う連中が大人しくなるといいんだけどなあ・・・)
ジュアルはガサ飛行場のR/W11に向けて飛んで行った。
明日で完結です。




