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ソラにいるキミに……  作者: コーキ
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31話 仲間……

 沙弥花からお誘いを受けたその夜、私は年末年始を旅館で過ごしてみないかと佳さんに相談してみた。 温泉と聞いて佳さんは喜んでくれたが、手帳を片手にきゅうりの浅漬けを頬張って渋い顔をしている。


「あ、私当直で無理だわ。 もう勤務のシフト出ちゃってるし、まだ新人だからね…… 休みもあまり自由ではないのよ 」


 そうだよね、入院してる患者さん相手に年末年始も何もないか……


「そうですか…… 佳さんにゆっくりしてもらえたらと思ったんですけど 」


「フフッ ありがとね。 気にしないで楽しんでおいでよ 」


 そう言って佳さんは私が作った美味しくない親子丼を美味しそうに食べてくれる。


「新城さん達にも声を掛けようと思ってたんですけど、止めた方がいいですね 」


「…… なんで? 」


 箸を咥えたまま佳さんは不思議そうな顔をしていた。 だって……


「佳さんが行けないなら新城さんも行かないって言うと思って 」


 パチパチと瞬きをして佳さんは固まってしまう。


「…… なんか私マズイ事言っちゃいました? 」


「いや、なんでそう思うのかなって思って 」


「…… 頑張ってる佳さんを置いて、一人で楽しもうとは思わないんじゃないかな 」


 素直にそう思った。 メールのやり取りをする佳さんの様子を見てても、お店で会話する姿を見てても、新城さんは佳さんを放っておいたりしない。 


「うーん、温泉か…… 場所どこだっけ? 」


「え…… と、定山渓温泉だったと思いますけど 」


 佳さんは再び箸を咥えて手帳を見直し唸り始める。


「…… 佳さん? 」


 「いやね、孝太もしばらくどこにも行ってないからさ。 いい機会だし温泉くらい行かせてやれないかなと思ってね。 30日なら日勤だし、定山渓ならタクシーでなんとかなるかな…… 」


 佳さんはおもむろにスマートフォンを取り出し、定山渓までの行き方を調べて私に手渡してくる。


 「はい、孝太に連絡してやってよ。 夜遅くなってもいいなら私も行けるかも。 地下鉄で真駒内まで出れば、タクシーで30分くらいみたいだし 」


 ― おぅ、どうした? 桂 ―


 うわっ! スピーカーから突然新城さんの声が聞こえた。 受け取ったスマホは既に新城さんに繋がってたらしい。 


「こ、こんばんは新城さん! 夜遅くごめんなさい 」 


 慌てて返答する私を見て佳さんはクスクスと笑っている。 頬を膨らませて怒った表情をして見せると、ペロッと舌を出して浅漬けをつまんでいた。


 ― 藤堂さん? こんばんは、どうしたの? ―


「あの…… 新城さん、年末年始って何か予定入れてますか? 」


 ― いや、特に何もないけど…… ―


 チラッと佳さんを見ると、何食わぬ顔で口いっぱいに親子丼を頬張っている。 私が誘えということらしい。


「あの…… お、温泉でも行きませんか? 定山渓温泉なんですけど…… 」


 なんか気恥ずかしい…… 別に新城さんと二人で行く訳じゃないのに、私からデートに誘ってる気分になってくる。


 ― 定山渓? 日帰り? ―


「あ、いえ…… 泊まりがけでなんですけど。 実は…… 」


 ドキドキする胸を押さえながら、出来るだけ順序よく今回の話を新城さんに伝える。 『うん、うん』と相づちを打ってくれる新城さんの声は優しい…… 皆で温泉に行きませんかというだけの話なのに、胸のドキドキ感は収まらない。 これが好きですなんて告白なら、心臓がパンクしちゃうかも。 告白する人達が神に思えてきた。


 ― え? 温泉旅行ですか? 孝太さん!  うわっ瑠依ちゃん!  こら瑠依! 盗み聞きすんなよ! ―


 スピーカーから浜松さんと小野の賑やかな声が聞こえてくる。 仕事終わったところだったのかな?


 ― あ、遥ちゃん? 瑠依だよー ―


 スピーカーからの音が少し変わった。 新城さんもスピーカーモードに切り替えたみたいだ。


「こんばんは浜松さん。 小野さんと浜松さんもどうですか? 」


 ― 桂は大丈夫なのか? 仕事入ってるって言ってなかったっけ? ―


 小野さんが聞いてくる。 そっか、新城さんだけが佳さんを心配してる訳じゃないんだ。 強いなぁ…… この人達の関係。


「大丈夫よ。 日勤終わってから行くから遅くなるし、一泊しか出来ないけど。 瑠依ちゃんには悪いけど、私がいないと寂しいの? 」


 ― バーカ、お前が泣くからだろ ―


 スピーカー越しに笑い声が聞こえる。 いいなぁ、こういう雰囲気。 いつの間にか胸のドキドキ感は収まって孤独感が沸いてきた…… なんだか茅の外って感じがする。


 ― それじゃ、矢作さんだっけ? 30日と31日でお世話になりますって伝えてくれる? ―


 慌ててハイと答えて通話を終える。 いつの間にか佳さんは食べ終わった器をキッチンに下げて洗い物をしていた。


「あ! 私やりますから佳さんは座ってて下さい! 」


 キッチンに駆け寄ると、『いいのいいの』と笑顔でスパッと断られる。 佳さん疲れてるのに……


「誘えて良かったね 」


 鼻歌混じりに食器を洗う佳さんこそ嬉しそう……


「ハイ、羨ましいなって思います 」


「…… 何が? 」


「年末とか予定入ってるかもしれないのに、迷う素振りなんか見せずに二つ返事でいいよって。 佳さんも新城さんも小野さんも浜松さんも、ホントに仲いいなぁって思って 」


「そうだねぇ…… 孝太と司は別として、瑠依ちゃんは気さくであんな性格だからすぐ仲良くなれたかな。 私にとってもなんか妹みたいって感じかな 」


 皿の泡を流しながら佳さんは私の顔を見て笑っていた。


「元気いいですもんね、浜松さんって。 羨ましいな…… 」


「そうじゃなくて。 遥ちゃんももう私にとって妹みたいに感じてるんだけどな 」


 え……


「ほら、そんな顔しないの。 全部とは言えないけど、皆は遥ちゃんにも心開いてるんだよ? 」

 

 え? だって……


「だって私…… 皆さんとまだ出会って日も浅いし…… 」


「長い短いなんて関係ないじゃない。 思ったことぶつけてみなよ。 良いも悪いも、きっと皆は応えてくれるよ 」


 どうしよう…… いてもたってもいられず、私は佳さんの背中にそっと抱き付いてしまった。 佳さんは私を振り払わず、お皿を洗い終わってもしばらくそのままの態勢でいてくれた。 

 

 こういうの、凄くいいなぁ……


  

  

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