26話 恋心……
12月も後半に入り、札幌市内も雪が積もり始める。日中には気温が上がり大半が溶けてしまうのだが、歩道や車道の脇にはシャーベット状の灰色の雪が残ったままになっていた。
私の高校の教室も、これから迎える冬休みやお正月の話題でクラスメイト達が賑わっていた。
「ヒナは今年どうするの? やっぱりお父さんの実家に帰っちゃう? 」
「そうなるかな。 こっちに残るのお父さん許してくれるかなぁ…… 皆と初詣とか行きたいし。 ハルちゃんは? 」
「ヘ? 私? 」
ボーッと二人の会話を聞いていたので自分の名前にちょっとビックリした。 香織が呆れてため息をついている。
「年末の話よ、聞いてた? ヒナはパパの実家、私はたっくんの厨房。 あんたはどうするの? 」
「たっくんの厨房!? ってどういうこと? 」
香織の顔が徐々に赤くなり、頬に両手を当てて体をくねらせ始める。 遠くを見るようなキラキラの乙女の瞳…… ちょっと気持ち悪い。
「小野さんカッコ良くない? 大人の魅力みたいな、ずっと見てたいなぁ…… って 」
「いや、小野さんには浜松さんって可愛い彼女いるし 」
「付き合うとかそんなんじゃなくてさ、見れるだけでいいっていうか 」
一種のアイドル的なものなのかな…… よく分かんない。
「えー! ちょっとヤンキーっぽくて私は苦手だな。 それならもう一人の方が私はいいなぁ 」
日向までそんなことを言ってる。 新城さんには栞さんや佳さんがいるのに……
「止めときなよヒナ。 新城さんはライバル多いし強敵だよ? ヒナのタイプでもないしょ 」
「どっちか選ぶならの話だよ。 どことなく寂しそうっていうか…… 癒してあげたいなって思っちゃう。 あぁ…… ハルちゃんもしかして! 」
肘で小突いてくる日向の顔がいやらしい。
「ち、違うよ! 確かに新城さんはカッコいいけどそんなんじゃないって! 」
「そんなことあるでしょ? 遥、最近凄く明るくなったもん 」
言われなくても自分で分かってますよ…… 新城さんがいたから今の私がいるんだもの。 でもそれは栞さんや佳さんがいるからで、私が新城さんに気に入られたワケじゃないと思う。
「告っちゃいなよ遥! 年上でも全然いいじゃない 」
香織が私の両手を掴んでとんでもないことを言ってくれる。 そんなこと佳さんの前でできる筈ないじゃない……
「遥! 好きな人いるの!? 」
突然後ろから肩を捕まれてビックリした。 横からヒョコっと顔を出したのは沙弥花…… 聞かれたくない人に聞かれてしまったかも。
「そんなんじゃないってば! 尊敬というか、憧れっていうか…… 」
「好きなんでしょ? 」
「…… うん。 でも恋愛ってことじゃないよ? 」
勘違いされないよう念は押したけれど、実際は自分でもよく分からない。 恥ずかしい話、私は今まで誰かを好きになったことがなかった。 好きになれるような人に出会えなかった…… 違う、出会ってたのかもしれないけど、それに気付く余裕がなかった。
「…… 全然説得力ないけど。 なんかいい顔するようになったんじゃない? 」
沙弥花はクスクスと笑いながら私を除き込んできた。
「え? 」
「ちょっと会ってみたくなっちゃった。 その彼氏さん 」
「だから違うって…… 」
「あ、沙弥花も一緒に行く? そのお店、パフェがめっちゃ美味しいの! 」
香織が余計な事を言ってくれる。 でも香織はやっぱり食い気の方なのね……
仕事の邪魔になるとか迷惑になるからとか色々理由を付けてみたけど、結局上手く断りきれずに私は3人に連行されるようにたっくんの厨房に来ていた。 浜松さんの笑顔に出迎えられるも、噂好きの沙弥花が何を言い出すか分からず気が気じゃない。
「へぇー、あれが遥の彼氏かー 」
厨房のカウンターからたまにチラッと見える新城さんを、沙弥花はパフェを突っつきながら何やら吟味している。
「だから違うって。 変な事言わないでよ? 」
わかってるわかってると笑いながら沙弥花は言うが、その目は話し掛けたくてウズウズしてると言っている。
「どうしたの? ハルちゃん。 パフェ食べないの? 」
「い、いや、食べるけど…… 」
正直パフェはどうでもいい。 私が食べてるより、香織に横から突っつかれて無くなっていく方が多い。
「すいませーん! 」
思い立ったように沙弥花が浜松さんを呼んだ。 ハーイと素早く浜松さんが来てくれる。
「ご注文ですかー? 」
「コックさんを注文したいんですけど 」
「ちょっ…… 沙弥花!! なに言ってんのよ! 」
浜松さんも目を丸くしてる。 沙弥花の物怖じしない行動力は感心するけど、こんなのは私にもお店にも迷惑だ。 浜松さんはチラッと私を軽蔑するような細い目で見た後、少々お待ち下さーいと厨房に消えていった。 私じゃないよ浜松さん…… と心の中で言い訳をする。 程なくして厨房から新城さんが出てきた。
「ご所望のコックですが、何かありましたか? 」
ニコッと沙弥花に微笑む新城さんだけど…… なんか怒ってる?
「いえ…… 凄く美味しいパフェなので、どんな方が作ってるのかなってとても知りたくなったものですから 」
沙弥花は新城さんに微笑み返した。 すぐにそんな話題を作るなんてウマイなぁ……
「ありがとうございます。 藤堂さんの友達かな? 」
「はい、仲のいいクラスメイトなんです 」
確かに仲は悪くないけどそんなに深い仲でもない。 当たり障りないんだったらいいんだけど……
「そうですか。 藤堂さんもごゆっくり 」
挨拶もそこそこに新城さんは厨房に引き上げてくれた。 出来れば沙弥花は関わってほしくな…… あ。
「年上の魅力ってやっぱりあるよねぇ…… 」
うっとりと厨房を見つめ続ける沙弥花の目。 日向と一緒にその顔を覗き込むけど、視線の先は厨房から変わらない。 まさか一目惚れってヤツですか?




